テラーノベル
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25年前。
「さぁ!選べ!」
少年の怒号が車内に響き渡った。
「おまえの命か──」
少年は乗客たちを睨みつける。
「乗客の命か!」
そして、吐き捨てるように言い放った。
「生き残っている方を助けてやる!」
鉄雄は何も答えなかった。
少年から手渡された拳銃を、ただ静かに握りしめる。
そして、ゆっくりと乗客たちへ視線を移した。
誰もが恐怖に震えていた。
声を上げる者はいない。
だが、その怯え切った表情を見れば、彼らが何を考えているのかは痛いほど分かった。
自分たちは殺されるのか。
鉄雄は再び、手の中の拳銃へ視線を落とした。
「ふっ・・・」
小さく息を漏らし、乗客たちに優しく微笑みかける。
そして、拳銃の銃口を、自らのこめかみに押し当てた。
そんな鉄雄の予想外の行動を目の当たりにした、少年の目は大きく見開かれる。
額から汗が滴り落ち、その表情から先ほどまでの余裕が消え失せた。
鉄雄は静かに口を開く。
「自分の命の為に誰かを殺すなどありえません」
「ど、どうせハッタリだろ!」
少年の声が、僅かに震えていた。
「いいえ・・・」
鉄雄は穏やかな表情のまま答える。
「私はあなたを信じているだけです」
「お、俺を?」
「あなたは仰ってくれた」
鉄雄は少年を真っ直ぐ見つめる。
「生きている方を助けると」
少年は何も答えられない。
「ですから、お客様を助けていただきたい
お客様の命を助けていただけるなら
私は喜んでこの命を差し出します」
「て、てめー・・・」
少年の顔が引きつる。
鉄雄はそんな少年から視線を外すと、耳掛け式のマイクへ手を伸ばした。
小さくスイッチを入れ、乗客たちへ語りかけた。
「お客様・・・」
その声は、不思議なほど穏やかだった。
「本日は狗頸バスにご乗車いただき
誠にありがとうございます」
乗客たちは誰一人として言葉を発さない。
ただ、鉄雄の声に耳を傾けていた。
「本日は私の不手際により大切なお客様を
危険に晒してしまいました。誠に申し訳ございません」
深い謝罪の言葉が、静まり返った車内に響く。
「ですが、ご安心ください」
鉄雄の声に迷いはなかった。
「お客様に被害が及ぶような事は決してございません」
その言葉を聞き、乗客たちが息を呑む。
「私が命を差し出せば、お客様の身の安全は
保証すると、そう約束してくださいました」
そして鉄雄は、僅かに微笑んだ。
「ですがお客様申し訳ないなどとは思わないで下さい」
乗客たちの目に、涙が浮かび始める。
「私のような、バスの運転しか取り柄の無い
中年の命ひとつで、お客様をお救いできる」
鉄雄にとって、それは悲劇ではなかった。
少なくとも、彼自身はそう思っていた。
「これは私にとって、この上ない喜びなのです」
堪えきれず、涙を流す者もいた。
それでも鉄雄は、最後まで運転手として乗客たちに語りかける。
「ですので、罪悪感を感じる必要はありません」
そして、まるでいつもの終点で乗客を送り出す時のように、穏やかな笑みを浮かべた。
「お客様の未来が、輝きに満ちる事を
心より祈っております」
その言葉を最後に、鉄雄はマイクから手を離した。
そして、少年が見つめる中、何の躊躇いもなく引き金を引いた。
──パン。
次の瞬間、運転席の窓が赤く染まった。
コメント
1件
え、ちょっと待って……この展開は反則すぎるよ……😭💔 鉄雄さんの「あなたを信じているだけです」が刺さりすぎて何回も読み返しちゃった。最後のアナウンス、まるで本当の終点でお客様を送り出すみたいに穏やかで、だからこそ「パン」って音が頭から離れない……。25年前に何があったのか、まだ全然わかんないのに胸がぎゅってなった。続き、絶対読むからね……!
#普通
野々さくら
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ありあ
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