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甘くて、官能的で、泣ける。 こんな小説書ける人、他にいる???
第十七章 それだけでよかった
「全く……ちゃんと服片付けろよな」
ソファーに積まれた洋服が蓮の余裕のなさを表している。
慣れない地で、一人頑張っている蓮を、
もっと素直に応援できていたら――
俺は、もう少し強くなれていたのかもしれない。
午前中は、掃除をして過ごした。蓮が過ごしやすいように配置も変えた。
掃除を終えて、時計を見る。
まだ、昼過ぎだった。
冷蔵庫を開けて……閉めた。
何か作ろうかと思ったけれど、特に食べたいものは浮かばない。お腹は、空かなかった。
代わりに、蓮が帰ってきたら何を食べるだろう、と考える。
疲れているだろうから、軽いものがいい。
温かい方がいい。
鍋を出して、具材を切る。食べるのは、蓮だけでいい。
彼なしでは満たされない行為に、心も身体も、今は全てが無意味な事に思えた。
蓮を想い、何かをしていると気が紛れた。夕陽が室内を赤く染めた。
「何時に帰ってくるかな……」
また待ちぼうけ――
時間が過ぎていくのが怖くて、カーテンを閉めた。
隙間なくね――
ソファーに座ったら眠ってしまいそうで、戻ってしまいそうで怖かった。
このままずっと眠らなかったら……
スマホを覗いて、蓮にメッセージを書く。
「何時に帰ってくる?」
送信ボタンを押す人差し指が、空を描いた。
こんな重たい奥様なんて、蓮はきっと大嫌いだ。
カチカチと時計の針の音がうるさい。
廊下を行き交う人の音。
エレベーターの到着音。
僅かな音に蓮の痕跡を探した。
ずっと俺は待ちぼうけ――
望んでここへ来たはずなのに……呼ばれてもないくせにね。
目の奥が、ひどく熱い。
蓮 side
翔太の左手に握られたスマホ。
その明かりだけが、部屋の輪郭を浮き立たせた。ソファーの上に横たわる翔太に、声をかけられずに、そっとおでこにキスをすると、カーテンを開けようと手を掛け、すやすやと眠る彼を見て思い止まった。
いつの間にか昇った朝日が、わずかな隙間を縫って朝を告げた。自然と出た溜息は、白く、部屋は随分と冷えていた……
彼に毛布をかける。
「風邪引くだろう、しょうた」
それから、シャワーを浴びに脱衣所へ向かった。
湯気の立ち込める身体で部屋に戻ると、明るく花開いたような笑顔で「おかえり」と言った翔太の頰に涙の筋が色濃く残っていた。
翔太は遠慮がちに、躊躇いながら「お鍋作ったけど食べる?」そう言った次の瞬間には、一気に表情を暗くすると、
「無理しないで。食べてきたなら、捨ててもいいから」
と言って、以前食べることが叶わなかった、無惨にゴミ箱に捨てられたパスタを思い出した。
「すごくお腹空いてる。ありがとう」
また笑顔で笑った翔太の顔はどこか痛々しげだった。
頬杖をついて、ニコニコ笑顔で、「ふぅふぅしてあげる」なんて言って、ずっと俺が食べる姿を正面から見ていた。
「翔太は食べないの?朝ごはんまだでしょ?」
「俺はいいの……お腹空かない」
空いてないじゃなくて、空かない。また、一段と痩せた気がする。
残った出汁で雑炊を作った。
「おいで食べさせてあげる」
「要らないったら……食べたくない」
「すごく美味しいから……翔太の作ってくれた出汁が効いてる。ねっ食べよう?」
一拍ずれて「……うん」と言った翔太は、小さな口をゆっくりと開けた。少しだけ色白の肌に温もりが戻った気がした。
「もっとちょうだい」
ソファー前の床。
俺の股の間にちょこんと収まって、小鳥が餌を待つみたいに、さっきよりも大きな口を開けて、運ばれてきた雑炊を幸せそうに頬張った。
両手を頰に添えて「美味〜い。幸せ〜」なんて言って可愛いのに、いつもの〝うまっ〟じゃない翔太に、胸の奥が静かに痛んだ。
――俺は、何を見落としている?
