「勇人さん、高校時代の後輩の女性と……不倫…………してたんですよ? もしかしたら、今も……関係が続いているかもしれませんが……」
恵菜は声が震えそうになるのを堪えながら、かつての義母を真っ直ぐに見つめ返すと、良子は息子を侮辱されたと思ったのか、表情をグシャッと歪ませた。
「あなた! 勇人が不貞を働いたっていうの!? あの子に限って、そんな事するワケないでしょ!?」
突然ヒステリックに金切り声を上げた良子に、周辺にいた客から、一斉に軽蔑の眼差しを向けられる。
(…………まさかの逆ギレ?)
『うちの子に限って』発言が、元姑の口から飛び出し、恵菜は証拠として、勇人と理穂のメッセージのやり取りをスクリーンショットした画像を見せた。
「こんな画像、あなたが捏造したんじゃないの? 勇人が不倫するワケないじゃない! 仮に、あの子が不倫してたとしたら、あなたの『妻としての努力』が足りなかったんじゃないかしら? あなた、結婚してた時の体型、コロコロしてたし……」
やたら世間体や外見を気にする良子の発言に、恵菜は俯きながらも、怒りの炎に油が注がれていく。
良子は、勇人と結婚が決まった時、嫁と何でも言い合える関係になりたい、と言っていたのを、恵菜は不意に思い出した。
(だったら私も…………言いたい事を言わせてもらうしかない……。もう早瀬家の人間ではないし)
彼女は、再び大きく息を吐き切り、顔を上げて、元義母に鋭い眼差しを突き付けた。
タイミングを伺っていたのか、カフェの店員がトレイにブレンドコーヒーを二つ乗せ、恵菜と良子の前にコトリと置くと、そそくさと席を離れていく。
「もう一つ。先日、私の実家の前で、勇人さんに待ち伏せされました。私は友人と一緒でしたが、身の危険を感じて逃げ、友人の勧めで、父に勇人さんが家の前にいる事を、メッセージを通して伝えました。ハッキリ言って、迷惑です」
恵菜の言葉も虚しく、良子は憮然とした面持ちで彼女を凝視していた。
「勇人に言ったのよ。どうしても恵菜さんと復縁したいのならば、恵菜さんのご両親にも、きちんと伝えなさいって」
(この人は、息子に…………ストーカー紛いの事をさせてるってワケ…………?)
──ヤバい。早瀬親子は危険過ぎる。
一刻も早く、この場から立ち去らないと。
恵菜はブレンドコーヒーを、一口だけ含むと、徐に財布を取り出した。
「改めて申し上げますが、私は勇人さんと復縁するつもりは一切ありませんし、これ以上お話する事もありません。失礼します」
二人分のコーヒー代をテーブルに置いた恵菜は立ち上がり、良子に一礼すると、逃げるようにカフェを後にした。







