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【二年前】
自宅の洗面所で手首を切って自殺未遂をした百合は瀕死の状態で洗面所に倒れていた、そこに偶然帰って来た父に発見されて病院に搬送された、ぐったりと血を流している百合を担架に乗せて救急車は病院に向かって突っ走った、彼女はすぐ酸素マスクをはめられた
百合は四日間も意識不明だったが、五日目の朝になって、ようやく暗い意識の底から動きだした
初めは、何か恐ろしいことが自分の身に起こったと漠然と悟った、彼女は思い出さぬよう逆らったが、それがなんなのか思い出したくなかった
それでもその恐ろしいことは、次第次第に頭の中のスクリーンいっぱいに、高村隆二の笑顔が映っていた、百合は意識を取り戻すと、すぐにベッドの中で号泣した
身が引きちぎれるような痛みだった、そしてそれがあまり長く続いたので、またそのまま寝入ってしまった
夢で隆二のあのハンサムな顔・・・いつも笑っている顔、逞しかったあの腕、あの時の声・・・
過去の声は木霊しつづける・・・おぼろげな映像が万華鏡のように入れ替わり、立ち替わり百合の頭の隅を過っていく
―百合・・・君より綺麗な娘を俺は見たことないよ―
―素敵な髪じゃないか・・・シルクみたいな手触りだ―
―あの男は日本に妻も子供もいるんだよ―
次に目が覚めた時は、百合は自分の手が誰かに優しく握られているのを感じた、きっと隆二が帰ってきてくれたんだ、これからは全てうまくいくだろう、そう思って目を開けると、父が涙を溜めながら彼女の顔を覗き込んでいた
「よかった、よかった! リーファン、意識が戻ったんだね」
父は如何にも安心した調子で言った
「お前は死にかけたんだよ!二度と自殺なんかしないでくれ」
・:.。.・:.。.
四日後、百合は退院して家に戻った・・そしてある決意を胸にした
生きていこう・・・強くならなくては、こんなことで挫けたらおしまいだ、あんなヤツはもう忘れよう・・・
ゴクリとお茶を飲んだ
いや忘れない、いつまでも思い出して憎み抜いてやる・・・