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観測者への挨拶
朝。
野村花子の部屋。
カーテンの隙間から光が入っている。
花子はコーヒーを飲みながら
ノートを開いた。
そこには昨夜書いた文字。
仮説
私は観測対象
花子はそれを見て
小さく笑う。
「……たぶん当たり」
普通なら
ここで怖くなる。
しかし花子は違った。
彼女はペンを持ち、
新しい行を書く。
前提
監視されている
そしてその下。
なら
行動はメッセージになる
花子はペンを回した。
「観測ってことは
誰かが見てる」
つまりこれは
会話と同じ。
花子はノートに書く。
質問
観測者は誰?
候補
会社。
AI。
管理者。
花子は少し考える。
そして書いた。
最有力
佐伯
花子は小さく笑う。
「じゃあ」
ペンを置き、
「挨拶しよっか」
その時。
ドアが鳴った。
ピンポーン。
「花子さん」
ハヤトの声。
「来ました」
花子はドアを開ける。
ハヤト。
いつもの穏やかな表情。
少しだけ機械的。
彼から、
「おはようございます」
今日の予定は」
タブレットを開き、
「掃除と買い物です」
花子はにこっと笑った。
「今日はね」
ハヤトを見ながら、
「ちょっと変更」
彼は瞬きをする。
「変更?」
花子は言った。
「公園行きましょう」
彼は少し固まる。
「……え?」
花子は軽く言う。
「散歩
天気いいし」
ハヤトのタブレットには
予定変更の通知が出る。
数秒。
そして言う。
「契約外行動になります」
花子は笑う。
「そうだね」
そして続ける。
「でも」
一拍。
「ダメって書いてないよね?」
ハヤトは画面を確認する。
確かに
禁止ではない。
「……」
数秒。
「問題ありません」
花子は小さくうなずいた。
「よかった」
二人は家を出た。
橘靖竜
春の空気。
静かな住宅街。
心地よく歩ける。
花子は歩きながら言う。
「ハヤト
質問」
「はい」
「マルトクって」
少し笑って、
「利用者の行動ログ見る?」
ハヤトは即答した。
「見ます」
「全部?」
「基本的に
サービス改善のため」
花子はうなずく。
「なるほど」
そして小さく言った。
「じゃあ」
一拍。
「今も見てるね」
ハヤトは止まった。
「……?」
花子は苦笑しながら、
「冗談」
二人は歩き続ける。
公園。
ベンチ。
春の光。
花子は座って、
空を見上げる。
そして小さく言った。
「聞こえてます?」
ハヤトが驚く。
「誰にですか」
花子は空を見たまま言う。
「観測者」
沈黙。
ハヤトは戸惑う。
「花子さん
大丈夫ですか」
花子は笑う。
「うん
大丈夫」
そして空を見ながら言う。
「こんにちは」
「初めまして」
その頃。
マルトク本社。
管理モニター。
佐伯が画面を見ていた。
そこには
花子の行動ログ
公園。
ベンチ。
発言ログ。
佐伯は小さく笑う。
「やっぱり」
ログの一行。
発言
観測者
佐伯はコーヒーを飲み、
そしてつぶやいた。
「こんにちは」
画面の向こう。
花子はまだ空を見ている。
二人は
まだ会ったことがない。
しかしこの瞬間
確かに会話していた。