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嘘をつかない人狼 (狼は寂しくならないように、夜空を見上げる)第3章

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嘘をつかない人狼 (狼は寂しくならないように、夜空を見上げる)第3章

2 - 第二章第2話-あなたは、夜空(くらやみ)を照らす星(ひかり)-

♥

33

2024年10月27日

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目が、覚める。『・・・』

夢を見ていたようだ。

でも、

最近は夢を見ることが減ってきた。

『はぁ〜』

夢を見た日はちゃんと寝てても眠い。

とはいえ、今日は仕事だ。

夏も、終わりかけている。

ここまで、あっという間だった。

今のところ、大きな問題は起きていない。

でも、

『おはよう、甘ちゃん。』

茜さん。

少し、様子がおかしい。

『おはよう。』

とりあえず、おきて、

仕事へ。

『おはようございまぁ…』

剣士署に入ると、

『・・・』

奏さんがいた。

こちらを少し見た後、去っていった。

瑠璃さんと何か関係がないか、訊きたいと思ってはいるけど、

訊いて、なにか答えてくれるだろうか。

結局、何も話せていない。

さて、今日も見回りに行こう。

『はぁ〜やっと少しずつ涼しくなってきたなぁ〜。』

今のところはまだ暑いけど、少しマシにはなってきた。

『ほんと、暑かったですよね。』

皆と話しながら歩く。

と、

『あぁ、困ったなぁ〜。どこへ行ったんだぁ?』

そこに、困っていそうなおばあさんがいた。

『何か、お困りでしょうか?』

島田さんが訊く。

『あのねぇ?財布を落としてしまったみたいで、見当たらなくて困っとるんじゃ。助けてくれんかのぉ?』

財布か。

早く見つけた方が良いだろう。

『孫が写った写真が入っておる、茶色で、こんな財布じゃあ。』

おばあさんが手で、大きさなどを表してくれる。

『失くされる頃あたりで、どこをを通ったかや、行ったお店などを教えていただけませんか?』

『そうじゃのぉ、え〜と、そうじゃ、あれじゃ!あのお店じゃ!』

あのお店…

手で、何かを表しているようだが、

何一つわからない…

『どんなお店ですか?』

僕も訊いてみる。

『いぬやじゃったか…』

いぬや?

『いぬ…もしかして、ペットショップでしょうか?』

いぬって、犬のことか。

『そんなじゃったかのぉ…きにしとらんかったのぉ。』

違うのかな?

『何か、買ったものはありますか?』

『売り切れてて、何も買ってこなかったのぉ。』

確かに、何も持っていなかった。

『何を買う予定だったのですか?』

『ジョンの餌じゃ。』

『ジ、ジョン?』

『そうじゃ、ジョンじゃ。』

ジョンって何だ?

『ジョンは、ペットだったりしますか?』

ペット?

ペットの名前ってことかな?

『ジョンはペットボトルじゃなくて、犬よ。』

おばあさんが笑った。

なるほど、犬か。

『わかりました。では、どこを通ったか教えていただけませんか?』

『そうじゃなぁ、確か…あっちをああ行って、こっちに曲がって、むこうを…どう行ったかな…あ、確かあっちじゃ。』

わからない…

あっちとかこっちとか言われてもなぁ…

『ちゃうちゃう、そっちじゃった!』

『そ、そうですか…』

皆、困っている。

『と、とりあえず探してみようぜ。』

そうするしかないな。

『なら、こっちは近くのペットショップを見てくるわ。』

皆と別れ、

手分けして探す。

が、

それらしきものは、なかなか見つからない。

そのまま、島田さんと合流した。

『こっちにはありませんでした。』

『こっちも、見当たらなかった。確か、あっちにホームセンターがあった。そこを見てみよう。』

次はお店の中を見てみる。

でも、ない。

『お忙しいところ申し訳ございません、茶色の財布を預かったりしてませんでしょうか?』

島田さんは、お店の店員さんに訊いている。

けど、

『申し訳ございませんが、現在そういったものは預かっておりません。』

見つからない。

『交番を見てみようか。』

交番、

この島には、交番はある。

でも、

『特徴と一致するものは、こちらにはございませんでした。』

なかった…

皆と合流する。

『こっちも、ないって…』

見つからず、

ここら辺は、見たはずだ。

でも、ない。

『・・・』

盗まれたのだろうか…

『その、失礼ではございますが、財布を家に置いてきているということはありませんでしょうか?』

家に?

