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ちょこ
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ヨラ@低浮上
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昔々。それは魔王と人間が敵対し、世界の至る所で争いが起こり、血を流す人が絶えなかった時代。 魔王はこれまでに何度も討伐され、復活してきた。同時に、魔王を討伐した勇者も、その命を燃やしてきた。
それらは今も現代に語り継がれている。書籍という形で、誰でも手に取れるように。 魔王が再び復活した時、勇者を名乗る人間が生まれるように。
「ラフェアー!ご飯よー!」
分厚い書籍を捲る指が止まり、紙切れを一枚、読んでいたページに挟み、パタンとそれを閉じる。
「はーい!」
ラフェア・ルーラー。齢9歳の、ただの一般家庭の少女である。
彼女は本を、物語を心から愛している。特に勇者譚が好きだ。何度読んでもページを捲る指が震えるほどに、熱い何かを感じる。
力の勇者『フォルス』、博識の勇者『エリディ』、才能の勇者『ジェニ』、戦略の勇者、愛の勇者、無慈悲な勇者…
数えたらキリがない程の書籍の数々。全ては一人の少女の部屋にある。
分厚い書籍が壁一面の本棚いっぱいに並ぶ。それでも入りきらないものは床に積まれており、机の上も本以外の物は置かれていない。
『勇気の勇者ロウスは魔王を撃ち破る代償として、己の命を投げ捨てた。』
最後の一文を何度も読んだ。多くの勇者が英雄として語り継がれている中、ラフェアはこの物語が好きだった。
才能じゃない、頭も人並み、力はそこまで、ミスもして、馬鹿をして、何度も逃げて、でも人を最後まで守り続けた、最高に人間らしい勇者、勇気の勇者『ロウス』である。
ラフェアは、唯一魔王と相打ちとなり、生きて帰ってこれなかったロウスが好きだった。
机の上にあるペンをそっと手に取り、さらさらと文字を書く。こうであればいいと願い続けた、一つの文を。
『だが再び魔王が現れる時、彼は必ず姿を現し、新たな勇者を導くだろう。』
「ラフェアー!朝ごはんお兄ちゃんに食べられるわよー!」
「お兄絶対食べないで!」
腹の奥から兄に対してそう叫び、ラフェアは最後のページを開いたまま部屋を飛び出した。
母の朝ごはんは美味しいから、何があったとしても絶対に食べたい。
そう思いながら彼女はドタバタと階段を駆け降りた。
キラリ。誰もいない部屋の片隅で、ラフェアが記した文字が星のように輝いた。窓も開いていないのに勝手にページが捲られていく。
本のページが勝手に増えていき、白紙のページが貼り付けられていく。
『執筆の勇者 ラフェア・ルーラー』
そう書かれた文字が、一拍置いた後に、風に吹かれたようにふっと消えてしまった。
少女は、いや。
未来の勇者『ラフェア』はまだこの事を知らない。
15歳の誕生日。時刻はとっくに0時前を指している。
今日ぐらい夜更かしして、朝日が昇るまで本に埋もれたいと願っていたラフェアが、白紙のページを撫でながら、学園での記憶を思い出す。
それは彼女が12歳の頃の、何気ない記憶である。学園の休み時間、自身の席で勇者譚を読んでいた時だった。
今まで読んできた勇者譚には白紙のページがあることにラフェアはずっと疑問を持っている。
何も書かれぬそれを何度も捲りながら頭を傾げた。
本来ならここに何を書いていたのか、何を記すつもりだったのか。
ラフェアはわからない。でも知りたい。
「ラフェア。なんだそれ」
後ろの席に座っていた男の子がそう声にする。
ラフェアは振り返り、何が?と聞けば少年は白紙のページを指差した。
「これ?力の勇者譚の白紙ページだよ」
「そうじゃなくて、オレの持ってるやつにはそんなん無いんだよ」
当時はただ不思議だった。何故彼の本には余りページがないのか、そこには何が綴られているのか、知りたくて仕方なかった。
そんな、しょうもない記憶。
次を読もう。
どうしようか。やっぱり、お気に入りのあれを。
