コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ふぅ……まぁ、今日はこんなもんでいいかな」
俺が清々しい笑顔と共に額を拭う仕草をすれば、妹が笑顔を向ける。
「いやぁ〜、他人に説教という名の自論破してるヒロくんのなんと楽しそうなことか……。さすがは社畜、普段上司から嫌味や理不尽に謎な説教をされてストレスが溜まってる分、こういう時のヒロくんは水を得たカッパのよう生き生きしてるよね♪」
「それを言うなら『水を得た魚』です、ヒナ……」
親指を立てている妹を横目に、伊織がため息をつく。
「はっはっはっ……お兄ちゃんのストレスがクソみたいな上司と、現代社会だけが原因だと思うなよ☆」
そう言って俺は、自然な流れで笑顔で妹の額に容赦なくデコピンを食らわす。
「ゔおっ……いっっっっっつった! いぃっ、たい!!」
妹は額を押さえながら、ゴロゴロと床を左右に転がる。まぁなんとも可愛らしくない声とリアクションだこと……。俺は転がる妹に冷ややかな視線を向けては、ロキたちへと振り返る。
「んじゃ、早速本題に入ろうぜ」
「え……いや、そいつ……」
「気にするな、手加減はしてある」
俺は親指を立てて『キリッ!』とした表情を向ける。そんな俺と転がる妹を、少しの間交互に見ていたロキは「まぁ……お前らがそれでいいなら……」と、最終的には憐れむように妹を見ていた。
「そ、それでは、ご案内致します……『○▲Σ✕※』」
シラギクが短く何かを唱えると、店にあるカウンターの裏から扉が現れる。
「なぁ、ロキ。シラギクは今なんって言ったんだ?」
「あ? あぁ、あれは精霊の言葉だ。精霊語の、その中でも特に難しい古代……神話時代の言葉らしい。ババァみたいな最上位魔術師や、一部の上位精霊とかしか知らないし、仮に知ってても魔力や技術の問題で使えないらしい」
「へぇー、そうな……ん?」
ロキの言葉を俺はそのままスルーしそうになった……が、思わず聞き返す。
「え……上位、精霊……? 誰が?」
「シラギク、が」
そう不服そうに指をさすロキ。
「シラギクは上位精霊と魔族との間に生まれた『半霊半魔』だ。ババァには劣るが……というかババァが異常なだけで、魔術や呪術の才能なら、この国でもかなり上位に入るぞ?」
「マジかよ……」
俺は「信じられねぇ……」という目でシラギクを見る。
「な、なんですか……?」
俺とロキが話していることに気づいたのか、俺の視線に気づいたのか……シラギクと目が合う。
「ちなみに、アイツの得意分野は『死なない程度に相手をジワジワと弱らせて呪っていく』呪術類だな」
「あー、それは大いに納得」
「何の話か分からないけど、なんか酷いっ!!」
俺は「得意魔法って、性格が出るんだなー」と改めて思ったのだった。
▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁
店の奥へと案内された俺たちは、不思議な通路を通って一つの扉の前へと立つ。
「えっと……こちらです」
そう言ってシラギクは、扉を開ける。
ちなみに、だ。この扉に辿り着くまで、いくつもの部屋と扉を行き来した。扉を開けると別の部屋へと繋がっており、その部屋の奥にはさらに別の扉……が、あったりなかったりした。
その度、戸惑うシラギクの姿に俺たちが疑問の表情をロキへ投げかけると、ため息混じりに『コイツの姉妹が、別の部屋に目印を施したんだろ』との事だった。
ではここで……この一週間でロキやセージから得た情報を元に、素人でも分かる『第一回、ヤヒロ兄ちゃん異世界攻略講座』を開催しようではないか。
それでは記念すべき第一回、精霊について簡単に学んでみよう。
まずは精霊が生まれる条件について。
精霊が生まれる条件は、大きくわけて三つのパターンがあるらしい。
一つ目、想いから生まれる。
二つ目、他種族間から生まれる。
三つ目、伝説から生まれる。
一つ目の『想いから生まれる』は、精霊界にとっては一番ポピュラーらしく……例えば何かを体験した時に『美しい』や『綺麗』などという強い感情と、ある一定の条件が一致した際にその系統の精霊が生まれることが多いらしい。