『わからんのぉ、見てこよか。』

え、

ということで、見に行くことに…

歩いて少し、

一つの家に着いた。

おばあさんが、家の中に入っていく。

犬の鳴き声が聞こえる。

ジョン、かな?

しばらく待つ。

と、

出てきた。

『見つかったよぉ!なんとねぇ、テーブルの上にあったのよぉ!』

おばあさんは笑っていた。

『あ、ああ…』

無事に見つかったならよかった。

『それはよかったです。』

島田さんも、にっこりと笑っていた。

『皆さん探してくれて、どうもありがとうねぇ〜お金、これくらいでええかの?』

おばあさんが財布から、お金を取り出し、こちらに差し出した。

『いえ、私たちは剣士でして、人の安全を守ること、幸せにすることが仕事なので、気にしないでください。』

島田さんが戸惑いながら両手を振り、断る。

『なら、お菓子あるから食べていきな。コーヒーもあるよぉ。』

『お気遣いありがとうございます。ですが、お仕事中ですので、これで失礼させていただきますね。』

気遣いは嬉しいけど、今は仕事中だ。

財布は無事見つかったので、もう行こう。



その後、問題なく終わった。

剣士署に戻って、帰る準備をする。

『さて、帰るか。』

僕たちは、剣士署を出ようとした。

その時、

誰かに、見られているような気がした。

振り返る。

と、

『・・・』

奏さんだ。

奏さんも、今から帰るようだ。

横を、通り過ぎようとする。

けど、止まった。

こちらを見た。

『何?』

『あ、あぁ、その、ええと…』

戸惑ってしまった。

『誰かに見られた気がして…』

『そう。』

それだけ言って、去ろうとした。

『あ、あの、奏さん!』

僕は、奏さんを呼び止めた。

奏さんは何も言わず、こちらを見た。

冷ややかな目。

怖い。

『私じゃない。』

『あ、そういうわけでは…ないんです…』

訊こうとしたけど、怖くなってしまった。

『もう、帰っていいかしら。』

冷たい声。

『その…』

僕は、勇気を振り絞る。

『奏さん、瑠璃さんのことを知って…』

『知らないわ。』

僕の言葉を最後まで聞かず、すぐに答えた。

『それだけ?もう帰るわね。』

奏さんは、剣士署を出て行ってしまった。

夢で見た瑠璃さんと、顔は似ている。

『でも、知らない…か。』

しばらく、奏さんが出て行った剣士署の扉を見ていた。



ー『暑い〜暇だよ〜』

『じゃあ、何かしてくればいいだろ?』

『何かって、なにぃ〜』

なんだろう。

することは、何もない。

夏休みも、特にすることがなく、最初の方は色々歩いて、色々見たりした。

でも、大したものはなかった。

そのまま、夏休みが終わろうとしていた。

学校ももう、行かないつもりだ。

空を見上げてみる。

あ、

あれは、

飛行機だ。

空を飛んでいる。

小さく見える。

でも、俺は知っている。

本当の親と、飛行機に乗ったことがあるから。

とても大きかった。

自力で空を飛べない俺にとって、人間にとって、空を飛ぶための方法はこれくらいしかないだろう。

あの、白い雲の上までいける。

もう一度、乗りたいな…

『甘ちゃん、空を見てるの?』

『いや、飛行機を見てるんだ。』

飛行機から、白い線状の雲が出てきている。

なんだろうか。

『ひこーき?』

『ひこうきだ。知らないのか?』

『知らないよ?でもあれ、ゆぅふぉじゃないの?』

『ゆぅふぉ?』

何だそれ?

