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(これって、かなりまずいよね)
ひゅうぅぅう……と真っ逆さまに落ちていくからだ。足下がリボンのようなもので拘束されてしまっては、逃げる何てこと出来なかった。どうにか、脱出を試みてみたが、リボンが切れることもなく、私は、度重なるサソリの襲来と悪魔の召喚によって出来た深い穴の底へと引きずり込まれていた。
もっと、心配するべき何だろうけど、悪意を感じられず、殺意も感じられず、私はただ引きずりおろされているような、そんな気持ちだった。まあ、危険、まずいっていう状況には変わりないんだろうけど、今すぐに殺される可能性はないというわけだ。
「……わっ」
ようやく、奈落の底についたのか、私はクッションのようなものの上に落ちる。だが、それはクッションではなくて、サソリの死体だと気づき、悲鳴を上げそうになる。もう血は乾いてしまったのか、触ってもすぐには症状が出なかった。サソリの血は、毒性が強いっていっていたし、即効性とも効いていたので、今大丈夫ということは、多分その心配はないのだろうと。
だが、心配はそれじゃない。
「上、全然見えない」
混沌の中、肉塊の中に閉じ込められたような闇が私を襲った。上を見ても、一縷の光も見えなくて、すぐには、地上に戻れそうになかった。けれど、何でか知らないけど、頭は妙に落ち着いていて、地上にいるであろう、二人は大丈夫なのかとか、巻き込まれていないのだとか、そんなことばかり考えてしまう。自分の保身に走れば良いのに、変なところで自己分析を始めてしまって、仕方なかった。
(でも、私をここに引きずりおろしたのって、悪魔……だよね)
この状況からして、それしか考えられないだろう、とは思うのだが、イマイチピンとこなくて、悪意も殺意も感じられないからか、私は、信じられずにいた。信じてしまえば、それまでのことなんだろうけど、悪魔とはいえ、姿形はラアル・ギフトは訳で。
(何それ、何かむかついてきた)
ラアル・ギフトじゃなかったらいいのか、といわれたら、嫌だ。姿形がラアル・ギフトだからいやなのだ。それに、中身が、そのラアル・ギフトよりも、面倒くさい奴かも知れないわけだし。
悪魔というくらいだから、すごい嫌な性格してるんだろうなっていうのは目に見えて分かることで。
(悪魔……悪魔か……)
未知数な事が多いため、何も保証が出来ない。命の保証? それとも、戦いに対しての保証だろうか。
「うん……ううん」
「なーにが、うん、ううん。なの?」
「へ?」
べろりと、耳に生暖かい感触が這った。思わず、声を漏らして、飛び上がって暗闇の中で後ろに下がれば、後ろに感じたはずの気配は消えてしまった。でも、確かに、ラアル・ギフトの声だった。けれど、彼は、警護を外さない男のはずで。
いきなりのことで、頭が混乱してしまったこともあって、正しく判断できなかったけど、もう、ラアル・ギフトはいない。禁忌の魔法を使った代償は、その召喚者の身体を奪うことだから。
だから、今の声は、グランツやラヴァインでなければ、ラアル・ギフト……悪魔の声だと。
(てか、今、耳舐められた?)
触れるのも、気持ち悪くて触れたくなかったが、そっと耳に触れてみれば、そこには確かに、生暖かい感触がして、唾液がついていた。最悪だ。
「ふん、ふん、へーこっちの人間じゃないんっすね。ふーん、ほーん」
「誰、姿を現しなさいよ!」
暗闇は、視覚を遮断されるから恐怖を感じてしまう。それは、人間誰しも仕方がないことである。それを理解しているから、無駄に、恐怖を抱くのは、相手の思うつぼだと思った。だから、私は、ここでくっしてはいけないと、気持ちを強く持つ。
自分が、足手まといなんじゃないかとか、必要とされないんじゃないかとか、何でこんなに疑われなくちゃいけないのだとか。そんなことで怖くて、マイナスな気持ちになっていたというのに、ここでは、恐怖しないのか、何で強気になれるのかって、自分でもおかしいなって思っちゃうわけで。けど、こういうのに、私は強いんだなあとも思った。
まあ、それは置いておいたとして。
暗闇の中で響くのは、私の声だけで、悪魔の声は、聞えてこなかった。でも、悪魔のいった「こっちの人間じゃない」という言葉は、もしかして、私が転生してきたということを知っているのではないかと言うこと、バレているのではないかと思ってしまった。
バレたところで、一体何が不都合なのかと言われたら、別に不都合ではないが、グランツやラヴァインに説明するのは面倒くさいだろうなっていうのはある。聞かれて、こうこう、こうですって、答えた後、彼がどんな反応をするか分からないし。というか、不都合はないといったけど、不都合だらけなのではないかとも思った。
