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強い酒が回り、思考のフィルターが甘くなっているせいか
自分でも口の端が少しだけ、不本意に緩んでいるのが分かった。
「おやおや、そこだけは気が合うようですね。安心しました。私も、貴方のような我の強く、身勝手な女性を、キスはおろか、抱きたいとは微塵も思いませんから」
アルベルトは、事も無げに、けれど確かな棘を込めた笑みを浮かべて返してきた。
いつもなら「機能的」と評するその涼しげな横顔を見た瞬間、酔った脳の一部がカチリと不穏な音を立てて鳴った。
「なっ……! あんたね、こんな美女を目の前にして、よくもまあそんな減らず口が叩けたわね?!」
私はアルベルトの胸ぐらをぐいと掴み、力任せに自分の方へ引き寄せた。
至近距離。
あまりに整いすぎた、けれど血の通っていない冷酷な貌が視界を占める。
「……すみません、よく聞き取れませんでした。酒の臭いがきつくて、鼓膜が麻痺したようです」
アルベルトは、わずかに視線を逸らし、まるで耳障りなノイズでも聞いたかのようにそっぽを向いた。
その冷淡な態度が、私の自尊心に火をつけた。
「機械みたいなこと言ってるんじゃないわよ! アルベルトのくせに、いい度胸ね……。あんたが抱けないって言うなら、私が抱いてやるわよ!!」
自分でも何を言っているのか、論理的には破綻しているし、意味も分からない。
けれど、売られた喧嘩に対する幼稚な対抗心と、脳を焼く酒の勢いが私を突き動かした。
勢いよく立ち上がると、そのまま重心の不安定なアルベルトの肩を全力で突き飛ばし、カウンターの奥の床へと押し倒した。
ドサッ、と鈍く重い音がして、私の下でアルベルトが初めて見るような驚愕に目を見開く。
「きゃ~~~~ッ!エカテリーナさん大胆です~!!」
背後で、ダイキリの黄色い悲鳴が酒場に響き渡った。
彼女は手を叩いて、この異常な光景を特等席で楽しんでいる。
アルベルトは床に這いつくばった状態で、困惑と、わずかな呆れを混ぜた瞳で私を見上げている。
その瞳に映る私は、きっとひどく乱れていて、それでいてひどく滑稽なのだろう。
「……酔いすぎですよ。ほら、一度離れてください」
彼は溜息混じりに言いながら、私の身体を軽々と支え、まるで駄々をこねる子供をあやすような手つきで起こしてくれた。
その手の温かさは、彼の言葉とは裏腹に、驚くほど確かだった。
自分もひらりと立ち上がり、汚れ一つないはずの衣服の埃を丁寧に払う。
「まったく、エカテリーナ…これでは先が思いやられま……」
説教がましく続けようとした彼の言葉が、ふっと途切れた。
私は、彼に支えられた瞬間に、張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れてしまった。