『テレビで見たの、』

『もしかして、UFOか?』

『え、ゆーふぉお?』

なんか違う。

『でもあれは、UFOじゃなくて飛行機だよ。人が乗れるんだ。』

『え⁉︎私も空飛べるの⁉︎』

『あぁ、飛べる。』

本当に、飛行機を知らないんだな。

まぁ、無理もない。

『乗りたいなぁ、』

琥珀が、飛行機を見ている。

俺も、また乗りたい。

でも、人狼だからか、嫌な顔をされたのも覚えている。

結局、人狼はどこに行っても嫌がられる。

だから、乗ったのは一往復だけ。

『甘ちゃんは、飛行機、好き?』

『そうかもな。』

景色が綺麗だった。

なかなかできない体験、それは楽しかった。

飛行機の見た目もカッコよかった。

好きかもしれない。

『……くは…?』

『え、なんか言ったか?』

聞こえなかった。

『な、なんでもないよ。』

そうか。

外はまだ、暑い。

『じゃあ、瑠璃ちゃんのところまでいこ?』

『そうだな、行くか。』

どこにいるかはわからないけど、

『とりあえず、あのお花畑まで行くか。』

あそこにいるかもしれない。

琥珀と、歩く。

また、友達ができたんだよな。

前の場所には人狼はいなかったし、友達なんてできなかった。

何やかんや、こっちの方がいいのかもしれない。

もう、学校には行かなくていい。

あんなところで嫌な思いをして、勉強なんてさせてくれない場所に行く意味はない。

だけど、いつまでこんなことができるだろうか。

見つかれば、何をされるか…

わかったもんじゃない。

『次ってこっちだっけ?』

『あぁ、あってるぞ。』

今日も、いるだろうか。

『あ、琥珀ちゃんと甘くん!』

いた。

『今日も来たよ〜』

琥珀は嬉しそうだった。

瑠璃は、

『怪我、増えてないか?』

前はなかっただろう傷があった。

『うん、でも大丈夫だよ。人狼だもの、こんなの、よくあることだからね。』

まあ、そうなんだけど…

大丈夫だよ、か。

大体の大丈夫は、大丈夫ではない。

友達だし、困っているのなら助けないとな。

『今日もコスモスは元気だよ。』

コスモスの花は、どんどん咲き始めていた。

でも、それを見にきたのだろうか。

今日は数人、人がいる。

『このあとは、どうするの?』

どうしようか、

『こっちの方でなにか、ないか?』

向こうは、何もないからな。

『そうねぇ。人がいないところなら、こっちに来て。』

何か、あるのだろう。

瑠璃について行く。

しばらく歩くと、

『ここよ、』

そこは、空き地だ。

人はいないけど、他も、何もない。

『この花で、冠を作ろう?』

この花?

