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ある深夜、鈴子はふと目を覚ました、静寂に包まれた屋敷の中、隣にいるはずの定正の気配がない、シーツは冷たくて彼のぬくもりはどこにも感じられなかった
鈴子は胸にざわめく不安を抱えながらベッドからそっと抜け出した、スリッパも履かず、冷たい廊下を裸足で歩きながら、彼女は定正の行方を探した
屋敷は広く、暗闇に沈む部屋の一つ一つがまるで秘密を隠しているかのように静かだった、リビングに差し掛かったとき、かすかな光が漏れているのに気づいた、そっとドアを開けると、そこには定正がいた
一人、ソファに座り、グラスに琥珀色のウィスキーを傾けている・・・テーブルの上には半分ほど減ったボトルと、氷が溶けかけたグラスが置かれていた
普段の彼からは想像もつかないどこか儚げな後ろ姿・・・
鈴子は一瞬、足を止めた、彼の肩はわずかに震え、まるで重いものを背負っているかのようだった
―仕事のことで何かお悩みなのかしら・・・―
鈴子は心の中で呟いた、鈴子が今、子供達と穏やかに暮らせているのはすべて定正のおかげだ、彼の支えがあってこそ、日常は成り立っていた
だからこそ、彼がこんな夜更けに一人でいる姿が鈴子の心を締め付けた、なんでも話して欲しかった、どんな悩みでも彼女は受け止めるつもりだった、鈴子は音を立てないよう慎重に近づき、定正の隣にそっと腰を下ろした
革のソファがわずかに軋む音が静かなリビングに響いた、その瞬間、定正が顔を上げて彼女を見た・・・鈴子の息が止まった、驚いたことに彼は泣いていた・・・いつも冷静で家族を守るために揺るがない男の目から、涙がこぼれていたのだ
月明かりに照らされたその頬は濡れて光っていた。
「どうしたのですか? あなた・・・?」
鈴子の声は震え、まるで壊れ物を扱うように慎重だった、彼女の手は無意識に彼の肩に触れてそっと握った、定正はグラスをテーブルに置いて目を伏せたまま、掠れた声で呟いた
「百合が・・・」
鈴子は一瞬耳を疑った
―百合―
こんな形で百合の名前が彼の口から出てきたのは初めてだった、彼女の心臓が早鐘を打つ
「刑務所で自殺した・・・」