数え切れない程の涙を流した経験があって、
それでも明るく笑える“今”があって、
何よりも大切にしたいと思える仲間がいる。
涙も寂しさも全部隠してしまえる雨が好きだと、
そう話していた頃もあったけれど。
今はもう、雨も晴れも全部、ちゃんと愛せるよ。
いつだって前を向いて笑えるような、
そんな強さを”君“に貰ったから。
だから、今度は僕が、君に___
ガチャ。パタン。
独りで寂しそうに去っていくその後ろ姿に、
思わず声を掛けようとして、
上手く言葉が見つからなくて何も言えなかった。
「…だいじょーぶかな、LANくん…」
「知らね。ま、あれでもLANは真面目だし、
次来る時はちゃんと元気になってから来るだろ。」
「そう、だね…。」
LANくんなら大丈夫だと思うのに、
どうしても変に心配してしまう。
「それにしてもLANのやつ、
言ってくれりゃ良かったのにな。」
「ね。言ってくれれば今日の会議くらい、
5人でもどうにか出来たのに。」
確かに、と思う。
責任感なんて感じなくて良いから、
俺たちのことを頼って欲しかった。
「…でも、分からなくもないけどね…。」
「え?」
無意識に口に出ていたらしい言葉は、
上手くまとめられないままどんどん溢れていく。
「LANくんはリーダーだから…
みんなの為にって思って、頑張り過ぎちゃうんだ。
こさめも…みんなに出会うまでは、
よく一緒に活動させて貰ってた人達に、
無理してでも合わせようとして頑張ってたもん…。」
「…こさめちゃん…。」
みんなに出会ってから、もうすぐ2年。
一人で活動していた俺にとって、
心から信じられる“仲間”の存在がどれだけ嬉しくて、
どれだけ救いになったのかみんなは知らない。
なつくんは俺と同じ気持ちを知っているかもだけど
それを素直に口に出せる強さがあるから、
きっと全く同じ気持ちは分からないと思う。
「…そんなしけた面すんなよ。
心配なら、会いに行きゃいいじゃねぇか。」
「え?」
今度は俺がびっくりする番だった。
「別にLANも風邪って訳でもなさそうだったし、
家に行ったところで問題もねぇだろ。
こさめが行ったら喜びすぎて、
むしろ超回復するかもだけどw」
「確かにwこさめちゃんが行ったら、
らんらん凄く喜びそうだよね。」
「…こさめ、行こうかな…!」
物凄く名案だと思った。
LANくんの体調を確認出来るし、
…仕事を放置してもいい理由にもなりそうだし。
「うん、こさめ行ってくる!」
「おう、いってら。
うるさすぎて近所迷惑にならないようにな。」
「こさめちゃん道分かる?一緒に行こっか?」
「多分大丈夫!こさめは天才だからね!w」
「あぁ…w通常運転そうで何より…w」
LANくんの家なら前にも行ったことあるし、
そんなに難しい道でもなかったから多分大丈夫。
迷ったら…まぁ誰かに電話すればなんとかなる!
「じゃあ行ってくるね〜!」
「差し入れしてあげてね〜。」
「行ってらっしゃーい!」
「「行ってら〜」」
ガチャ。パタン。
さっきは見送る側だったのに、
今度は自分が見送られる側なんて、変な気分だ。
LANくん、喜んでくれるかな…。
ピンポーン。
「LANくんいますかぁ〜!」
ピンポーン。ピンポーン。
「あれ?LANく〜ん?」
ガチャ。
「…こさめ?どしたの…?」
ドアが開いたと思ったら、
あからさまに顔色の悪いLANくんが出ててきた。
「わぁ、LANくん顔色悪っ!
ほらほら、部屋に戻って戻って!」
「…お前が呼び出したんだろ…w」
弱々しく笑いながら家に入れてくれるLANくんは、
なんだかフラフラしてるように見える。
これは結構ガチめに体調悪そうだな…。
「えっとね、差し入れ買ってきたよ〜!
これと、これと、これと、これと…」
「…こんなに買ってきてくれたの?ありがとうねw」
「だってLANくんが心配だったんだもんw」
「…そっか…ありがと…こさめ。」
段々と返事の声が小さくなっていくLANくんの方を
見ると、どうやら睡魔に負けてしまったらしい。
「えぇ…寝ちゃったの、LANくん?」
スゥ…スゥ…
心地良さそうにソファーに頭を埋めちゃって、
気を緩めすぎだぞ、と言ってやりたくなったけれど
起こすのは可哀想だからそっとしておく事にした。
「…とりあえず、冷蔵庫に入れておくか…。」
勝手に冷蔵庫を開けて、
買ってきたものをどんどん入れていく。
そう言えば、今日はお母さんはいないのだろうか。
姿が見えないから忘れていたけれど、
ここはLANくんだけの家ではないんだった。
「…LANくんも寝ちゃったし…
お母さんが帰ってくる前に帰ろっかな。」
家を出る前に、LANくんに毛布でも掛けておこうと
もう一度リビングに戻る事にした。
「…LANく…」
声を掛けようとして、途中で止めたのは。
「…ん…いるま…」
大事な仲間の一人の名前を、
LANくんが寝言で口にしたからだった。
『…お前、無理してただろ。』
全然気付かなかった。
俺から見たLANくんはいつも通りで、
会議中におかしな様子なんて1つもなくて。
なんで、と思った。
なんで気付いたのが、俺じゃないの。
なんでいるまくんが、LANくんのことを見てたの。
なんで、なんで、なんで。
_こんなにも強く、
俺はLANくんのことを想ってるのに。
いつも通りのテンションを演じた。
明るくて、ちょっとうるさすぎる“雨のこさめ”。
それが俺で、それに不満なんてなくて。
でも今日だけはちょっとだけ、苦しかった_
「…風邪ひいちゃうよ、LANくん。」
「…ん…うぅ…」
「…ははっ…w…ねぇ、聞いてるの?LANくん…」
聞こえてなくて良かった。
聞いて欲しい訳じゃなかった。
返事なんていらないのに…言わずにいられなかった。
「…こさめは…LANくんの味方だから…」
たとえ、LANくんが間違った道に進んでも。
誰よりも近くで、それを支え続ける。
いつまでもずっと、一緒に歩いていく。
その権利は、俺にあるかな。
俺は…いるまくん以上に、なれるかな。
「…ねぇ、LANくん、好きだよ…。」
雨の日を望んでばかりいた過去の俺に、
優しく手を差し伸べてくれた優しい人。
その優しさで、この想いすら全部全部、
いつか認めて受け止めてくれるかな。
俺はまだ未完成で弱いけど_
_いつか、君を救ってみせるよ。
コメント
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めっちゃ面白かったです!因みに、どことどこの、ペアですか?ごめんなさいm(_ _;)m気になっちゃったんで