第16話:模倣魔王現る
「名乗ろう! 俺こそが“第2のやさしい魔王”――マグラ・ザ・ピースフル”!!」
豪快に腕を広げ、空中から着地するのは、金色のマントを翻す大柄な男。
もしゃもしゃの灰髪、筋肉隆々、手にはハートマークの杖を握りしめている。
彼の背後には、似たような装いの信奉者たちが列をなし、街中にビラを配っていた。
“おしつけ上等!やさしさ革命!”
“暴力的な愛で世界を包め!”
「これは……完全に……ぼくの名前、使われてますよね……?」
魔王城の会議室で、トアルコは震える手でビラを見つめていた。
ゲルダが眉間を押さえる。
「どうやら“模倣魔王”を名乗る勢力が、各地で“強引な親切”を振りまいているらしい。
店の商品を勝手に無償配布したり、勝手に抱きしめたり……」
「ど、どうしよう……やさしさって、そんな……」
リゼが低く呟いた。
「“正しさ”も“やさしさ”も、行き過ぎれば押しつけになる。
問題は、“お前がその象徴”になっているということだ」
トアルコは、模倣魔王が演説している村に、直々に向かった。
マグラは気さくに迎え入れた。
「おおっ! 本家本元! よく来たなあ、“優しさ界のパイオニア”!」
「……その、マグラさん。ぼく、本当はそんな立派なことは……」
「なんだ、謙遜か!? いいぞいいぞ!
俺はあんたのやり方に感動したんだ! だから俺もやさしくなるって決めた!」
「でも、“やさしくする”って、“押しつける”ことじゃないんです」
トアルコは、はっきりとそう告げた。
「ぼくは誰かを変えたいわけじゃなくて、
ただ、“そばにいる”だけでもいいって思ってて……」
マグラは目をぱちぱちさせた。
「……そ、それだけでいいのか?」
「はい。それが……ぼくの“しあわせのかたち”です」
しばしの沈黙。
マグラは力なく笑った。
「なんか……俺、“やさしさ”を間違えてたな……」
模倣魔王騒動は終息に向かったが、
後日、トアルコの元に謝罪の品が届いた。中には、ハート型の木彫りの杖と手紙。
「本当の優しさは、力じゃなく、形じゃなく、人の気持ちだった」
トアルコはその杖をそっと棚に飾った。
「……似てるけど、ぜんぜん違いましたね。でも……届いたのかな、少しだけ」
アルルがぽつりと笑った。
「少しずつ、ね」
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