テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
青く澄み渡る空の下、緑眩しい木々の枝の上で小鳥たちがさえずっている。まるで今日という佳き日のために祝福の歌を奏でているようだ。
これから門出の式が行われようとしている大聖堂では、控え室で純白のドレスに身を包んだ花嫁が兄に付き添われていた。
「ルー、とても綺麗だよ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「今度は自分の力で幸せな家庭を築くんだよ」
「うん。クリスと一緒なら、きっと大丈夫。私、ちゃんと幸せになるよ」
「……ああ。じゃあ、そろそろ行こうか」
ユージーンに手を取られ、ルシンダが控え室を出る。
本来なら、式のエスコート役は父親のはずだが、無理を言ってユージーンがその役目を務めさせてもらうことになったのだった。
大きく温かな兄の手。
前世でも今世でも、この手にどれほど助けられ、愛情をかけてもらったことだろう。
これまでの兄との思い出が次々とよみがえり、ルシンダの目頭が熱くなる。
(……だめ、今日はずっと笑顔でいるって決めたもの)
この世界でルシンダはたくさんのかけがえのない宝物を得た。
ルシンダを大切にしてくれる家族、気の置けない友人、そして、人生の伴侶となる唯一の人。
今日はその人たちに一番幸せな笑顔を見てもらいたいのだ。
上を向いて涙をこらえていると、ユージーンが静かに立ち止まった。
「ルー、着いたよ」
目の前には、聖堂の大きな扉。
花嫁の訪れを待っていたその扉が今、ゆっくりと開かれ、ルシンダの目にバージンロードの鮮やかな赤が映った。
聖堂の中には、フィールズ公爵夫妻とジュリアン、国王夫妻、アーロンと第二王子、ミア、ライル、エリアス、サミュエル、レイとフローラ親子、それからキャシーやマリンなどの魔術学園時代の友人たちに、ジンジャーやチェスターら魔術師団の仲間たちの姿も見える。
「……さあ、行こう」
ユージーンと並び、一歩一歩踏みしめるようにバージンロードを進んでいく。
祭壇へと真っ直ぐに伸びた先には、ルシンダにとって一番特別で、最も愛しい人が待っていた。
「……クリス、ルーをよろしく頼むよ」
「はい、もちろん」
繋ぐ手が、ユージーンからクリスへと交代する。
兄のように安心できて、幸せを感じられる、大好きな手。
光あふれる大聖堂に、神官の厳かな声が響く。
「汝、クリス・ランカスターは、ルシンダ・フィールズを生涯愛することを誓いますか?」
「はい、誓います」
「汝、ルシンダ・フィールズは、クリス・ランカスターを生涯愛することを誓いますか?」
「……はい、誓います」
「では、誓いの口づけを」
神官の言葉にルシンダとクリスが向かい合い、ルシンダの顔を覆うベールをクリスがそっと上げる。
ルシンダの頬はほのかに上気し、こちらを見上げる瞳は今にも泣きそうなくらいに潤んでいる。
この世で一番美しい花嫁だと、クリスは思った。
ルシンダの白くて華奢な肩に優しく手を触れ、小さく艶やかな唇に、そっと口づけする。
数秒の口づけを交わすと、神官が胸に手を当て宣言した。
「──それでは、今この場をもって、二人は夫婦となりました。神の祝福があらんことを!」
◇◇◇
「おめでとう!」
「末永くお幸せに!」
ルシンダとクリスが大聖堂の外へ出ると、一足先に待っていた参列客たちから、色とりどりのフラワーシャワーを浴びせられた。
「クリス様! お姫様抱っこしてください!」
ほぼ間違いなくミアが叫んだリクエストに、クリスが即座に応えてルシンダを抱き上げる。
驚いてクリスの首に手を回すルシンダに、クリスが穏やかな声で囁いた。
「ルシンダ。この世界にやって来てくれてありがとう。今世の君を必ず幸せにする。ずっと僕と一緒にいたいと思ってもらえるくらいに」
「今だって、そう思っていますよ」
ルシンダがくすっと笑って答えると、クリスは幸せそうな笑顔を浮かべた。
「ルシンダ。今もこれからも、心から愛している」
「私も、クリスが私の人生で最愛の人です」
クリスがルシンダに口づけする。
誓いのキスよりも、もっと深く。
友人たちが歓声をあげる。
花嫁と花婿二人の幸せを約束するかのように、暖かな日の光が降り注いでいた。
〈番外編に続く〉