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第2話:おもちゃの行き先
朝から降り出した粉雪が、ショッピングモールの駐車場を薄く覆っていた。
ママさんバイヤーの真紀(まき)は、エコバッグを肩にかけ、
トイザらスの自動ドアをくぐった。
ショートカットの黒髪をベレー帽に収め、
厚手のグレーのコートに赤いマフラーを巻いている。
頬は冷たさで少し赤く、手にはぎっしりと詰まった“希望リスト”の束。
「さぁ、戦場ね」
彼女の声に、後ろの二人のバイヤー仲間が笑う。
紗季はベージュのダッフルコートにモカの手袋、
もう一人の玲奈は背が高く、緑のニット帽をかぶっていた。
通路にはすでに親子連れがあふれ、
ジングルベルが店内スピーカーから流れている。
真紀は手慣れた様子でカートを押しながら、棚を一つずつ見て回った。
「ミニカーはこれ、ぬいぐるみはこっち。……ゲーム機は在庫あと二台!」
紗季が息をのむ。
「急がないと、今年も売り切れね」
真紀はすぐに足を踏み出す。
コートの裾が揺れ、マフラーの端が軽く跳ねた。
ゲーム機を手に取り、レジに並ぶ列の後方で、
玲奈がリストを確認して眉をひそめた。
「“おばあちゃんの手紙がほしい”の子、プレゼント本体どうする?」
「……小さな封筒にしよう。中に、おばあちゃんから届いた“お守り”を入れて」
紗季が言い、文具売り場に向かった。
その表情はどこか柔らかく、
雪明かりの反射でまつげが光って見えた。
真紀は手袋を外して、スマホのメモを確認する。
“男の子・7歳:光るトラックセット、女の子・5歳:おままごと台所”
「……どの子も、きっと喜ぶわね」
小さくつぶやいた声が、レジの喧噪にかき消された。
袋詰めを終えた三人が外に出ると、
雪は少し強くなり、空が灰色に沈みはじめていた。
「寒いね。でもさ、これ全部、サンタの荷物になるんだよね」
玲奈が笑う。
真紀は頷き、鼻先を赤くしながら空を見上げた。
その時、遠くの空に点滅する光がひとつ見えた。
まだ昼間だというのに、まるで星のように光る緑の点。
「……大河くん、もう準備始めてるのかもね」
紗季が呟く。
真紀は笑い、手にした袋をぎゅっと抱きしめた。
「じゃあ、私たちも負けてられないわね。――サンタ出発準備、完了!」
三人の笑い声が雪の中へ溶けていく。
その手には、子どもたちの夢が詰まった袋が温かく光っていた。