というか、悪魔には何でそれが分かるのか。
(まずは、この暗闇から脱出する方法を探さなくちゃだけど)
ここが、あの肉塊の体内や、混沌の中と違う暗闇っていうのは理解できる。いや、もしかしたら、悪魔が作り出した空間という可能性もなくはないが、奈落の底だと考えた方が良いだろう。
ようやく落ち着いてきた頭が、魔力を集めるのに最適な思考力を蓄えてくれる。大丈夫、いける、と自分に言い聞かせて、私は目を見開いた。
まずは、光を集めなければ、と魔法で光を創り出そうとすると、ふと、私の手に誰かの手が重ねられた。
「わっ」
「きゃああああッ!?」
一瞬ほんのりと、明るくなったため、その顔がはっきりと見えてしまった。というか、驚かされた時点で、私の心臓は跳ね上がって、その場で尻餅をついてしまう。幸いなことに、そこには何もなくて、怪我をする事はなかった。けれど、また不安定になってしまって、魔法が発動できない。
(ちょ、ちょっと)
私が驚いていれば、きゃはははっ! と、馬鹿にするような、腹から笑っているって分かる声が暗闇の中に響く。悪魔だ、これは、悪魔だって、私は思いながら立ち上がって、もう一度呼吸を整えて、魔法を展開する。そうして、やっとあたりを照らすことが出来て、暗闇からヌッと、影が出てくるようにして、ある人物の人影が映し出された。
「ラアル・ギフト……違うか、アンタは悪魔?」
「そういう、君は聖女……だけど、聖女じゃないんスよね。此の世界の人間じゃない。外部の……転生してきた人間って言った方が合ってるッスか?」
ニヤリと笑った、その顔は、ラアル・ギフトの身体には似合わないなあ、と思いながら、私は警戒心をはる。
何ともフラットな喋り方で、それでいて、私を見下しているようにも聞えるその態度に、私は何を言えば良いか分からなかった。気を抜いて、殺されたくもないが、見下されているのがいやというかラアル・ギフトの身体っていうことで、この間散々された仕返しをしたいって言う気持ちも出てきて、私はどうしたものかと悩む。でも、取り敢えずは、こちらの出を伺っているであろう、悪魔に対して、私も強気にならなければと思った。見透かされているかも知れないけれど、強気でいないと、負けてしまいそうな気がする。
「だったら、何?」
「おっ、否定しないんっすね。いやあ~普通、そこは否定するでしょ」
「否定したところで、アンタが分かっていたら意味ないのよ。どうせ、全て詠めているんでしょ」
私がそういうと、悪魔は、ラアル・ギフトの身体を乗っ取った他人は、キョトンとした顔で私を見た。それが、まるで見当違いだとでもいうように。
「いやいや、全部はわからないッスよ。だって、全て見たわけじゃ無いから」
「でも、さっき」
「一瞬舐めたくらいじゃあ、全部わかんないっすね。難しい話っすけど」
なんて、悪魔はいう。
もしかして、さっき舐めたのは記憶を見るため? というか、そんな機能が悪魔にあるのだろうか、というところから疑問で仕方がない。だから、舐めた? 驚かせるためじゃなくて? なんて感くぐってしまうが、もしかしたら、そこまで深く考えなくても良いのではないかと思った。
ラアル・ギフトの中には、どんな悪魔が入っているのか。そこは、気になるけれど。
「アンタの目的は何?」
「唐突っすね。つか、まず、この髪切らせてくださいよ。すっげえ邪魔なんで」
そういうと、ラアル・ギフトの長い三つ編みをばっさりと切って、アシンメトリーのショートカットに一瞬にして変わってしまう悪魔。確かに、その髪型なら、何処か幼さが見えて、今の喋り方とあっているのではないかと思ってしまった。
(って、感心してる場合じゃないのよ!)
多分的、だからこそ、警戒心を持たなきゃいけないのに、私は、何故か、魅入ってしまったというか、髪を切ったぐらいで、他人になれないことくらいは分かるけど、印象がガラリと変わってしまった、悪魔を見て、言葉を失った。
「見惚れてたんすか」
「アンタもそれ聞くの?」
クスクスと笑った悪魔は、悪戯っ子のように口元を歪めて、愉快そうに私を見ていた。目の色は、血のように真っ赤に染まっていて、ラアル・ギフトとはまた違うものになっていた。耳も尖っているような気がするし、悪魔に身体を乗っ取られたっていうのが、すぐにでも分かってしまった。
ふーん、としかそんな感想しか出てこなかったけど、それでも、何というか、気は抜けないなあと思った。
「で、俺に、なんか聞きたいようッスけど、何をききたいんっすか?天馬巡ちゃん」
「……っ」
私の本名を口にすると、悪魔は全て分かっているよ、と囁くように妖美な笑みを浮べた。