リンド村での生活にもだいぶ馴染んできた。
私は村の散策を日課にしていた。
「サクラさんおはよう!」
道ゆく村人から挨拶をされる。
「あら、おはようございます」
私は笑顔で返す。
簡単ではあるが、コミュニケーションをとれる。
これがとても気持ち良いのだ。
*
「お! サクラさん!
とても新鮮な野菜が入ったから食べに来てよ!」
「ありがとうございます。
是非お伺いさせていただきますね」
(よし!食費が浮いた!)
「お姉ちゃんおはよー!」
村の子供が駆け寄ってくる。
「ふふ。おはよう」
私は未来の家来の頭を撫でた。
*
散策の途中、村長に呼び止められた。
「あ! サクラさん! 少し良いですか?」
「おはようございます。村長さん。なんでしょう?」
「実は……村の北の山に火竜が棲みつきまして……」
村長が困った顔で言った。
「村の狩人達が仕事にならないのです……」
「火竜を退治していただくことはできませんでしょうか?」
「うーん……火竜……?
火のドラゴン……
(金の匂い……恩の匂い……村長の弱みゲット)
良いですよ!
まぁ竜王の辰夫より強いという事はないでしょうし」
「本当ですか! ありがとうございます!
お礼はさせていただきますので!」
「はい。お任せください!」
私はニコッと営業スマイル。
村での信用度アップ、素材稼ぎ、お金稼ぎ、
レベル上げの一石四鳥になると考え、この依頼を受けた。
*
「あれ……今のさわやかな人……
本当にサクラさんだよな……?」
遠くなっていく私の後ろ姿を見つめながら、
村長はしばらく悩んだという。
ふふ。村長に借り、ひとつ。
*
宿に戻るとエスト様と辰夫がゴロゴロしていた。
「お姉ちゃんおかえりー」
エスト様は寝転びながら読んでいた本を閉じて言った。
「さ、サクラ殿!
我は夜勤明けでして……
このあとのバイトまで休んでいるだけでして……」
辰夫は慌ててソファーから起き上がった。
そんな辰夫を横目で睨みつけながら私は2人に話をする。
「な、なんで……睨んでるのですか……」
辰夫の動悸が上がっていく。
知らん。なんとなく睨んだ。
*
「エスト様。辰夫。私、決めた!」
私は宣言した。
「この村を、世界征服の拠点で確定にする。
常闇のダンジョンにも近い。
魔王軍の管理もしやすい。最適だよね」
「なるほど」
エスト様の紅い瞳が輝き出した。
「ふむ。良い考えですな」
辰夫も乗り気のようだ。
「だからこの村に居座る!」
私は拳を握りしめた。
「……世界征服は?」
不安そうなエスト様。
「……そう言えばそんな目的もありましたな」
辰夫がポツリ。
私は辰夫の両肩を掴み、ジッと眼を見て言った。
「よし! 辰夫ッ! まずは村に人を集める!」
「村を豊かにするような名物を作りますよ!」
「この村を大きな街にして、やがては大都市にするの!
サクラ帝国のねッ!!!!!」
「はい!……は……い?」
「サクラ帝国?……待って!! 私が魔王だよ!?」
エスト様が慌てる。
「だからね? 辰夫!
とても重要な任務を与えます!」
私はエスト様を無視して続けた。
「今から言う任務は辰夫にしかできないの!
辰夫にだからお願いできるの!」
「!?……お………ッ……は、はいッ!」
辰夫の眼に光が戻った。
「また無視された……」
うなだれるエスト様。
「よし!辰夫、命令よ!!」
「はいッ!!」
「今すぐに温泉を掘り当ててこいッ!」
私は笑顔で言った。
「……ん?……温泉、ですか?」
一瞬で辰夫の眼から光が消えた。
征服とは”恐怖で支配”することではない。
”便利と快楽”で依存させることだ。
温泉に浸かった者は、もう敵には戻れない。
──サクラ哲学:湯けむり支配論より。
辰夫の両肩を掴んでいる手に力が入る。
「聞こえなかった?
……温泉を掘り当ててこい。
掘り当てるまで帰って来るな!」
「ど、どのように……?」
私は辰夫の肩から手を離し、
華麗に椅子に座ると、説明をする。
「ん? ドラゴンの姿になって天空まで上昇するじゃん?
