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あっという間に時は過ぎ、気がつけば結婚式を翌日に控えた前夜のこと。
ミアが幹事となり、王宮の一室を貸し切って親しい仲間でのお祝いパーティーが開催された。
 兄のユージーンはもちろん、アーロンにライル、エリアス、レイとサミュエルも参加してくれて、大変賑やかだ。
 ミアがワインの入ったグラスを掲げ、上機嫌で乾杯の音頭を取る。
 「それでは、皆様! ルシンダとクリス様の結婚を祝して! かんぱ〜い!!」
 みんなが笑顔で乾杯してくれ、ルシンダの胸が温かい気持ちでいっぱいになる。
隣に座るクリスを見上げると、クリスも嬉しそうに微笑み返してくれた。
 「やだぁ! ルシンダったら乙女の顔して、かーわいい〜!」
 酔うにはまだ早いはずだが、親友の幸せが嬉しくてたまらないらしいミアがハイテンションで野次を投げる。
 「ミ、ミア! 恥ずかしいからやめて……」
「いいじゃない、真面目な雰囲気は明日にとっておいて、今日は楽しく騒ぎましょ!」
「……だからって君ははしゃぎすぎじゃないのか。ほら、お酒の前にこっちの前菜でも食べるんだ」
 ユージーンがミアの前に料理の載った皿を差し出す。
それを見てみんなが笑っている間、なぜか呼ばれてもいない悪魔メレクが、どこからともなく姿を現した。
 そうして、アーロンとライルにこっそりと耳打ちする。
 「おいおい、お前らはこれでいいのか? まだ式を挙げてない今なら、なんとかなるかもしれないぜ?」
 これが悪魔の囁きか、と思いながら、ライルが答える。
 「いいんだ。ルシンダが幸せなら、その相手は俺でなくても」
 アーロンも笑い声を立てているルシンダの姿を見て、くすりと笑ったあと、メレクに向き直って答えた。
 「私はそこまで潔くはなれないけど……きっと私にしかできない守り方があると思う。そんな役割でもいいじゃないかと、少しずつ受け入れているところだよ」
 二人の返事に、メレクが「つまんねーの」とぼやく。
 「そんなことを言って、君のご主人に知られたらどうなるでしょうね?」
「今度は生きてられるか分からないかもしれないな」
「お、お前ら! ご主人サマには今のこと言うなよ! 絶対殺される……!」
 メレクが慌てて口止めに走る。
 「ここでほっつき歩かれると、監督者のクリス先輩に言わないといけなくなるだろうな」
「そうですね。やむを得ないでしょうね」
「わ、分かったよ! 俺は退散するって!」
 メレクが焦った様子で姿を消したあと、アーロンとライルが顔を見合わせて苦笑した。
 「……アーロン、お疲れ様」
「ライルもお疲れ様です」
 二人だけでもう一度乾杯したワインは、少しほろ苦くて爽やかな味がした。
 
 ◇◇◇
 
 「ルシンダがクリスエンド……! 明日の結婚式が楽しみすぎる〜!」
 両頬に手を当ててうっとりした表情を浮かべるミアに、ルシンダが朗らかに返事する。
 「ミアの結婚式も楽しみにしてるよ。ミアが私のお義姉さんになってくれたら嬉しいな」
「ぶっ……!!」
 ユージーンが飲んでいたワインを噴き、ミアも林檎のように真っ赤になった。
 「ルー、何を言ってるんだ!」
「そ、そうよ! どうして私とユージーン様が……!」
「……じゃあ、ミアとは姉妹になれないってこと?」
 ルシンダが残念そうにしょんぼりと眉を下げる。
 「そ、そういうわけじゃないけど……!」
「その可能性がなくはないと言えなくもないな……!」
 しどろもどろになるミアとユージーンを横目で見ながら、サミュエルがレイに言う。
 「やっぱり、学生時代から二人とも息が合っていると思っていたんですよ」
「たしかになぁ。これは教え子の結婚ラッシュになりそうだな」
 その向かいでは、少し酔いが回ってきたらしいエリアスがワイングラスを揺らしながら嘆く。
 「僕ももっと早くルシンダと巡り会えていたらなぁ……。この中で一番最初にルシンダと出会ったのがクリス先輩だろう? やっぱり羨ましくはあるよね」
 名指しされたクリスが、やや不本意そうな眼差しをエアリスに向ける。
 「そうかもしれないが、僕は最初、ルシンダと義理とはいえ兄妹だったんだ。君たちの誰より可能性が低かったとは思わないか?」
「たしかに……」
 エリアスが納得したように唸る。
 「結局、クリス様が一番頑張ったってことよね! でもクリス様、ヤンデレエンドには絶対しないでくださいよ?」
「ヤンデレエンド……?」
 聞き慣れない言葉にクリスが首を傾げる。
 「愛が深すぎる相手から、異常に束縛とか執着とかされて部屋に閉じ込められちゃったりする結末のことですよ」
 原作ゲームではそういうキャラだったんだから、と酔っているせいか余計なことを言い出すミアの口をルシンダが慌てて塞ぐ。
 クリスに前世の記憶があるとは言ったが、この世界が乙女ゲームの世界ということは話していないのだ。
 恐る恐るクリスの様子をうかがうと、クリスは何でもないように言ってのけた。
 「僕はそんなことはしない。ルシンダには自由でいてほしいんだ」
 ほっとするのと同時に、クリスの気持ちを嬉しく思うルシンダだったが、続けられた言葉に一瞬で顔が真っ赤に染まる。
 「──でも、だからといって愛が深くないわけじゃない。ルシンダがいれば、あとはどうでもいいくらい彼女を愛している」
「!?!?!?」
「きゃーー!! ここでそんなこと言っちゃう〜!?」
「ちょっと、そういうのは二人きりのときにやってよ……」
 クリスの熱烈な発言に、ミアは狂喜し、エリアスは呆れ、アーロンとユージーンは怒っているような笑っているような複雑な表情をして、ライルとレイとサミュエルは笑顔で頷いている。
 「クリス様、よく言ってくださいました! さあ、もっと飲みましょう! 乾杯!」
「ミア嬢、君はワインじゃなくて、こっちの水を飲もうか」
「ねえねえ、後で失恋組で飲み直さない?」
「なんか俺も結婚したくなってきたなぁ」
「レイ先生ならすぐできますよ」
 パーティーはいよいよ盛り上がり、結婚式前日の夜は楽しく賑やかに更けていった。