テラーノベル
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25年前、2000年6月7日、水曜日の正午。
犬吠埼病院前駅から乗車した一人の少年が、突然、懐から拳銃を取り出した。
次の瞬間、乾いた銃声が、バスの天井へ向けて響き渡った。
──パァン。
突然の威嚇射撃に、平穏だった車内は一瞬にして恐怖に包まれる。
乗客たちは身を縮め、悲鳴を上げた。
「うるせーんだよ!」
少年は苛立った声を張り上げると、今度は怯える乗客の一人へ銃口を向けた。
その瞬間、鉄雄が運転席から声を上げる。
「お待ちください!」
少年の視線が鉄雄へ向いた。
「お客様には手を出さないでください!」
「黙れ!」
少年は鋭く吐き捨て、鉄雄を睨みつけた。
「てめーまで俺を馬鹿にしやがんのか?」
「いいえ・・馬鹿になどしていません」
鉄雄は恐怖を押し殺しながら、落ち着いた声で答えた。
「ですが私にはお客様を安全に
目的地へ送り届けるという責務があります」
少年は何も答えない。
ただ、拳銃を握ったまま鉄雄を睨んでいた。
「ですからお客様には手出しをしないでいただきたい」
鉄雄は真っ直ぐに少年を見つめる。
自分が何を言えば少年を刺激するか分からない。
次に銃声が響けば誰かが命を落とすかもしれない。
それでも鉄雄は運転手として乗客を守ろうとしていた。
「それだけは・・どうか・・どうかお願いします」
車内に、重苦しい沈黙が流れる。
誰一人として動けない。
誰一人として声を発することもできない。
少年もまた、何も答えなかった。
ただ黙ったまま、鉄雄を見つめていた。
◇ ◇ ◇
鉄雄から語られたバスジャック現場の生々しい状況に、一同は息を呑んでいた。
誰も言葉を発することができない。
そんな重苦しい沈黙の中、鉄雄は静かに話を続けた。
「私は激昂している少年を
何とか宥めようと尽力いたしました
少年を何とか落ち着かせなければ
お客様の命が危ないですから」
そんな鉄雄を龍河は感心したように見つめる。
「そんな危機的状況で
よくそんな冷静な判断が出来たもんだぜ」
「いえ、そんな事はありません・・・」
鉄雄は静かに首を横に振った。
「私はただ、誰一人犠牲になって
欲しくなかった。その一心でした・・・」
再び、部屋に沈黙が落ちる。
だが鉄雄は、わずかに表情を曇らせた。
「ですが、それが逆に少年の神経を
逆撫でする結果になってしまいました」
「え?どうして?」
さくらが思わず問い返す。
「お客様の中には、お子様もいらっしゃいましたので
私が冷静でいなければ、不安にさせてしまう
そう思って平静を装っていました」
鉄雄は言葉を詰まらせながらも続ける。
「しかし少年には、それが『こいつは俺を舐めている』
という解釈になってしまったようです・・・」
「なるほど・・・」
白縫信愛が静かに呟く。
鉄雄は、その先に待っていた出来事を思い出すように目を伏せた。
「そして少年は、持っている
拳銃を私に手渡し、こう・・言いました」
その場にいる全員の視線が、鉄雄へ集まる。
「『おまえの命か乗客の命、どっちかを選べ』」
鉄雄の言葉に、空気が凍りついた。
「『生き残っている方を助けてやる』と・・・」
焔垂が、ようやく事態の全容を理解したように呟く。
「なるほど・・そう言う経緯があったのか」
馬場は眉間に皺を寄せた。
「『これなら冷静じゃいられないだろ?』
って挑発のつもりだったんだろうな」
「ひ、酷すぎる・・・」
茜が青ざめた表情で呟いた。
鉄雄は静かに頷く。
「私は重要な選択を迫られました」
その言葉に、信愛が鉄雄を見つめる。
「しかし私には、お客様を犠牲に
するという選択はありえませんでした」
「どっちか選べと言われた時から
自分の命を犠牲にするって決めてたんですか?」
美月の問いに、鉄雄は迷うことなく答えた。
「ええ・・・もちろんです」
「どうしてそこまで?」
今度は朝陽が尋ねた。
鉄雄は穏やかな表情を浮かべた。
その答えには鉄雄の運転手としての矜持が詰まっていた。
「お客様を安全に目的地まで送り届ける事
それが私の責務だからです」
#普通
野々さくら
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ありあ
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コメント
1件
鉄雄さんの「お客様を安全に目的地まで送り届ける事が責務」って言葉、めちゃくちゃ痺れたわ。あの状況で自分の命を顧みずに乗客を守ろうとする覚悟、運転手としての誇りがガチで伝わってきた。少年の心理描写もリアルで、ただの悪役じゃなくて「舐められてる」って解釈に歪んじゃう切なさも感じた。次が気になる🔥