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わたしはきっと、たくさんの夢を見ていたのだろう。しかし、そのほとんどは忘れてしまったらしい。
それでも、余韻みたいなモノは残っていて、何かに追いかけられたり、身体がありえないくらいに引き延ばされたりだとか、家族で暮らしていた想い出とか、おうちの光景やおともだちの顔なと、恐ろしいや懐かしいが混ざり合った夢の重さは、目覚めた瞬間の具合で、なんとなくだけど理解はできていた。
わたしを覗き込むお母さまのお顔は、涙でくしゃくしゃになっていて、赤くなった鼻頭は子猫のようで可愛かった。
数人のお医者さまたちが、慌ただしく行ったり来たりしている中、母さまは笑顔を浮かべて、
「響子、おはよう…」
と、言いながら頭をなでてくれた。
わたしは、
「ソーダ水が飲みたい…」
と、冗談まじりに笑ってみせたけど、実際に喉はカラカラで、声もかすれていた。
始終、薄っぺらい紙切れが喉の奥に張り付いているようで、頭の中もぼやけた感じだった。
そうだ、わたしは道の真ん中で倒れて、お母さまは泣き叫んでいたんだ…。
だとしたら、ここはどこなのだろう、もしかして日本にいるのかしら?
混乱するわたしに、ひとりの男性のお医者さまがやさしく話かけてくれた。
日焼けしたお顔はとても健康的で、白衣が際立ってキレイに見える。
お父さまとはちがう感じのお医者さまは、声も大きくて、笑うとこめかみに皺ができた。
図鑑で見た、サメの横顔みたいだ。
「お加減はいかがですか、そのままでいいからね、これをゆっくりとお飲みなさい」
差し出されたお水はとてもおいしかった。
わたしは疑問をぶつけた。
「あの、ここは日本ですか…?」
すると、お医者さまは一緒驚いた顔をして、そのあとで楽しそうに笑いながら言った。
「いやあ、無理もない、なにせ3日も眠っていたんだから。此処は病院ですよ。日本ではないけれど安心して眠れますからね」
正直、わたしは驚いてしまった。
浦島太郎も、こんか気持ちだったのかしら?
お母さまも、ニコニコと笑っている。
「それでは。また伺いますから、もうしばらくゆっくりなさってください」
お医者さまは、そう言い残して部屋を後にした。
わたしは、改めて室内を見渡した。