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辰夫と北の山の火竜退治に向かう道中、 私にはどうしても気になることがあった。
先日の冒険者との小競り合いで感じた、あの感覚だ。
攻撃が、ゆっくりに見えた。
いや、“ゆっくり”というより──
輪郭がブレないぶん、
相手の動きが先に読めた気がした。
「辰夫? 先日ね。
冒険者と揉めたんだけどさ」
私は歩きながら腕を組み、首を傾げる。
「ふむ。流石呼吸するトラブルメーカーですな」
ズドム!!
「ぐはッ……」
「その時ね?
攻撃が……こう……スローに見えたのよ」
「は、はい……」
辰夫が蹲りながら答える。
「……聞いたことはありませんな」
「だよね。ちょっと気持ち悪いのよ」
私はため息をついた。
「うーん、スキルの神眼の効果かなー?
とは思ってるんだけど」
「そ、それなら確認してみてはいかがですかな」
辰夫の声が痛みで震えている。
「何度も確認してるんだけどねぇ……
まぁ、もう一回見るか」
私は立ち止まると、空に向かって叫んだ。
「あーもー、ステータスーッ! オープンッヌ!」
\\はぁー!!ぺったん!!//
ステータス画面が開く効果音が鳴り響く。
「それ効果音ですか!?」
辰夫がビクッと震えた。
*
ステータスウィンドウが目の前に表示される。
私はスキル《神眼》の項目を確認した。
……が、何回見ても、いつもの説明だ。
「うーん……何回見ても同じ……」
私は画面を眺めながら呟く。
「……ん?
あれ、これ……タッチパネル……?」
私は恐る恐る、二本指で画面をタップした。
すると。
ぬるっと、詳細が開いた。
「マルチタッチ対応デバイスッ!!」
ズドン!!
私は思わず、ステータス画面を殴った。
ビクともしない。なんだよこれ。
「ええっ!? ざ、雑な設定ー!!」
辰夫も驚いている。
どうやら辰夫も知らなかったらしい。
*
プロパティ欄。
そこに書かれていたのは、衝撃の事実だった。
《神眼 → 乱視矯正機能(常時発動)》
「…………ほぅ?」
私は生来からの乱視持ちである。
OL時代はメガネやコンタクトがないと、
まともに物が見えなかった。
「あっ……そう言えば……
めっちゃ目が見えるッ!?」
風に揺れる草の一本までくっきり。
遠くの木の葉の裏側の陰影まで見える。
「気付くの遅ッ!?」
辰夫がツッコミを入れた。
「辰夫と戦った時もさ?
なんか周りが見えるなー?
身体が軽いなー?
とは思ってたのよね」
「乱視が治ると倍強くなるのですか!?」
「当然。ちゃんと見えるってことは、
判断も集中も別物になる。
結果、相手の動きが“遅く見える”。
ただの視力の暴力」
私の説明を聞いて、辰夫は膝から崩れ落ちた。
「そ、そんな理由で我を圧倒していたと……!」
*
──そのとき、唐突におばあちゃんの声が脳裏をよぎった。
『昔ね、眼鏡を変えて視力が回復したら、おじいちゃんが透けて見えるようになったの。ペラッペラだったわ。ん? 人として』
「おじいちゃん……
苦労したんだろうな……人生が……」
私はポツリと呟いた。
*
春風が頬を撫でていく。
道端には小さな花が咲き、
のどかな午後の陽射しが私たちを包んでいた。
──そのとき。
道の横から、イベントキャラみたいに商人が湧いた。
小さな荷車を引いている旅商人が、
にやりと笑って声をかける。
「へぇ……目の調子が良くなったみたいだな」
「誰!?……ど、どういうこと!?」
「なんとなくだが、君の目つきが変わった。
よく見えるようになったんじゃないか?」
言われてみれば。
辰夫の周りに、青白い光がうっすらと見える。
淡いオーラのようなものが、輪郭を縁取っていた。
もしかして……これ、魔力ってやつ!?
私はマジマジと辰夫を見る。
「辰夫……あんたの魔力……」
「む……?」
「ペラッペラだね」
私は笑顔で言った。
鳥の声が聞こえた。
辰夫を励ましているように聞こえた。
「生まれ変わったら貝になりたい……“厚み”があるから……」
辰夫が小さく呟いた。
*
「まぁ試しに、この石を見てみな」
商人が差し出したのは、普通の石ころに見えた。
しかし、神眼で凝視すると──
「うわっ!? 赤い光が渦巻いてる!?」
石の内部で、溶岩みたいな赤い光の筋が脈打っている。
ドクンドクンと心臓のように、光が強弱を繰り返す。
見ているだけで熱が伝わってくる気がした。
「それは“火竜の鱗”の欠片だ。
北の山の火竜から取れたものさ」
辰夫が息を呑んだ。
「この魔力の波長は……まさか、あいつか……!」
「知ってるの、辰夫?」
「ええ……まだ若い、元気な火竜です。
確かキューシュー地方にいるはずでしたが……
なぜここに?」
辰夫は遠い目をした。
「やんちゃで、よく暴走する」
「でも根は真面目で、
筋の通った話なら聞いてくれる……
はずなのですが」
「“はず”ね」
私は頷いた。
期待値は低めに、拳は高めに。
*
商人は荷車を引いて去っていく。
……が、ふと振り返って言った。
「そうそう、今度リンド村の温泉にでも寄らせてもらうよ」
「まだ温泉はないけど……変なの?」
「ハハハ。気にしないでくれ」
商人は手を振りながら道の向こうへ消えていった。
辰夫が小声で言う。
「……なんだったんだ」
「まぁこの世界では細かいこと気にしたら負けよ」
私は空を見上げた。
春の空は澄んでいて、やけに腹が立つほど平和だった。
「火竜、か。
ま!辰夫が居れば大丈夫でしょ?」
私は辰夫の背中をパシッと叩いた。
「……え?」
辰夫が一瞬だけ固まり、咳払いをした。
「……我は、ただの荷物持ちですぞ」
辰夫の口角が少し上がった。
「違うよ?
移動手段だし、
バイト代は魔王軍の唯一の収入源だし、
洗濯係だし……便利なパシ──」
私は口に手を当てる。
「……あー、違う違う。
それ全部ひっくるめて、辰夫じゃないとダメ」
「家族みたいなものだから……」(小声)
「……今、パシリと言いかけましたな?」
「だから、居なきゃダメ」
辰夫の頬を、耐えきれなかった涙が滑った。
……春の風が、その滴をさらっていく。
「パシ夫! お腹空いた。あと歩き疲れた。
ドラゴンになって乗せて」
私は遠い目で辰夫を見つめる。
「タク夫」
(つづく)
◇◇◇
──【今週のおばあちゃん語録】──
『昔ね、眼鏡を変えて視力が回復したら、おじいちゃんが透けて見えるようになったの。ペラッペラだったわ。ん? 人として』
解説:
おばあちゃん、それ眼鏡じゃなくて“人生”が見えてたと思う。