そう思いながら手に取ったのは『ロウス』の勇者譚。それの 最初のページを捲る。
本を間違えたかと表紙を見直す。目を擦り、電気をつける。
最初の文が違う。
『勇者は生きている。君が書いたから。』
その文字の並びをなぞれば、窓も開いていないのに、風に当てられたように勝手にページが捲られていく。
窓から覗く満月を遮るように、 ボロボロのマントが靡く。
『勇気の勇者が羽織るマントは、故郷の母が作った物であり、冒険が終わるまで身につけていた。』
傷だらけの腕が覗く。
『勇気の勇者は冒険の初め魔物に攻撃出来ず、よく腕に包帯を巻いていた。』
優しく微笑む瞳と目が合う。
『勇気の勇者は心から優しい男であった。』
ボトッと分厚い本を落とす音がする。だがそれはラフェアの耳には入らない。
信じられない。
何故、貴方がいるの_。
勇気の勇者。
ラフェアが落とした、自身の勇者譚を拾い、彼はペラペラと読み進め、クスリと恥ずかしそうに笑う。
「はは、俺ながらカッコ悪いなあ。これ」
そう言って手にした本を、目の前の少女に返す。ずっと大切にしてくれてありがとうと言うように微笑んで。
「君の台本を、付け足した1文を読んで、面白そうだから来てみたよ。執筆の勇者」
ドクンと心臓が跳ねる。鼓動が体全体に響いており、目の前の音しか読めない。
ボロボロのマント。傷だらけの腕。優しげな瞳。黒い短髪に、左頬から口まで裂けた、痛々しい傷跡。
勇者譚の通りの姿、形。
嗚呼、間違いない。 彼は勇者である。
「…あ、あの…」
目尻が熱い。本を濡らさぬようにと必死で、目から溢れ出す液体を裾で拭い、ずれ落ちた丸メガネを支える。
言葉がうまく出ない。そんな様子のラフェアをロウスは優しく微笑みつつ、見守っている。
「と…とりあえず!サイン下さい!」
「第一声それ?もうちょいなかった?」
ロウスは目を見開きながら困ったようにそう口にする。そんな憧れの彼にラフェアはガンガンと詰め寄っていく。
「いいですから!サイン!下さい!!!」
「ていうかどこ書けばいいの?服?」
「貴方の勇者譚に!!!」
「ダメだろ!?」
結果。ロウスの敗北である。
歴史的教科書である自身の勇者譚にサインを書かされてしまった。
うっきうきでサインを書いてもらったそれを嬉しそうに抱えるラフェアを見て何かを思い出したのか、「あ」と声を漏らしてロウスはマントの後ろからガサガサと一冊の分厚い本を取り出した。
表紙も、中身も何も文字がない真っ新な本だ。
白紙を凝視するラフェアに対してロウスはクスクスと笑い、少し待てばいいよと微笑んだ。
瞬間、本が太陽のように光を放ち、ラフェアの目線を釘付けにする。
それが収まった時、表紙に書かれていたのは『執筆の勇者譚』という1文であった。
「これは君の勇者譚だ。君の魔法は『執筆した物語を具現化する』ものだ。君が書いた文章全てが、君の思うままになる」
「…全て、思うまま」
ならばと。ラフェアは椅子に座り、本を勢いよく開く。
開いたページ、何処でもいい。中途半端なそこに文字を書こうとペンを手に取り、それを彼に取り上げられた。
「不可能なことは書いちゃダメだよ。例えば『死者が復活する』とかね」
「…なんで、書いちゃダメなんですか?」
何故、書こうと思った事がバレたのか。ラフェアは不思議でたまらなかった。
その疑問を押し込めて、ラフェアは別の質問をする。
だって、一番最初に真実を知るのは作者だけでいい。執筆者だけでいいと思ったから。
「書いた物語を実現する君の魔法と、絶対に叶わぬ出来事は矛盾するんだよ。それをやるなら、君は世界のバグとしてこの世から弾き出される」
「…つまり、矛盾する事を書けば、そう執筆した私の存在がこの世から消え去ると言う事ですか?」
「そう。逆に言えば矛盾しなければ全て叶う。魔王に勝っても、世界一の賢者になっても構わないよ。矛盾しなければ…ね?」
全て自分次第。
全て自分で決められる。
「…その通り」
目の前の勇者がニヤリと悪戯気に笑う。
「自分の物語を望むままに変えられる」
ドキリ。普段とは全く違う鼓動をハッキリ感じた。それは初めて貴方の物語を読んだ時と同じ、緊張と感動が入り混じって感情だった。