コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ミーン、ミンミン、ミーン。
煩い蝉は、四十度近いこの暑さをさらに燃え上がらせるようだった。
クーラーの効いた部屋でも、ひとたび、外に出れば、地獄で、ベランダなんて出る気にもなれなかった。かといって、クーラーの効いた部屋にいすぎるのも身体に悪い。それは分かっていたが、クーラーを消すなんていう、選択肢は俺にはなかった。
「暑い~星埜、もっと温度下げて」
「お前、体調崩すぞ……てか、なんでまた人の家に転がり込んで着てんだよ」
昨日の今日。
昨日の朔蒔は嘘のように、いなかったのかと思うくらい平然と、また「来ちゃった♥」なんて言って朝早くから、俺の家のチャイムを鳴らしまくっていた男、琥珀朔蒔。
本当に、此奴のメンタルというか、頭の中がどうなっているか知りたかったが、どうせろくなもんじゃないだろ、と見る気も無かった。
そして、昨日までは長袖長ズボンだったくせに、今日は黒いタンクトップと長さの合わないぶかぶかのズボンをはいてきていた。まあ、肌の見える所は何かを隠すように包帯だったり、湿布だったりが張ってあって、実際そこにどんな怪我があるのか分からなかった。聞くなっていうオーラを出しているから、別に聞こうとも見ようとも思わないけど。
(……彼奴の踏み込んで欲しくないライン……)
そんなことを、思いつつ、ごねて、リビングで仰向けになって、駄々をこねるように、手足をばたつかせる朔蒔を見ていると、蝉よりも鬱陶しく感じて、俺は「暴れるなら、帰れ!」とぴしゃりと朔蒔にいう。すると、ピタリと止って、朔蒔が身体を起こし「やだ」と真顔で言うのだ。本当に此奴の情緒がどうなっているのかだけ、知りたい。
「……あーあー、お前のせいで暑いんだよ」
「俺のせいにすんなって星埜♥ 暑いのは、俺に会えて、ドキドキしてるからじゃねーの?」
なんて、ケラケラ笑っていう朔蒔。
少し図星で、俺はんぐっと喉が鳴る。それを見て、朔蒔が「え? マジなの?」と嬉しそうによってきたので、これはまずい、と俺はどうにか話題を逸らそうと考える。
確かにそう……といえば、そうだし、違うといえば、違う……のだが、何というかその、会えたのは嬉しいっていう気持ちはあるわけで。
(此奴のこと、好きだって自覚してから、上手くいかない)
感情もぐちゃぐちゃで、ままならなくて、余計なことを言ってしまったんじゃないかって、いちいち過剰になってしまう。そんな俺を、朔蒔は嘲笑っているんだろうけど。
「あーえっと、かき氷。かき氷作らないか」
「かき氷? かき氷ってあの氷?」
「あの氷って……まあ、氷削ってシロップで食べる奴。夏祭りにうってるあれ」
「夏祭りいったことねェからわかんねーもん」
と、朔蒔は頬を膨らませた。「だから、いきてーんだけど。」なんて、俺と楓音をつれて夏祭りに行きたい、という朔蒔は願望を口にした。元からその予定で、その日は開けているんだが。
そんなことを考えながら、俺は、朔蒔に待って貰って、棚の奥からかき氷器を出す。半自動のそれは、少し埃を被っていたが、問題なく動く。
「氷……は、まあ、あるし二人分ならいけるだろ」
「シロップは?」
「去年の……あー待て、買った」
暑くて、かき氷が食べたくなる季節だなあと思って、昨日買ってきたのを思いだした。本当にタイミングが良すぎる。運のイイ奴、と朔蒔を見て、興味津々と目を輝かせている朔蒔から目をそらす。そんな、面白いものでも何でもないのになあ、なんて思いながら、俺は用意をすることにした。
俺が氷を削っている間、ドタンバタンと羽ながら見る朔蒔。此奴に削らせようかとも考えたが、そこら辺水浸しになりそうで、今回はごめんして貰った。朔蒔って加減で気なさそうだしな。
「ほれ、出来たぞ」
台所にある小さなテーブルに、ガラスの器に入った白雪色の山を二つ置く。スプーンを一つ渡せば、朔蒔は早速といった感じに、食べ始める。
「冷たくて美味しい」
「そりゃあ良かった」
「星埜のそれ何?」
「メロンに練乳かけた奴」
「ふーん、上手い?」
と、朔蒔は、俺の翠色のかき氷を見て首を傾げる。朔蒔のは、真っ黄色なレモンだ。
練乳は残っていたし使うかあ、と思っただけで、実際かき氷シロップってどれも味一緒だよな、と身も蓋もないことを胸にしまいながら、パクリと口にする。きーんとした痛みが、頭をかけていく。
「なあなあ、星埜」
「何だよ、朔蒔」
「このシロップ、星埜にかけたら上手そうじゃね?」
「――は?」
一旦フリーズした頭。それでも、俺は正常です、みたいな顔で迫ってくる朔蒔に、いつものアレを感じ、俺は後ずさる。
「いや、普通に考えて、可笑しいだろ……」
「いいじゃん。ちょっとだけ。ちょっとだけかけてみたい。ダメ?」
と、可愛らしく小首を傾けたって、いやなんだが。でも、その仕草にぐらっとくる自分がいて。
俺が、んーと唸っているうちに、朔蒔が俺を押し倒し、服を乱暴に脱がせる。
「お、おい、いいていってない! って、つめた!」
「氷より冷たくねえって。ほら、シロップたっぷりかけてやるからな~」
あ~上手そう。なんて、舌なめずりするものだから、背筋にゾクッと寒気が走る。
(こいつ、絶対、わざとだ)
「やめっ、やだ!」
「やだって、星埜のおっぱいイチゴみたいにぷくーってなってんの」
「ひっ、あっ!」
べろんと舐められて、変な声が出る。信じられねえ……
(此奴の、スイッチ……マジで、何処についてんだよ)
はあ、はあ……と俺が息を切らせれば、ぐいっと口元を拭って、朔蒔が俺を見下ろした。そのぎらついた獣の瞳に、俺はゾクッと身体を震わせる。そんな俺を見て満足したのか、朔蒔は「いただきます」と言って、俺の胸に噛みついてきた。