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第4話:テックフルネス・アソシエイトの産声
一週間後。
マルトクテックカンパニーは解体され、新社名『株式会社テックフルネス・アソシエイト』としての登記が完了した。
社内は、全体的に明るく、
軽やかさが広く行き渡っていた。
オフィスでひと息つく社員からポロッと、
「ちがう会社に来てるみたい」
「窓から射す光が明るくなった…空気も、かな」
広い会議室に撮影用のデジタルカメラを入れ、茶色い短髪の男性が一人、最も広い席に着いた。
新社長に就任したエーリッヒ・バルトライン。彼は、井筒が去った後の開発部を「技術のゆりかご」へと戻すべく、大きな決断を下す。
「リーディングカンパニーという幻想は、旧・丸徳とともに捨てました。我々が提供するのは『テクノロジーによる充足(フルネス)』。もはや、人間の愛をAIで代替するような野心はありません」
会議に参加した面々は、水を打ったように静かだった。
バルトラインの傍らには、監修として外部から招かれた井筒治貞がいた。
彼は、パシオ計器から出向してきた腕利きの若手エンジニアと、森|幸千佳(さちか)を引き合わせた。
「森さん、彼が新しい相棒だ。彼も君と同じで『溺愛プランなんて使わない』派だから、気が合うはずだよ」
森は無表情ながらも、少しだけ口角を上げた。
「……使わないですが、作るのには興味があります。今度は、誰も消えない、誰も狂わないプランを」
若手のエンジニアは一言だけ、
「モリさん、これからよろしくお願いします」
森はそれに対し淡々と、
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
初対面の雰囲気は、まずまずな滑り出しだった。
***
一方、野村花子の家では、ハヤトが個人雇用契約書にサインを終えていた。
「株式会社テックフルネス……ふうん、いい名前じゃない。少しはマシな哲学を持つようになったのね、あの会社も」
花子は書類をハヤトに返し、窓の外を見た。
そこには、かつての「マルトク」が追い求めた、歪なユートピアの残骸はない。
ただ、道具としてのAIと、それを使いこなす人間たちが、等身大の距離で暮らす日常が始まろうとしていた。
***
テックフルネス・アソシエイトの管理統括室。
月影は、最後に残った「溺愛プラン」のアーカイブを物理削除するコマンドを実行した。
画面が暗転し、秒速で一つの時代が消える。
「ありがとう、さようなら。……そして、ようこそ」
新しい社名の入った名刺をポケットに入れ、月影はフロアを見渡した。
そこには、臼井とあずさが、新時代の「AI執事」の設計図を囲んで笑い合う姿があった。