このパターンで生まれる精霊の性格などは、この時に得た感情が軸になるとのこと。
故に『恐怖』や『嫌悪』などの負の感情から生まれた精霊はその感情に引きずられることが多いらしく、『邪精霊』……つまりは『闇落ち』することが多いらしい。
二つ目の『他種族間から生まれる』は、元々精霊は『想いから生まれる』ことが多いため、精霊同士……というか、精霊の本能に『自分の子孫を残す』という考え自体があまりないのだと言う。
なのでこちらは、精霊と他種族が互いに惹かれあった末に生まれた……つまりは恋愛結婚だな。
前途で説明した通り、精霊の本能に子孫を残すという考えがない。なので他種族との間にできた『半分精霊』は恋愛の末の副産物であって、子孫を残すこと自体は目的ではないとのこと。
なので精霊と他種族とのカップルだからと言って、必ず生まれるわけでもなく。結局は当事者たちの『愛のカタチの一つ』という、象徴くらいの感覚らしい。
三つ目の『伝説から生まれる』は、精霊界隈にとっても規格外の存在らしい。
ニュアンスとしては一つ目の『想いから生まれる』ことと似ているが……生まれてくる精霊の能力は、他の一般的な精霊と比べると全くの別物。桁違いのチートなのだとか。
こちらも掘り下げると、生まれてくるパターンはいくつかあるらしい……が、強いて例をあげるならば、だ。
まずは『勇者』や『英雄』などに関する……いわゆる『伝説の武具』などと呼ばれるものから生まれるパターンの精霊。この精霊の依代となった武具は『精霊器』と呼ばれる。
そして『生前の行いがもはやフィクションのように語り継がれるレベルで、色々とヤバい』という……『生前が凄すぎてその伝説級の人物の死後、精霊に転生した』というパターン……も、なくにもない……らしい。
この場合の精霊の多くは『元・英雄』ということなどもあり『英精霊』と呼ばれるのだ。
まぁざっくり言えば『アーサー伝説』の『エクスカリバーが精霊化した』か『アーサー王が死後に精霊に転生した』かのパターンの違いだ。
そしてある日突然、精霊化した騎士王が『問おう。アナタが私のマスターか?』と現れてもおかしくないのだ。
そもそも『伝説』や『伝承』、『逸話』になって後世に語り継がれるほどなのだ……そんなホイホイ生まれてきたり、俺みたいな一般人に簡単に負けるほど弱くてたまるか。
……と、精霊が生まれる条件などはこんな感じだ。
そもそも精霊界の思想では『精霊は皆家族』という前提があるらしく……想いから生まれた精霊だろうと、他種族の間で生まれた精霊だろうと。そういうのは関係なく、『精霊』なら等しく家族なのだとか。
……まぁ『精霊は皆家族』という前提なので、このシラギクの言う『姉妹』とは、『親となった精霊から同じく生まれた、一番近い直系の精霊』のことを言うのだ。
……と、その他にも『微精霊』と呼ばれる『精霊』になる前の微粒子の子供の精霊や、生まれる元となった出来事などで能力や特徴も変わるなど……『精霊』と一言で言っても多種多様なのだそうな。
以上で『第一回、ヤヒロ兄ちゃん異世界攻略講座』を終了しようじゃないか。
つまりはこんな感じで。
まぁ、かいつまんで話すとだ。シラギクには『姉妹精霊』がおり、その姉妹精霊と異空間なるものを共有していて、そして姉妹精霊が前回使った際に目印を移動していたのをシラギクに伝えていなかったのが原因……らしい。
それを聞いて俺は思わず、妹が俺の部屋にある漫画を拝借した後に本の位置を変えて、俺の部屋の漫画なのに俺が探すといった状況がわりとよくあったことを思い出した。しかも俺が読みたい時に限ってその漫画の位置が変わってるのだ。地味に迷惑である。
シラギクと俺では、意味も状況もだいぶ違うが……身内とは言っても、報連相は大切だと改めて思った。
そうやって、やっとたどり着いた扉をシラギクが開ける。
「おぉ……っ!」
「わぁあ……!」
「これは……!」
俺と妹、そして伊織は思わず、感嘆の声を上げた。