テラーノベル
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ヨコハマの午後はいつも通りの気だるい平穏に包まれていた
武装探偵社の事務室内には国木田独歩のタイピング音と中島敦が書類を整理する音だけが響いている
その静寂を破ったのはソファに力なく横たわる太宰治の消え入りそうな呟きだった
「…国木田くん、聞こえるかい」
「私の魂が今向こう側へ溶け出そうとしているんだ…」
「貴様またか!仕事を放り出して何訳のわからんことを!」
「魂が溶ける前にその報告書を完成させろ!」
国木田が怒鳴りながら太宰の肩を掴んで揺さぶろうとした
その時
太宰が僅かに身をよじった拍子に砂色のコートの裾から鮮やかな赤が座面に滲んでいるのが露わになった
「…っ!?太宰、貴様いつの間に負傷した!敵襲か!?狙撃か!?」
「あぁ…国木田くん、揺らさないで…………世界が重力操作を受けたみたいに回るんだ…」
「太宰さーん!このしょる……ってえぇぇぇ!?血!?血が出てますよ太宰さん!!」
書類を持ってきた敦がその光景を見て腰を抜かさんばかりに叫んだ
探偵社内に戦慄が走る
太宰は青白い顔で力なく微笑むだけだった
〈日常に役立つ知識:突然の漏れへの初動〉
外出先や職場で予期せず服や椅子を汚してしまったときの際の鉄則
・叩き出し洗いの準備
汚れた部分の裏側に乾いたティッシュやハンカチを当てます。裏から水を含ませた布で叩くようにして汚れを裏の布に移します
・応急のシミ抜き剤
職場の給湯室にある食器用洗剤はタンパク質分解能力が高く、血液汚れには非常に有効です。
「止血だ!まずは止血だ敦!救急箱を持ってこい!いや、与謝野先生だ、先生を呼べ!」
「は、はい!先生ー!太宰さんが、太宰さんが下半身から大出血してて死にそうです!」
「…待って。二人とも落ち着いて」
騒乱の渦中に静かな声が響いた。
泉鏡花だ。
彼女は慌てふためく男二人を冷ややかな目で見据え太宰の元へ歩み寄る
鏡花は太宰の顔色と出血の箇所を瞬時に見極めると国木田の手から救急箱をひったくった
「国木田さん、敦、これは外傷じゃない」
「な、何だと?ならばこの大量の出血は何の説明がつくんだ!」
「…月一の重い日。……男の人にはわからない」
「「え…………っ?」」
国木田と敦の動きがピタリと止まる
二人の頭の中で「太宰治」と「生理」という単語が結びつくまでに数秒の沈黙が必要だった
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