テラーノベル
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パーティーから一夜明けた、刺すような日差しが照りつける休日。
私は京介に連れられて、銀座の路地裏に佇む最高級ジュエラーのVIPルームにいた。
身に纏っているのは、仕事用の地味なリクルートスーツではない。
昨日、彼に買い与えられた柔らかなシフォンのワンピースだ。
肌を撫でる上質な生地の感触が、慣れない私を落ち着かなくさせる。
眼鏡は今日も、「必要ない」という彼の短い命令でケースの中に仕舞い込まれたままだ。
「好きなものを選べ。これは経費だ」
ベルベットのトレイに並べられたのは、目が眩むほどの輝きを放つダイヤモンドのリング。
一つで私の年収を優に超えるであろうそれらを前に、私はただ圧倒されていた。
「……これなどは、いかがでしょうか。控えめですし、仕事の邪魔にもなりませんので」
私は戸惑いながらも、できるだけシンプルで、主張の少ないプラチナのリングを指差した。
けれど、彼はそれを一瞥しただけで鼻で笑う。
「却下だ。そんな細い指輪、遠目からはまだ独身に見える。……これにしろ」
京介が選んだのは、センターに大粒のダイヤが鎮座し
その周囲をさらに無数の小粒の石が囲む、溜息が出るほど豪華なエタニティリングだった。
彼は私の左手を取り、有無を言わさぬ動作で、その冷たい銀の輪を薬指へと滑り込ませた。
「……っ、重いです。こんなの、私には分不相応で……」
「お前に似合うかどうかを決めるのは俺だ。お前はただ、俺の選んだものを黙って身に着けていればいい」
京介の長く節だった指が、指輪を嵌めた私の薬指の付け根をゆっくりとなぞる。
冷たいはずの金属が、彼の指の体温を吸ってじわじわと熱を帯びていく。
それはまるで、目に見えない鎖を嵌められたような、抗いようのない支配感だった。
買い物を終え、遮光ガラスで外界を断絶した車内へと戻ると、京介は不意に私の左手を再び引き寄せた。
逃げる隙も与えられないまま、彼は私の手の甲に、深く、刻みつけるような熱いキスを落とした。
「……京介、様。……誰も、見ていません。車内では演技をする必要はないのでは……」
「これも練習だと思え」
彼は顔を上げ、私の瞳を射抜くような強さで見つめた。
眼鏡という盾を奪われた私は、その熱視線を逸らすことさえできない。
「この指輪を嵌めている間、お前は俺のものだ。心も、体も、すべて」
俺のもの。
その傲慢な響きが、熱いしずくのように私の胸に落ちて広がる。
ただの契約。
これは仕事上のパートナーシップ。
そう自分に言い聞かせているのに
薬指に伝わる物理的な重みが、私の構築してきた理性をじわじわと削り取っていくのが分かった。
「さあ、帰るぞ。今日から本格的に『同棲』の開始だ」
彼が前方の運転手に短く指示を出す。
向かうのは、住み慣れた私の質素なアパートではなく、彼が統べる超高層マンション。
もう、逃げ場はない。
二人きりの夜が、すぐそこまで迫っていた。
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