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一体全体どうなってるんだ。

急に犯罪思考に染まったクラスメイト。そして唐突に現れたゴスロリ幼女達による殺人。


まったくこの世界は狂ってるとしか言いようがない。

なんて、現実逃避をしたところで一向に事態が改善するはずもなく――


「さて、【リハーサル】の目撃者であるぬしへの処遇じゃが……自衛隊員に指示を仰ぐとするかのぉ」


「待ってくださいお姉ちゃん。この人をどうするか、その判断力も私達は問われてると思うのです。指示なんて聞いてしまったら、減点されちゃいますよ?」


「うむぅ……」


正直なところ、同じ事を繰り返す毎日にうんざりしてて。

それでも小さな幸せにしがみつき、自分の気持ちを偽りながら作った【平穏】に身を委ねる。


まるで自分が薄く引き延ばされ、薄く死んでゆくような生活。

【これから先も同じような日々を続ける、それが人生なのかもしれない】そう芽生えつつあった俺の常識を――


そんな日常を彼女たちは呆気なく崩していく。



「では【リハーサル】の目撃者であるそこのお兄さん。私に殺されるか、お姉ちゃんに殺されるか、選んでください?」


人間っていうのは、いつ死ぬか本当にわからないものだ。

こんな事になるなら、もっと自分のやりたい事をやっておけば良かった。

激しい後悔が脳裏を埋めつくすなか、ふと天使の笑顔が浮かぶ。それは妹の夢来みらいだ。

生きて妹の夢来みらいと一緒にいたい。それに優一達とくだらない会話で盛り上がったりしたい。なんてことのない日常がどれ程大切だったのか、それに気付くと死にたくないという思いが強くなる。


ビビり過ぎて腰が抜けてしまっていても。

どんなに情けなく、みっともなくとも……なんとしてもこの場を切り抜けなければ二度と夢来みらいに会えなくなってしまう。


そんな決死の思いに天が応えてくれたのか、一筋の光が落とされた。


「待つのじゃリアよ。こやつは【リスト】にいなかったぞ」

「え、お姉ちゃんは【リスト】に載ってる他の【患者タゲ】も覚えてるのですか?」


幼女姉の方が、まさかの制止をかけてくれたのだ。


「うむ。これぞ年の功じゃ。無駄にリアより歳を取ってないのじゃ」

「私と数秒しか歳の差ないですよね……でもそんなお姉ちゃんの優秀さに、私は感動です」


『それでは』、と心底楽しそうに双子の妹が俺に近付いてくる。

後ずさりをしても、にこーっと笑いながら接近する幼女からは逃れられない。


「この人、【出禁】にするしかないですね」

「わしらとの思い出禁止・・・・・じゃのぉ」


「サクッと記憶を消しちゃいます」

「うむ。ガチ恋勢への対処方法を、【リハーサル】ではこのように活用するのじゃな」


「ではでは、【魔史書ヒストリカ】。読み解くは除説リード・エキスタ――――」


双子妹の文言に再び、分厚い書が光り輝く。それに伴って、隣に立つ双子姉から煌めく粒子が漂い始めた。


「【幸福因子サイリウム】の散布は任せるのじゃ……」


「叙せ――彼の者の記憶を除せ――」


双子妹が俺を指差し本の輝きが強まってゆく。

良く分からないけど、これで命が助かるなら記憶の一部なんて喜んで差し出してやる。


「このお兄さんから、私達に関する記憶をごっそり消し去ってください――」


その声は柔らかな木漏れ日のように暖かく、まるで歌を聞いてるかのように心地よい。

ふわーっと意識が遠のきそうになる。

それから気持ちの良い浮遊感を味わって数秒が経てば、朦朧とした意識が完全に戻る――――ただ、それだけだった。


大志たいしが暴走し、目の前の双子が殺してしまった事をバッチリと覚えている。



「はじめまして、お兄さん?」

「何度目かの、はじめましてじゃのぉ」


「ヒィッ!」


反射的に彼女たちにビクついてしまう。

すると双子は不思議そうに首を傾げて俺を凝視してくる。


「あれ? この人、記憶が消えてないです?」


「どうやらそのようじゃな」


「じゃあこのお兄さん……『絶望因子ブーイング』……『欠乏因子アンチズム』持ちなのですか?」


「わからぬのぅ」


「どっちにしろ【中二病】の候補で間違いなさそうですね。やっぱりお兄さん。ここでお姉ちゃんに殺されるか、私に殺されるか、選んでください?」


何のためらいもない無関心な表情が向けられる。

幼女の冷たい視線と声が、俺の心を貫いた。



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