そこにはクローバーと、白い、丸っこい花が咲いている。

『これか?』

『そう、シロツメクサだよ。冠の作り方は…』

教えてくれた。

冠なんて、簡単に作れるのだろうか。

実際、ちょっと難しかったけど、

思っていたほど、難しくなかった。

『おぉ、すごいな。』

シロツメクサの花がかわいい、冠ができた。

こんなのを作ったことがない。

もう一つ作ろう。

自分でも作ってみる。

できた。

僕も、二人も、二つずつできた。

『これ、二人にあげるね。』

『え、』

僕も、二つあるんだけどな…

まぁ、いいか。

『シロツメクサは、私を思ってという花言葉があって、シロツメクサの冠には、私を忘れないでっていう意味があるんだよ。』

『花言葉?』

『うん、花言葉。例えば、コスモスには乙女の真心、調和、謙虚などの花言葉があるの。色ごとでも違うんだって。』

『く、詳しいんだな。』

よくわからなかった。

『あそこにある黄色の花はタンポポで、幸せ、神託、真心の愛、愛の神託という花言葉があるよ。』

『???』

もはや、頭が追いつかない。

『ふふふ、ごめんね。お母さんが花好きで、よく聞いてたの。』

そうなのか。

お母さんは、優しくしてくれているようだ。

『なら、あれは何?』

向こうにある、大きな花を指差す。

『あの花はひまわりね。花言葉は、憧れ、情熱、あなただけを見つめる。』

『本当に詳しいんだね。』

驚いた。

『ありがとう。だから、私を忘れないでね。』

そうか、シロツメクサの冠は…

『なら、これは二人に。』

『私も二人にあげる!』

皆で、分け合った。

頭の上に、瑠璃の作った冠と、

『はい、甘ちゃん。』

琥珀の作った冠がのせられた。

『あ、あぁ、ありがとう…』

二人も、ニコニコで二つの冠を頭にのせている。

『ふふふっ、』

『えへへっ、』

『あははっ、』

皆、笑った。

でも、楽しかった。

『ははは、面白いな。』

『でしょ?また、作ろうね。』

まだ、他にもこういうものがあるのかな。

それも、作ってみたいな。ー




今日も、夢を見た。

瑠璃さんが出てきた。

結末はまだわからないけど、

優しい子だった。

奏さんと、顔が似ている気がする。

それに、銀色の髪と青い目。

そんな人は少ないだろう。

人狼で、髪と目の色が全く同じ人と会うのは不可能と言ってもいいくらい難しいだろう。

だから本人、だと思ってしまう。

なら、なんで…

あんなに冷たいのだろう。

僕が、何かしたのだろうか。

琥珀さんは、知っているのだろうか。

『琥珀、奏さんと瑠璃さんって似ている気がするんだけど、本人だったりしないかな?』

琥珀さんは、考えているようだった。

『琥珀も、瑠璃ちゃんだと思っていたんだけど、違うのかもしれない…』

琥珀さんも、わかっていないようだ。

『瑠璃ちゃんは…』

琥珀さんにしかわからないこともある。

本人かどうかは、わからない。

『・・・』

『瑠璃、ちゃん?』

茜さんは、僕たちの話を聞いていたようだ。

『瑠璃さんは小さい頃に会った子で、奏さんと似ているんだ。』

『そうなんだ。その子とは離れちゃったの?』

『それは、僕には…』

わからない。

琥珀さんも、言いたがらない。

茜さんは何となくわかったようで、悲しそうにしていた。

考えても、わからないな。

わからないものは仕方ない。

さて、仕事場へ行こう。

もっと、時間が必要だ。

『・・・』


剣士署に着く。

準備をして、朝礼に行く。

奏さんがいた。

でも、話すことがないまま、行ってしまった。

今日も見回りへ。

皆で見回りながら歩いていると、

『あら、剣士たちじゃないの。見回りご苦労様ね〜』

昨日のおばあさんが話しかけてきた。

『お疲れ様です。あの後は、何か問題はありませんでしたか?』

『いいえ、もう大丈夫よ。』

『それはよかったです。』

島田さんが笑顔で言った。

『そうそう、名前は柴田よ。』

柴田さんか。

『私は剣士第1隊の島田.有希です。』

自己紹介をしていく。

『あ!かわいいワンちゃんですね!』

桜乃さんが言った。

今日は、犬と散歩をしているみたいだ。

『ジョンはお利口さんなのよ。ほら、おとなしい子でしょう?』

この子がジョンか。

確かにおとなしい。

『撫でてもいいですか?』

桜乃さんが訊く。

犬が、好きなのかな。

『どうぞ〜』

柴田さんがにっこりと笑う。

桜乃さんが、ジョンの頭を撫でる。

『ジョンって感じじゃなくね?』

『そうかも、しれませんね?』

如月さんが言った。

確か、この犬の種類は…

柴犬、だったかな?

『この子がジョン…と言うんですか?』

撫でてながら、桜乃さんが訊く。

不思議そうな顔だった。

桜乃さんも、感じたのだろう。

『この子の名前は、ジョセフィーヌじゃよ。』

じょ、じょせふぃーぬ?

『え、えーと…ジョセフィーヌ…ちゃん?』

『ワン!』

ジョセフィーヌちゃんが元気よく鳴いた。

尻尾を振っている。

『柴犬にジョセフィーヌっておかしくね?』

耳元で如月さんが訊いてきた。

『そんな気がします…』

犬につける名前がどんなものかはわからないけど、なんか違う感が…

『ちゃうよ?ジョセフ.イーヌじゃよ。』

『ぅぅっ…!』

皆が吹き出しそうなのを堪えていた。

僕も…

『ジョセフ.いーぬだって、ブゥゥッククク…』

如月さんが耳元で言う。

やめろ!やめてくれ!

変な笑い方するなあ!

