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シュメール
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#一次創作
ruruha
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眠狂四郎
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ruruha
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ドアを閉めると、ロビーのざわめきが急に遠い海鳴りのように小さくなった
着替えのためにジャケットを脱いでスマホを手に取ると、出版社の広報担当マネージャーの「梅崎」から連絡メッセージが届いていた
―お疲れ様です。衣装は楽屋のハンガーにかけておいてください、後でスタイリストが取りに行くそうです、テーブルのサイン本よろしくお願いします、気を付けて大阪までお帰り下さい―
部屋の隅の長机には本日分のサイン本が百冊、山のように積み上げられていた、帯に「来春、映画化決定」と刷られた「あの虹」の表紙がずらりと並んでいる、これを全部桜子がサインしなければならない
最初こそ、出版局からマネージャーらしき人がついてきてくれたが、最近はもっぱら出向先へ一人で行かされる、梅崎の指示に従い、桜子はペンを握って一冊一冊サインした
『あの虹の彼方へ』の販売促進キャンペーンで、全国あちこちに行くようになってから、「フルマックス出版社」は膨大な印税と共に桜子に契約でスタイリストをつけてくれた
なぜなら一度イベントに出た時に着用した服は公報写真などを撮られるので着回しができない、かといって毎回自腹で服など買えない、なので舞台衣装は全部借り物だった
なので桜子は、以前の八十キロから十五キロ痩せた体を必死にキープしていた、今では大勢の人の前に出る機会が増えたので太ってしまうと出版局から借りる「Lサイズ」の衣装が着れなくなる
ドーナツを半分で止めたのはそのためだった、体型を気にせず夜中に台所を漁っていた、あの頃の自分にはもう戻れないのだ
.:・.。. .。.:・
二年前・・・数か月にわたって桜子が希実の作品に渾身の改稿をして、以前にお世話になった編集者に出版企画書をつけて原稿を送った、その知り合いの編集者が、ある巨大大手出版局に移ったのを知っていたからだ、彼からの電話はこうだった
「うちからは出せないが、実はまだ小さいが勢いのあるレーベルがある」
と原作を読んで鼻息荒く、彼が前置きした上で仲間がやっている中小企業の出版社を桜子に紹介してくれた、それが、「フルマックス出版社」だった
まだ社員二十人ほどの、小さな出版社だが手掛けているものがすごかった、「フルマックス」は沢山の韓国のIP会社と提携していて、手掛けているのは本だけではなく、動画、ボイスドラマ、ゲーム、SNS運営など、いわばエンタメの「仲介役」的な側面を持っていた
桜子は、はじめ紙の本の著者として、普通に本が売れるイメージしか描いていなかったが、活字が読まれない昨今、フルマックス出版社は、桜子も驚くほど次世代の感覚にあったキャンペーンを打ち出し、彼女をアニメ原作者として素晴らしい功績をもたらしてくれた
まず、有名な声優と原作の名場面を十五秒に切り取ったボイスドラマを、動画アプリに毎日一本ずつ配信した、声優の声に合わせてカウンターに肘をつく詐欺師の手元だけを映す
顔のない映像・・・それが学生や会社帰りの女性達のあいだで、「続きが気になりすぎる」と拡散された
さらに、「あなたを騙す結婚詐欺師診断」というタイプ別の診断アプリを公式サイトに置き、結果の画面をリスナーが自分のSNSにこぞって載せた
コンビニや全国のカフェチェーンとのコラボも、作品の世界観を壊さない小さな仕掛けを選んで、一つ一つ丁寧に積み上げていく
さらに最初は小さな深夜枠の地上波アニメとして放映されたものが、SNSの口コミで火がつき、やがてゴールデンタイムに移り、SVOD(定額動画配信サービス)各社の配信へと広がっていった
そして今・・・実写化の映像件をこぞって映画会社が争って勝ち得た会社が、有名監督を引っ提げて、まさにあの雨の日・・・フードコートで「柚原希実」が語っていた未来が今桜子の手の中にあった
・.。. .。.:・
百冊目のサインを終えた時、桜子の右手は微かに痺れていた、私服に着替え、脱いだワンピースを綺麗にハンガーにかけ、借り物のハイヒールを丁寧にそろえて置く・・・
机の上の付箋に、「ありがとうございました」と衣装会社に書き添えて、荷物を肩にかけて控室を出た
ロビーにはもう誰もいなかった、みんな打ち上げにでも向かったのだろう、当然今から大阪へ帰らないといけない桜子は誰からも声をかけられていない
―せっかく東京に来たんだから一人で美味しいものでも食べて帰ろうかな・・・―
そこでまた体重を気にしてやめた、唯一の楽しみだった食べる事さえも今は規制している
そしてこの立場になってみて、自分が思っていたより世間は原作者の扱いが悪いことに、もう気がついていた
アニメであれ、ドラマ、映画などは、桜子の原作のストーリーをその媒体の形に作り替える「ストーリーテラー」(※語り手)がいる、それは脚本家やシナリオライターと呼ばれ、尊敬されるのは彼らであって、あくまで原作者は「蚊帳の外」だった
むしろ、原作者が空気を読まずに、そんな彼らを差し置いて、あれやこれやと口煩く、しゃしゃり出ると、たちまち出版社から警告が入る「お前には本の印税が入るのだから大人しくしていろ」と無言で圧をかけられるのだ
そう・・・原作者はあくまで「素材提供者」そんな立場の人間が「味付け」にまで口を出すのは暗黙の了解で禁句だ
原作者とはどこまでも誰とも仕事を共有しない、孤独な生き物なのだ、さらに口下手な性格もあいまって、ここへきてやっぱりどんなに有名になっても、自分の生まれ持った嫌な本質は変わらないのかもしれないと思った
人に大切にされたければ
まず自分が人を愛さなければいけないのだ
.:・.。. .。.:・
外に出ると有楽町の夜風が頬に冷たかった・・・
桜子は、スマホのタクシーアプリを開いて、東京駅へ向かうタクシーを拾った、タクシーの中で出版社から恐れていたメールが届いた
とうとう、出版社から「あの虹」を超える第二作目の催促が来るようになった
コメント
2件
そりゃそうくるわなぁ🤔
えっ、この話、めっちゃ好きな流れだった……。サイン会の虚しさと、成功した今だからこそ感じる孤独、そして最後の「第二作目の催促」で締める感じ、ゾッとするほどリアルでした。昔の自分に戻れないって静かに悟ってるのが胸に刺さる。