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「あのさ、天国ってどこにあると思う?」と俺は言った「生きてる実感があって、笑顔が絶えない、安定した、健康な、のどかな、幸せな、豊かな国」
プナールは黙っている。軽くうつむいた頭のてっぺんにつむじが見えた。赤い髪の生え際はブロンド色だ。
「ずっとずっと、遠いのかな」と俺は加えた。
「死後の世界なんて、興味ないから」プナールは、いかにも無関心というような、かすれた小さな声を出した。
「俺が言ってんのは、死後じゃない。生きてる実感のある世界のことだって。どっか遠く、見えないくらい遠くてもいいから、どっかにあるって信じたいな」
「気取った口取り、やめてよね」
「だってこんな毎日、クソ面白かねえだろ」俺はアスファルトに唾を吐いた。
「あんた、甘いよ」
商店が途切れて再び民家となり、踏切を越えると道の片側が草むらになった。ここは公園になるという噂があるが、今日も雑草が生え放題だ。奥には雑木林の頭が見え、さらにその向こうに、霞んだ古い城壁、俺の世界の果てが見えた。
「大人って、あんな過ごし方が俺達のためになるって、本気で考えてんのかな」
「何の話?」
「さっきの授業」
「言ってる意味がよくわかんないんだけど」
古いメルセデスの黄色いタクシーが、プナールの脇を煙をふいて通り抜けた。彼女は立ち止まり、鞄から煙草を出して火をつけた。
「文句があんならアタシじゃなくって先公にしたら?」
「それで解決すんなら、とっくにそうしてる」
太陽が雲の脇へ退くと、横一列に並んだ城壁の一部に光が差し込んだ。
「いろいろ言う前に、まずは平均点取ることね」
「これは点数とは関係ない話だ」
「負け犬の遠吠え、やめてよね」
俺はそこで黙った。