そこから超高速でキリモミ回転して地面に穴を穿つ……
”辰夫スクリュー☆零式”で一発でしょ?」
「そ、その技……我のスキルセットにありません……」
「つ! 強そう!!」
エスト様が目を輝かせた。
「あぁ、私の言い方が悪かったのかな?
ごめんなさい。まずね?
ドラゴンの姿になるでしょ?
そして天空まで上昇──高度1万メートルくらいがいいかな。
そこまで高くなると凍るけど注意ね。
そのままキリモミ回転で音速で落下するの。
そしたら深い穴が掘れるし温泉も出る。
あと、稀に死ぬ」
「……稀に……?
い、言い方の問題ではありません……」
「なるほど!簡単だね!!稀にみたいだし!!」
エスト様が無邪気に言った。
「頻度の問題でもありません!!」
「ようするに無理なんだな?
何ならできるんだよ! お前は!
竜王さんよー? えー?」
「……」
私は辰夫を一喝すると、
一筋の涙が辰夫の頬を伝うのが見えた。
「……と……まぁ冗談はこの辺にして、
村を発展させたいと思います」
私は髪を掻き上げ、足を組みながら言った。
「冗談だったんだ……」
エスト様が呟いた。
「絶対に本気の顔でした……」
辰夫が震えている。
「まぁなんか出たらそれを名物にする。
まぁ地獄の毒沼でも? 溶岩でも?
人間は案外なんでもありがたがるのよ」
「凄い説得力!?」
エスト様が感心している。
「……納得してしまった……」
辰夫が呟いた。
「っと……そ・の・前・にッ!
北の山に火竜が棲みついたらしいの。
これを退治してくれと村長さんから依頼を受けたの。
火竜を倒せば……依頼料も貰えるし、村に恩を売れる」
──そう。
ムダ様は言っていた。
『恩を売って、暴力を合法化しろ。後で殴ったって「助けてくれた人だから」で数回は許される。それが社会だ』
だから私はこの依頼を受けた。
征服の足がかりとして、実に都合が良い。
「む。火竜ですか」
「おぉー! クエストだね☆」
エスト様が嬉しそうに言った。
「火竜を倒せば、素材も出るかもだし……
私の配下にできたらアツいわよね?」
「あれ……お姉ちゃん?
前も言ったけど私たちの関係性、ちゃんと整理しよう?」
エスト様が不安そうに言った。
「うん。私が“上”ね」
即答。
「お姉ちゃん……」
エスト様はゆっくりと膝をついた。
「ちょっと辰夫と私で行ってきます。
エスト様は留守番をお願いします」
「ふむ」
辰夫が頷いた。
「ええー……私も行きたい!」
「エスト様……良いですか?
私はエスト様を守ると決めました。
それは危険があると分かっているところに
わざわざ連れて行かない、という事でもあるのです」
「じゃあお姉ちゃん!
火竜倒したら世界征服しようね!?」
「それは私が決めることです」
「あれ? それ、なんでだっけ? お姉ちゃん……?」
「……」
私は無視した。
「……」
エスト様が困惑している。
部屋の空気が静かだ。
「エスト様!
良い機会なので、スキルで、
常闇のダンジョンの配下を強引に召喚して、
様子を見てみたら?ワイトもサタンも喜ぶよ?」
「あ! そうだね!? 最近会ってないしね!」
「また歩いて帰すんですかね……?」
辰夫が呟く。
「はい。配下のモチベ管理は大事です」
「!?」
辰夫はモチベーション管理について深く深く考えた。
「じゃあ、辰夫。行こうか。
夜のバイトまでには戻らないとね」
「は……? い」
辰夫はそれでもバイトには行かすのかと思った。
「いってらっしゃーい☆」
エスト様が手を振った。
*
村の外。
辰夫はまだ「夜のバイト」を気にしている。
「ドラゴンの姿になって飛んでいきますか?」
辰夫が聞いた。
「せっかくなので、散策しがてら行きたいかな?
ふふ。頼りにしてるよ?辰夫」
「………え? あ、はい!」
辰夫が嬉しそうに答えた。
──こうして私と辰夫は北の山に向かった。
(つづく)
◇◇◇
──【今週のムダ様語録】──
《恩を売って、暴力を合法化しろ。後で殴ったって「助けてくれた人だから」で数回は許される。それが社会だ》
解説:
サクラはこの言葉を”正義の皮をかぶった暴力の免罪符”として心に刻んでいる。
ちなみにムダ様はこれをプロレス雑誌のインタビューで言ったらしいが、どこの誌面にも載らなかった。






