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男の相手をした後、瑠衣はシャワーを浴び、パジャマ代わりの黒いTシャツワンピを着て自室のベッドに倒れ込んだ。


(今日も激しかったな。私が気を失うくらいだし)


普段の瑠衣なら、このまま深い眠りに堕ちているが、この日の夜は目が冴えて全然眠くならなかった。


「宿題って言われても……。でも、何を思ったのか急に演奏に関する事を言ってたよね……?」


仄暗い自室に、瑠衣の独り言がやけに響く。


演奏するなんて、四年前、親が遺した借金を返すため、ここに無理矢理連れて来られて以来、すっかり忘れていた事だ。


あの時、家業の経営が順調だったら、瑠衣は院に進み、更にトランペットの演奏に磨きを掛ける事ができるはずだった。


それが、家業は倒産し、大学卒業式の日に両親は富士山の樹海で自殺。


その後だ。


葬式も納骨も済んでから、柄の悪い借金取りが二人来て、ここで娼婦となって落ちぶれて、多くのセレブリティの男たちと身体を重ね続けているのは。


「莫大な借金を支払うために、住み慣れた家を失い、男たちを楽しませるために、私は娼婦になったんだよね……」


更に続いた瑠衣の独り言が、この時は虚しく響いた。




(結局、親の事と大学院進学断念する事を言えないまま、先生はオーストリアに渡り、私は大学を卒業したんだよね……)


瑠衣は起き上がって、ベッドの傍らに置いてある、お守り代わりのトランペットケースを手に取った。


この四年間、一度もこのケースを開いていない。


だが、この楽器だけは絶対に手放さないと決めて、ここへ持ってきた。


瑠衣は、楽器が酷い状態になっているのでは、と思いつつも、ケースを開く事で、何らかの重要な事を知ってしまうのでは、といった恐怖のような気持ちに包まれていた。


それを知ってしまうのが、とてつもなく怖い。


恐怖心を振り切り、意を決するかのように瑠衣は恐る恐るケースを開いた。


金メッキ製の楽器は、頂いた時と同じ状態のまま、煌々と輝きを放っている。


彼女は徐に楽器を取り出し、ベル部分をそっとなぞった。


思い出すのは、この楽器を託してくれた、かつての恩師の事だ。

もう一度、きかせて……

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