「れん……来て……抱いてよ」
いつだって俺たちは、不安になると体を重ねた。
そこに自分達がいるんだって実感が欲しかった。愛し合えているって……本物なんだって。
「震えてる……」
「嬉しくてね」
「冷たいね」
「だって外は雪だもん」
指を絡めるとグッと手に力が籠った。寒いからか、胸の蕾が勃っている。服の上からなぞると甘い吐息が漏れ。吐く息は白く、くぐもって、儚く消えた。
服を剥ぎ、彼の輪郭を探すように、這わした舌先は冷たく、俺の不安を他所に、幸せそうに腕を伸ばした翔太は、耳に這う舌にビクリと身体を震わせた。
「相変わらず弱いね」
「わかってるならするなよ……ンンンッ」
「可愛い翔太が、悪い――
ごめん……愛してるって意味ね」
〝翔太が悪い〟――その言葉に、翔太は眉根を寄せて一瞬だけ悲しい顔をした。
慌てて、言葉を重ねる。
雪が溶けたみたいにぱっと華やいだその笑顔が、俺の胸に残る不安まで溶かしていくようだった。
「蓮……俺も、愛してる離れたくない」
「安心して?抜いてって言っても離さないから」
「バカそうじゃねえよ――変態れん――」
「好きなくせに……」
頰が紅葉して、白磁の肌を染めていく。
色のなかった翔太に明りが灯るように、 次第に輪郭を持ち始めたその身体に、噛み付くように吸い付くと、 小さく鳴いた。
「もっと鳴きなよ?聞こえない」
「バカみたいにあんあん言わねえぞ」
〝どうだか……〟
身体中に咲き乱れた赤い花びら。シーツを握りしめ腰を捩らせ奥歯を噛む意地らしい姿が綺麗だ。
「このまま飾っておきたい」
「へ、ん、た、い」
「どっちが?」
主張しだした花茎は、先端が濡れ、鈴口から溢れ出す愛液を舌先で舐めとると、肩を窄めて身震いした翔太は、か細い声で〝やだぁ…〟と言うと口に手を当てた。
「嫌ならやめるけど?そこまで変態じゃない」
「意地悪…蓮きらい」
嫌いと言いながら俺の腕を乱暴に掴み唇を寄せた。
「変態な蓮は……嫌いじゃないぞ////
ウソ嘘……今のなしンンンッイヤッ」
「あまのじゃくだな……嫌いじゃないけど」
ゆっくりと後孔に侵入した指が隘路を押し広げる。
枕を掴んで浅く息を吐いた翔太は、目にいっぱい涙を溜めていた。
「大丈夫?痛い?」
首を左右に振って〝嬉しい〟と言った翔太。
頰を撫でると雪のように冷たくて、抱き締めると溶けて消えちゃいそうだった。
「寒い?」
「寒いから温めてくれるんでしょ?」
「……溶けちゃわない?」
「蓮にメロメロで今にも溶けちゃいそうだ///恥ずかしいこと言わせるなバカ////」
「ふふっ///最幸だよ翔太……」
「れんっ……ンンンンッ…………っ……あっあん//」
花茎を掴んで優しく上下に扱くとビクリと太腿が揺れ、同時に抜き挿しを繰り返す後孔からは、イヤラしく水音が響いた。
小さく漏れ聞こえた可愛らしい喘ぎ声に、自身の下半身に熱いものが走った。〝蓮も脱いでよ……〟伸びてきた手が、俺のシャツを剥いだ。先ほどより少しだけ温かくなった指の先端が体をなぞる。輪郭を確かめるように全身を隈なく這う指に、くすぐったくて体を捩ると、クスクス笑って、楽しそうな翔太の目には綺麗な藍黒色の瞳が、前と変わらずそこにあって胸のざわめきが和らいだ。
ここに居る。
確かにここに居る。
しっかりと強く翔太の手を握りしめた。見失わないように。溶けてなくならないように。
存在を確かめるように、彼に侵入した。
後孔を押し広げて侵入したそこは温かく、生を感じた。
何度も俺の名を呼ぶ翔太もまた、存在を確かめるように後孔にあてがわれた結合部に腕を伸ばし熱茎を掴んだ。
俺の瞳を離すまいと瞬き一つせず見つめてきた。
まるで俺の瞳の中にいる自分自身を確かめるように、ずっと目を逸らさず見続けている。
「蓮……奥まできて中に頂戴」
「でも……」
「俺の中に残してよ……」
シーツを掴み悶え鳴く姿が美しい。背中を弓形に反り上げた翔太の腰を掴んで奥を目指した。彼がそう望んだように、誰も届かないその場所に少しでも長く俺の欲が止まるように。
冷たい体は、凍えるような寒さのせいだと。
流れる涙はきっと嬉しいからだ。
翔太が星を見ないのは?
寂しくならないための自己防衛だろう。
そんな言い訳で、彼の孤独に蓋をし、繋がった。
――俺は、何を見落としている?
不穏な影に気付いてない訳じゃない。内なのか、外なのか……何かも見つからず、今にも消えてしまいそうな、儚い翔太を手繰り寄せ腕の中に収める。
翔太の体温だけが、やけに軽い。
その軽さが――
怖かった。
目の前で幸せそうに笑う翔太が見られれば、それでいいのだと、自分に言い聞かせながら、翔太の重さを探し、何度も繋がった――
「れん……蓮が居ればそれだけでいい。蓮さえ覚えていてくれれば……それだけで――」
「おいで翔太……2人で今を刻もう」