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「こんな素人が商品を出すような三流以下の店で働くことが、日菜の将来の足しになると、本当におまえは思っているのか?」
「……」
「おまえもケーキも素人受けにはいいようだが…フッ、俺から見れば、ただの家庭料理程度だ。そんなものしか作れないおまえと日菜では、不釣合いだ」
さすがの晴友くんも、言葉を失ってしまう…。
「これが違いだ」と見せつけるかのように、お兄ちゃんは持っていた箱を開けた。
「短い間だったけど、日菜が世話になりました。これは、うちで出しているものだが、みなさんで。さぁ帰るぞ、日菜」
お兄ちゃんに背中を抱かれ、入口に向かわせられる…。
こんなにあっさりお別れなんてできなくて、振り返る。
「…みんな…っ」
言いたいことが、山とある。
ごめんなさい、ありがとう、たのしかった、うれしかった、くやしかった…。
でも、いろんな感情が溢れて、言葉にならない。
代わりにとめどなく出てくるのは、大粒の涙だけ…。
わたしは、何のためにここに来たの。
迷惑かけて、支えてもらって、頑張って…
でも、結局、なんにもできなくて―――。
きちんと一人立ちできたわけでもなければ、本当の目的だった、晴友くんへの告白もできていない。
お兄ちゃんが過保護なのも、結局はわたしがいつまでも頼りない子だからだって、とっくに解かってる。
何もかも、ダメ。
ダメダメで、頼りないこんなわたし、もう嫌…。
このまま去ってしまったら、もっと自分のことが大嫌いになってしまう。
晴友くん…。
せめて…せめてこの想いだけは伝えたい。
あなたを好きになったことで、このリヴァ―ジでの日々が始まったのなら、終わる時は、想いを打ち明けて去りたい。
それがわたしの願い。やるべき、一番の目的…。
「日菜…?っおい…どこへ…!」
車に乗せられそうになったところで、お兄ちゃんの手から逃れた。
そして戻った。リヴァ―ジへ。
大好きなスイーツと大好きな人がいる、大好きな場所へ。
すると、店からも出てきた人が。
晴友…くん…!
わたしは歩みをやめ、やがて同じように止まった晴友くんと向かい合った。
「日菜」
「晴友くん…。最後に、どうしても伝えたいことがあるの…。わたしは、ずっと、ずっと前から…」
「『好き』だ」
やっと言えた言葉。
それは、ふたりきれいに重なった。
なにが起こったのか理解できずにいると、ぐいっと、急に引き寄せられて抱き締められた。
「好きだ」
「……」
「ずっと前から、ずっとずっと好きだった」
「……」
耳を疑った。
うそ…
うそ…。
どうしてわたしが伝えようと思っている言葉が、晴友くんの口から出てくるの…。
「どうして…?」
「…知らねぇよ。いつの間にか好きだったんだ」
「どうして…」
「だからわかんねぇよ…。こんなめんどくさいヤツ、おまえは嫌かもし」
「どうしてわたしが言おうとしたことを言うの…?イジワルっ…!…わたしだって、ずっとずっと前から…このお店にアルバイトに入る前からずーっと、晴友くんのことが大好きだったのに…」
はっとなって、晴友くんがわたしの身体をはなした。
「ほんとか…?じゃあ、俺たち、知らない間に、ずっと前から両想いだったのか…?」
「そう…みたい、だね…」
うなづくわたしだけど…。
嘘みたい…。
夢じゃない、よね…。
と、指を伸ばしたら、晴友くんが先にわたしの頬をつねった。
痛い…。涙が、また落ちた。
けれどもそれは…しあわせなうれし涙…。
「おーまーえーらぁあああ…!!」
感激にひたる余裕をあたえず、怖い声が飛んできた。
「やっぱりそういうことだったのかぁあ日菜ぁああ!!」
「お、お兄ちゃんっ!」
「凌輔さん…っ」
「誰が『凌輔さん』だ!なれなれしく呼ぶな!日菜からはなれろっ!」
「きゃっ」
お兄ちゃんのこぶしが晴友くんの頬に―――入らなかった。
パシッとあっけなく晴友くんにつかみ取られてしまったから。
「凌輔さん、俺、こうなったら負けませんから。日菜は絶対に渡しません」
「な、なにぃ…!いい度胸だ…!」
「お兄ちゃん、ダメだよっ!晴友くんにケンカでかなうわけ」
「誰がケンカだっ。パティシエとして、だよ。俺は絶対に凌輔さんを超えるパティシエになってみせます」
そこに、騒がしくなった店前の様子に気づいて、みんなが飛び出してきた。
抱きあっているわたしと晴友くんを見て察したのか、みんなニコニコしていた。
「どうやら、ちゃんと略奪できたようね。できなかったら姉弟の縁を切っていたところよっ」
「やーっと素直になれたようだね、晴友くん」
「日菜ちゃん、長かった片想いもこれで実ったね」
「おめでとう!よくがんばりましたっ」
わたしは涙をぬぐって、笑顔で首を振った。
だって、みんながいなかったら、この片想いは続けられなかったはずだもの。
晴友くんが大好きでリヴァ―ジに来たけれど。
今は、いろんなことで支えてくれたみんなのことも、大大大好き。
みんなとはなれるなんて、できないよ。
「わたし、やっぱりお店やめたくない…!このお店でまたお世話になってもいいですか…!?」
そうしたら、みんなは笑顔で言ってくれた。
『もちろん、大大大歓迎!ようこそ、リヴァ―ジへ!!』