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「アザレ~おめでとう」
後ろからハイテンションな声がした。アザレアは姿を見なくともその声だけで誰だかわかった。リアトリスの妹でアザレアの叔母にあたる、ストレリチア・ファン・サイケンス侯爵夫人だ。振り向き
「ありがとうございます。本日で十六になりま……」
と、話している最中に抱きしめられる。あまりに強く抱きしめるので
「叔母様、叔母様、く、苦しいです」
と、アザレアはストレリチアの背中をポンポンと叩く。ストレリチアは体を離して言った。
「あらまぁ、ごめんなさい。私としたことが、久しぶりにアザレちゃんに会えて興奮しちゃったわ。アザレちゃんが宮廷魔導師になるなんてねぇ。おめでたいことですけど、でもうちのコリンのお嫁さんになって欲しかったから、少し寂しいわねぇ」
と一気に捲し立てた。そこに、横から従兄弟のコリンが止めに入った。
「お母様、いい加減にしないとアザレが困っていますよ」
その後ろから慌ててやって来た叔母の夫のカイル・ファン・サイケンス侯爵も言う。
「そうだぞ、それにアザレアも疲れてしまうだろう? 今度またゆっくり話をすればよい」
と、ストレリチアの手を取り、続けて言った。
「リチア、ケルヘール公爵に会うのも久しぶりだろう。少し話をしに行こう」
ストレリチアは、はっとする。
「そうね、お兄様に事情を聞かなくては! アザレちゃんまた今度ね」
そう言うと、慌ただしくカイルと行ってしまった。去り際にカイルはアザレアに微笑み、軽く会釈をした。
残されたコリンはアザレアに微笑む。
「母が悪いね。それに誕生日おめでとう」
サイケンス侯爵家は全員金髪の碧眼で、整った顔立ちだ。コリンは長髪で髪を後ろに束ねており、落ち着いた雰囲気の男性である。そのせいもあって、お茶会や舞踏会などでは、他の令嬢から放っておかれない存在だ。
従兄弟と言うこともあってアザレアは、兄のように思っていた。
「お祝いありがとう。私叔母様が大好きですわ。だから大丈夫」
そう言うと、コリンは肩をすくめて言った。
「ならいいんだけど。ところで、君はついに王太子殿下に捉えられてしまったのだね」
ピラカンサもだが、なぜかみんな勘違いしている。アザレアは訂正しなければと思った。
「みなさんそのようなこと仰るのですが、|私《わたくし》は宮廷魔導師、それもまだ見習いですわ。婚約者じゃありません。そもそも婚約者候補は辞退してしまいましたし」
コリンは苦笑した。
「そう思ってるのは君だけだと思うけどね。まず国王が君を放さないと思う。時空魔法の使い手だからというのもあるけど、なんたって君は陛下の大のお気に入りだからね」
そうだっただろうか? アザレアには心当たりがなかった。小さな頃に陛下には可愛がられた記憶はあるが、大のお気に入りだという自覚は全くない。黙って聞いていると、コリンは更に話を続ける。
「それに王太子殿下も君を放さないだろう、俺なんか王太子殿下に会うたびに、無言の圧を受けてたよ。今も君と話しているところを見られたらと思うと、背筋が凍る思いだ。それに見たかい? 王太子殿下のカフスボタン。右手は緑黄色のトルマリン、左手はアレキサンドライトだったろう? 凄い執着を感じたよ」
先程も国王陛下が挨拶の中で、アザレアをアレキサンドライトと例えていたが、アザレアは自分とアレキサンドライトの関係が全く見えてこなかった。
「先程から一つ、気になることがあるのですけれど。アレキサンドライトと、|私《わたくし》になんの関係がありますの?」
すると、コリンは酷く驚いた顔をした。
「アザレ、それ、本気で行ってるの? 君の瞳の色じゃないか」
それでも意味がわからず、更に質問する。
「私の瞳の色は黄緑ですわ? 左目は少し青よりですけれど、アレキサンドライトには遠く及ばない色です。なぜアレキサンドライトですの?」
そう言うアザレアに、コリンは少し笑うと教えてくれた。
「そうか、室内の鏡でしか見ないから気がつかなくてもしょうがないかもな。アザレの左目は室内だと緑色だったり角度的に青に見えるんだけど、日の光に照らされると赤く光って見えるんだよ」
初耳だった。コリンと同じく、アザレア本人が知らないはずがないと思っていて、誰も言及しなかったのかもしれない。アザレアは思わず左目に手をやって言った。
「知りませんでした……」
コリンは頷く。
「その瞳を持つものはこの国では君一人ぐらいだから、外なんて歩いてたら一発で誰だかバレてしまうね」
道理ですぐにファニーにバレたわけだ。一人納得しているアザレアを横目に、コリンは続ける。
「正にアレキサンドライトってわけさ。おまけに気も利くし、慈悲深く優しいときたら……。今日の発表で、落ち込んでいる令息は少なくないと思う。俺も含めてね」
アザレアは最後の一言に反応してコリンの顔を見た。コリンは気まずそうに言う。
「ごめん、今のは忘れて」
そう言うと去っていった。色々ありすぎて大混乱である。ふと見ると、ヴィバーチェ公爵令嬢がカーテシーをして、こちらに向かってきた。アザレアもカーテシーをし、緊張しながらヴィバーチェ公爵令嬢に挨拶をした。
「ヴィバーチェ公爵令嬢、こんばんは」
ヴィバーチェ公爵令嬢は笑顔で答える。
「こんばんは、アザレア様。お誕生日心よりお祝い申し上げます」
と言ったあと、アザレアに顔を近付け扇子で口元を隠し耳元で囁く。
「私以前より、アザレア様こそお妃に相応しいと思ってましたのよ?」
そして満面の笑みになり、アザレアの手を取る。
「|私《わたくし》たちお友達でしょう? 何でも言ってくださいな」
と上目遣いで言った。あまりにもあからさまなので面白くなってしまった。アザレアはお妃にはならないと否定するのも忘れ、ヴィバーチェ公爵令嬢の手を両手で握り返す。
「こちらこそ、ヴィバーチェ公爵令嬢にそのように言っていただけて、とても心強いですわ」
と満面の笑顔で答えた。ヴィバーチェ公爵令嬢は首を振る。
「アザレア様、名前で読んでくださいまし。私たちの仲ではありませんか」
そう言うと笑みを浮かべた。口元は笑っているが目は笑っていない。そして、なにかに気づいたように言った。
「あら、今日の主役を私が一人占めしてはいけませんわね、ではごきげんよう」
そう言って去っていった。