『いつもはジョンと呼んどるがね。』

柴田さんが笑う。

じょん…

『普通は、ジョセフじゃね?』

『そんな気がします…』

ジョンは、なんか違う感がある。

『と、とりあえず問題がないならよかった。で、では、お気をつけてください。』

柴田さんとジョセフ.イーヌさんと別れる。

『ぶううぅぅぅぅぅ‼︎あはははははははあ‼︎』

如月さんが爆笑した。

『あはは、なかなかに個性的な名前だったなぁ。』

島田さんも静かに笑っていた。

『お、面白い方でしたね…』

岡野さんも、肩を震わせていた。

僕も、笑っていた。

『さて、行こうか。』

島田さんが歩き出す。

『琥珀、茜、行こ…』

僕は、後ろを向いた。

そこに、琥珀さんがいた。

でも、

『え、』

茜さんの姿がなかった。

『茜?どこだ?琥珀、茜を知らない?』

見回す。

でも見当たらない。

『琥珀も、わからないよ…』

『ぁ………』

スマホが、落ちていた。

間違いなく、茜さんのだ。

でも、

少し目を離していた隙に、姿を消してしまった。

『どうかしたか?』

島田さんがくる。

『茜はどこだ?』

如月さんが訊いてきた。

『それが、わからないんです…』

柴田さんと話す前まではいたはず。

なのに、今は…

『とにかく、探しに行こう。』

そうするしかない。

手分けして探しに行く。

『僕は、あっちを見てきます。』

僕は走った。

茜さんの姿なら、遠くでもわかるはず。

でも、見つからない。

『茜、を探しているのかな?』

声をかけられた。

そちらを向く。

と、

『レイン、』

そこに、レインがいた。

『僕は、君のことをずっと見ていた。茜が誰に、どこに連れて行かれたのかはわかるよ。』

『何かしたのか?レイン。』

レインは、怪しい笑みを浮かべる。

『僕を疑っているのかい?今回のは、僕とは関係ないね。ただ、あの人やその団体が何なのかは知ってるよ。』

嘘、ではなさそうだ。

『知りたいなら教える。でもタダでは教えられないな。条件を出そう。』

条件…

『そうだなぁ、まずは、剣士を辞めてもらおう。』

『それはできない。』

『なら教えられない。』

レインを、信じることはできない。

『必要ない。』

誰かに連れてかれたことがわかった。

でも、それだけでは場所まではわからない。

『・・・』

『そうか、残念だ。君なら、あの子のために辞めるものだと思っていたのになぁ…』

本当に、絶対そうだと言うのなら辞めてでも聞いただろう。

でも、余計に犠牲が増える気がする。

殺し屋なんてしているんだもの、

やっぱり、信じられない。

『なら、自力で頑張るしかないね。』

言われなくてもわかっている。

僕は走った。

『柴田さん!』

僕は、柴田さんのところまで走った。

『何かあったかの?』

柴田さんが振り返る。

『その、紫色の髪をした子を知りませんか?』

『うーむ、知らんのぅ。あ、そういえば昔、紫色の髪にしたことがあったなぁ。』

『すみません、ありがとうございました。』

走る。

けど、あてはない。

『・・・』

前から、わかっていたんだろう。

なのに、なんで…

『なんで、教えてくれなかったんだよ‼︎』

走って、

走り回って、

でも、見つけられなくて、

頭を抱えて、崩れ落ちるようにしゃがんだ。

『甘ちゃん…』

琥珀さんも、悲しそうだった。

鬼塚さんに電話をしよう。

スマホを取り出して、電話をかける。

『銅か、どうした。』

鬼塚さんが、電話に出る。

『茜さんが、誰かに連れてかれたみたいで、いなくなってしまったんです…』

『スマホは、持ってないのか?』

スマホは…

僕の、手元にある。

電源を入れると、

『・・・』

茜さんと琥珀さんと僕が映った写真が、壁紙として出てきた。

『落ちてありました。今は僕が持っています…』

『なら、時間がかかるが、防犯カメラを見ていくなどするしかないな。』

『・・・』

それまで、無事でいてくれるだろうか。

『お願いします…』

電話が切れる。

とにかく、戻ろう。

僕は、来た道を戻る。

防犯カメラ…

こっちでも、見ていくか。

防犯カメラがないか確認する。

あった。

小さな薬局の出入り口に、防犯カメラがあった。

『申し訳ございませんが、そこの防犯カメラの映像を見せてもらえませんか?

