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(矢っ張り、知ってる……)
前世の名前を呼ばれるの久しぶりというか、そのフルネームが久しぶりに聞くような気がしたから、少し慌ててしまった。だが、元々それが私の名前で、エトワール・ヴィアラッテアっていう名前は借り物なのだと、改めて思う。
(だったら、エトワール・ヴィアラッテアが、自分の身体と名前を取り戻しにくるのって可笑しなことじゃないんだよね……)
それでも、私はこの身体がないと、此の世界に存在できないわけで、だからこそ、平穏と秩序を守る、そして、私がここで生きる為には、エトワール・ヴィアラッテアをなんとか説得しないといけないのだ。
「天馬巡ちゃんであってるッスよね」
「だったら、どうしたの」
「ううん?どうもしないッスよ。ただ、身体を借りているだけの異邦人なんだって思って」
「……」
何がいいたい? 何がしたい? それがわからないからこそ、変な気分になるというか、もやもやっとした気持ちが残って仕方がなかった。だからといて変な風に手を出すわけにも,存在が確認できたからと行って特攻するわけにも行かなかった。何をするのが最適解か分からないからこそ、身の振り方が分からない。
異邦人、っていう表現はまさにそうだと思う。綺麗な表現だと思ってるし、それがおかしいことじゃないのだが、しっくりきすぎてそれも気持ちが悪い。
「アンタの目的は何?」
「目的、変なこと聞くっすね。あと、アンタっていうの嫌いっす」
「じゃあ、何て呼べばいいのよ」
悪魔と、対話しているというイレギュラーに私は、一瞬頭をやられそうになったけれど、何とか自分を保つ。相手が、悪魔だから、でも、フラットに喋ってくるから訳が分からなくなっていた。
悪魔の姿のラアル・ギフト? ラアル・ギフトの身体を乗っ取った悪魔は、うーんと考え込むような仕草をした後、何か思いついたように、ポンと手を叩いた。実際、ラアル・ギフトが何歳だったかは、分からないし、髪を切ったことによって、幼く見えてしまうのは、何故だろうか。だから、実際の年齢、多分私やグランツよりは高くて、でもアルベドよりは年じゃない? いや、もう、分かんないけど、アラサー出ないことだけは確かだった。
「そんなに、俺の名前気になるんすか」
「気になるっていうか、アンタはもう、ラアル・ギフトであって、ラアル・ギフトじゃないんでしょ。だから、ラアル・ギフトって呼ぶのもアレかと思って」
「そうっすね~悪魔は復讐の代行者じゃないって分かってんのに、なーんで、悪魔なんか召喚するんすかね。そこが、わかんないんっすよね」
などと、呆れたといわんばかりに言う悪魔。だが、その口元は歪んでいて、その滑稽さが愛おしいとでもいうように、私を見た。
人間を見下しているって言うのが分かったし、自分の身体の主であった、ラアル・ギフトをやめてあげてと言わんばかりに笑う。
悪魔は、召喚した人の身体を乗っ取らないと、この世に体現できないから……
(じゃあ、もしかして、聖女も同じ仕組み……?)
ふと、悪魔の召喚の仕組みと、私達聖女の召喚の仕組みが似ているのではないかと思った。もし、そうだったとしたら、本来のエトワール・ヴィアラッテアの魂が、この身体に入ることが出来なくて、さまよっているという感じで。それなら、トワイライトの召喚も、何となく納得できるし。
色々確認したいことは出てきてしまったけれど、目の前のことから逃げることも出来ないため、私は悪魔と対峙するしかなかった。
「アンタは、身体を手に入れられて、良かったんじゃないの?」
「まあ、そうっすね。そうじゃないと、この世に存在できないっすから」
ケタケタと笑う悪魔は、矢っ張り何も信用出来ない。早く、地上に戻りたいが、この悪魔を野放しにしても良いものなのか、分からないし……
「巡ちゃんは、何がしりたいんっすか?」
「は?」
「知りたいから、俺と対話してるんすよね。何かの時間稼ぎでもしようと思っているなら、無駄っすよ」
「それって、殺すってこと?」
「は?」
いや、は? って、いいたいのはこっちだし、こっちがいったことを、そのまま返されても困るんだけど、と、私が悪魔を見ていれば、悪魔は、私がとんでもないことを言う女、という風に見て、頬を引きつらせていた。
「何で、巡ちゃんを殺さないといけないんすか。俺にメリットは」
「いや、悪魔ってそういうものなのかなって……え、え、私の勘違い?」
「はあ……後、そうっすね、悪魔って言われるの嫌なんで、名前いうっすけど。俺、ベルゼブブっていうんすよ。悪魔ってひとくくりにしないでほしいっす」
と、悪魔、ベルゼブブと名乗った、悪魔は、私ににこりと笑った。
赤い瞳と、藤色のアシンメトリーの髪が揺れている。
