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「結構色んなものが飛んでるね!」
宇宙空間を進む宇宙船。ちんすこうは小さな星々の間をすり抜けるように飛んでいた。
「実際の宇宙よりはかなり密度を濃くしてありますからね……あっ、小惑星ですわ」
「ビーム発射!」
すかさず武器を選択、ロックオンしトリガーを引く。その流れるような動きに感心するサーターアンダギーだった。
「やると思っていましたけどね。小惑星を破壊すると素材が手に入りますわ」
小惑星の破壊は海賊的どころかむしろ推奨される行為だった。素材を回収するアームが機体の下から伸びる。
「素材を集めるとどうなるの?」
「宇宙船を強化出来ますわ。このゲームでの対人戦は宇宙船によるドッグファイトが主となりますが、それに勝利する為には宇宙船をより強力に改造しなくてはなりません」
サーターアンダギーの説明に目を輝かせるちんすこう。
「おお~! どうやって強化するの?」
「それは、次の惑星スヴァルトアールヴヘイムにある拠点でメカニックに改造してもらうのですわ」
ちんすこうはメカニックという言葉に眉をピクリと動かす。夢の中で、彼女のそばには確かにメカニックがいた。
(なんて名前だったっけ……?)
何やら思い悩む彼女の様子を見たサーターアンダギーは、惑星の名前が難しすぎるのではないかと心配になっていた。だがそれは無意味な心配だ。ちんすこうは次の惑星の名前など覚えようとすら思っていなかった。
「何はともあれ、次の惑星に向かいましょう」
ナビゲーションに従い、彼女達を乗せた船は次の惑星スヴァルトアールヴヘイムへと向かった。
「宇宙を旅するって設定なのに次の惑星が場所も名前も分かってるのはどうなの?」
「それは言わない約束ですわ」
スヴァルトアールヴヘイム、それは黒エルフの住む星。その星にはもちろん多くのメカニックNPCがいるが、メカニックとしてのプレイをしようとしているテストプレイヤーも多く、そこでスキルの習得と強化に励むのだ
黒エルフはその名の通り肌が黒いエルフだが、手先が器用で様々な技術スキルを持つ陽気な種族である。能力的にはドヴェルグに近いが、あちらは腕力が強く偏屈で頑固な性格の者が多い。
そんな陽気な黒エルフ達の星に、乱暴な運転で突入する宇宙船があった。
「うおおおお、大気圏突入ーーー!!」
「げ、減速してくださいな!」
スヴァルトアールヴヘイムのある地点、朝日が昇ろうとしている平原にそれは降り立った。轟音と共に噴出口から突風を噴き出し、急制動をかけてふんわりと接地する。
「ここが次の惑星かー」
さっそく宇宙船から外に出たちんすこうの目の前に、一人の黒エルフが立っていた。
「おはよう、異邦人。ずいぶんと豪快な突入をして来たな」
すらりとした長身に黒い肌、均整の取れたボディスタイルを持つ女性である。彼女を見たちんすこうは、挨拶を返した。
「おはタックル!」
「どんな挨拶ですか!!」
だがちんすこうのタックルを受けた黒エルフは、微動だにしない。
「情熱的だな。だが私にそういう趣味はないんだ」
笑ってちんすこうを優しく引きはがす。
「マジで!?」
何故か驚くちんすこうだった。
(何か驚く要素ありましたっけ?)
テンションが上がって落ち着かないちんすこうを見て、呆れるサーターアンダギー。二人は変わらぬ様子で新しい惑星の冒険を始めたのだった。