信用出来ないけど、今は、彼の言葉を飲み込むしかないのかなあとも思ってしまった。それ以外、今私が出来ることってないし。
「……巡ちゃんっていうのやめて」
「じゃあ、何て呼べばいいんすか?エトワール・ヴィアラッテアは、君の名前じゃないっしょ?」
「でも」
「巡ちゃんは今困ってる」
「……っ」
「エトワール・ヴィアラッテアに、身体を乗っ取られそうで、困ってる。平穏を脅かされて、困ってる?あってるでしょ」
そういって、ベルゼブブはまた笑った。
全て理解した上で、私と話しているのかと、本当にたちが悪いと思った。此奴の目的が分からない以上、感情に流されて話すのも危ないわけだし、かといって……
どうすれば良いか分からない。初めてあうタイプの人間で……いや、悪魔なんだけど、性格というか雰囲気が掴みづらくて、フラットな喋り方をしているけれど、ねはもしかして違うかも知れないっていう可能性も出てきて。
「助けて欲しいっすか?」
「悪魔には、頼らない。アンタみたいな、信用出来ない相手には」
「信用ねえ……対価を払えば、悪魔は裏切らないッスよ?というか、裏切れない」
などと、ベルゼブブは、少し気になることをいう。
その言葉に耳を傾けてしまいそうになって、私はサッと顔を背けた。それを見て、ベルゼブブは少し悲しそうに笑った。
「久しぶりに現実世界にこれたんですよ。少しサービスさせて欲しいぐらいッスのに。何で、信用されないかなあ」
「悪魔だから」
「それは、こっちの話?それとも、前世のお話?」
「……分からない、でも、アンタが禁忌の魔法によって召還された存在だから、危険だって思ってる」
「まあ、悪魔は危険っすよ。危険だから禁忌の魔法。どの世界でも、悪魔って嫌われてるッスよね」
と、ベルゼブブは悲しそうにいった。
創作においても、聖書とかにおいても、悪魔はそういう存在だ。危険とか、危ないとか、唆すとか、良い印象はない。悪魔崇拝とかはあるけど、そんなの稀だし。
(でも、もしかして、悪魔ってそこまで悪くない?)
此の世界の悪魔は、禁忌の魔法によって召喚されるから、危険だっていわれているけれど、皆が皆危険なわけじゃないのかも知れない、と彼の表情を見て思ってしまった。でも、騙そうとしているかも知れないっていう可能性も捨てきれない。
だから、こうして、距離を取っているのに、近付いてこようとするから……
「警戒しないで」
「警戒する」
「何で?」
「胡散臭いから」
私がぴしゃりと言えば、衝撃を受けたように、ベルゼブブは後ずさった。
「始めていわれた、そんなこと」
「もとの身体が、私の嫌いな人物だからっていうのもある。後、私は、悪魔について知らない。アンタが、私の事知ってるっていう風に話すから言うけど、隠さないけど、私は転生者で、此の世界のこと全部知ってるわけじゃない。この間、禁忌の魔法について聞いたばかり。だから、悪魔についてもよく知らない」
「でも、俺の事危ないみたいな顔するじゃん」
「だって、分からないから」
分からないものは怖いって、人間の心理だと思うんだけど。
そういいたかったけど、下手に刺激もしたくなくて、いわなかった。まあ、もし、心の中を詠めるような力を持っていたら全く意味がないのだけど。
ベルゼブブは、困ったなあ、というように顎に手を当てた。少し、身長が縮んだような気がしたが、元が大きいので、一七〇代後半に落ちたくらいだろう。
悪魔のこと知ることが出来たら、苦手意識はなくなるのかもだけど。
(……知らないより、知っておいたほうがいいっていうのは、分かってる。だから)
まだ、救助に来ない二人。
来たら、悪魔との対話なんて何処かに飛んで行ってしまうだろう。どっちかといったら二人は、せんとうきょうというか、暴力に訴えちゃう側の人間だし。そうなったとしても、ベルゼブブ相手に、私達が叶うわけもないんだけど。
「どしたの、巡ちゃん」
「アンタのこと教えてよ」
「俺の事?興味持ってくれたんッスか」
「その喋り方、作ってる?それとも、素?」
「さあ、気分によってッスかね。でも、矢っ張り、巡ちゃん面白いよ」
「……」
「俺の事知りたいなんていったの、君で二人目だ」
二人目、という言葉に引っかかりを覚えつつも、私は固唾を飲み込んで、彼を真っ直ぐと見つめた。逃げたらいけない気がしたから。
自分で聞くと言って出たからには、私も、逃げるわけにはいかないと。
知らないと、進めない。それに、悪魔が私に手を貸してくれることもあるかも知れない。地獄に足を突っ込むことになるかもだけど。それでも――
(今は、戦力が欲しい)
エトワール・ヴィアラッテアに対抗する為の戦力。
「そんなに知りたいなら教えてあげるッスよ。巡ちゃん。でも、一つ交換条件」
「な、何……?」
「俺の事、ベルって呼んで欲しいっス」