訊いてみる。

『あぁ、構わんぞ。』

パソコンで、映像を見る。

映ってはなさそうだ。

他のところも見てみよう。

しかし、

『人狼は出て行け!』

追い払われることも多くあった。

結局、近くの防犯カメラに手掛かりになりそうなものは映っていなかった。

『銅さん、ここにいたのですね。』

振り返ると、

岡野さんがいた。

『あぁ…』

『大丈夫…ですか?』

岡野さんは、心配してくれた。

『あちらは、どうでしたか?』

『…見つかってないそうです。』

遠くまで逃げられたのだろう。

もう、ここら辺を見て探しても無駄だろう。

『もう、仕事は終わりの時間なので、先に戻っててください。』

『銅さんは…』

僕は、首を横に振った。

『もう少し、探してみます。』

僕は、他の場所を探す。

でも、手掛かり1つ見つからない。

次の日になっても、手掛かりになりそうなものは見つからなかった。

『無駄だよ。あの子は、そんなんじゃ見つからない。だから、剣士を辞めるんだ。そうすれば、すぐに助けられる。』

レインなら、ほぼ全てを知っている。

でも、

『っ!』

剣士を辞めて、本当のことを教えてくれるのだろうか。

僕を、利用しようとはしてないだろうか。

『今、あの子は危険な状態だ。早く行かないと手遅れになるよ?』

危険な状態…

『もし、本当だったら辞める。だから、先に教えてくれないか?』

『僕は、損はしたくないんだ。だから、それはできないね。』

まぁ、予想はしていた。

『辞めてもお金なら僕からちゃんと渡すよ。何も、心配することはない。』

『剣士を辞めさせることに、何があるんだ?』

レインはまた、怪しい笑みを浮かべる。

『君に剣は合わない。君は、ナイフの方が合っているんだよ。だから、剣士はやめた方がいい。』

それは…

僕も感じていた。

ナイフの方が戦いやすいと思っていた。

『辞めるなら、このナイフを君にあげよう。』

レインが、ナイフを取り出す。

『これは、君専用に作ったんだ。今まで君を見てきて、特徴に合わせて作ったんだよ。』

『・・・』

『あの子が助かり、君も強くなる。どうだい?いいとは思わないかい?』

いかにも怪しい。

敵として見ているし、間違いなくしないだろう。

でも、今だけは違った。

『わかった、辞めよう…』

もう一度、入ればいい。

入れるのなら、だけど。

それより、

それ以上に、

茜さんを助けたかった。

『君は、最後まで断るのではないかと思っちゃったよ。』

『っ…』

こうするしか、なかった。

『さて、なら辞めると電話をしてくれないか?』

僕は、スマホを取り出す。

『あぁ、僕のことは言わないでね。』

『くっ!』

鬼塚さんに、電話をかけた。

『どうした、もう戻っていいぞ。』

鬼塚さんが、電話に出た。

『申し訳ございません。剣士を、辞めます。』

静かな時間。

何も、言ってはこなかった。

『辞めさせてください…』

『それは、お前の意思か?』

っ!

それはっ、

『はい、そうです。』

本当は、辞めたくない。

でも、そうするしか…

茜さんを助ける方法はない。

『わかった。今までご苦労だった。』

電話が切れる。

僕は下を向いた。

『終わったみたいだね。』

視界に、レインの足が見える。

『剣は、僕がもらう。』

『それが狙いか?』

『いや、違うよ。僕も、剣は合わないからね。』

剣を、レインに渡した。

『さて、茜がいる場所を教えよう。あの子は今この島にはいない、船で隣の島まで連れて行かれているはずだ。』

この島に、いないのか。

『こっちに来て、連れて行ってあげるよ。』

僕は、黙ってついていく。

港から、一つの小型の船に乗る。

『リンネ、2人をよろしくな。』

『はい、かしこまりました。』

リンネ、

あの時いた少女がいた。

レインは、操縦席らしきところに行く。

『銅様、そちらは危険です、こちらへ。』

リンネが言った。

様、か…

僕は、案内された方に行く。

と、

船のエンジンがかかる。

そして、動き出した。

『どこへ行く気なんだ、』

『無名の島、私たちは苦殺島[クサツトウ]と呼んでいる島に向かっています。そこに、実験施設があります。』

『実験施設…』

嫌な予感がする。

そこに、茜さんがいるのなら、

本当に危険だ。

『実験体にされたと思われる、殺傷能力の高い人間が多くおり、何人もの侵入者が帰って来れなかったそうです。』

『・・・』

本当に、大丈夫なんだろうか。

せめて、琥珀さんと茜さんだけでも助けないと。

『銅様、こちらが銅様用のナイフです。』

ナイフを手渡された。

先ほどレインが持っていたものだ

ナイフを受け取る。

このナイフ、戦闘用みたいだけど、

握った感じも、重さもかなりいい。

『もう少しで着きます、準備をお願いします。』

進行方向に、島らしき何かが見える。

ここが、苦殺島か。

『着きました。下に気をつけて降りてください。』

船を降りる。

『さて、行こうか。』

レインも、船を降りてきた。

島の中心部に向けて歩く。

『警戒!』

リンネの声と共に、前から人影か数人見えた。

『さて、倒していきましょう。』

レインが、刀を構えた。

僕も、ナイフを構える。

そして、走る。

『っ!』

速く振りやすく、動きやすい。

すごく戦いやすい。

防ぐのも、かなり楽だ。

次々と、敵を倒していく。

レインはもっと早く、敵を倒していた。

速い!

離れているのに、目で追うのかやっとだ。

『銅様!』

物陰に隠れていたのか!

襲ってこようとしてきたその敵を、リンネが倒した。

『助かった。』

『銅様は、あちらをお願いします。』

次々と、敵が向かってくる。

『はあっ!』

ナイフを振り、敵を倒す。

でも、強い。

かなり傷があっても立ち上がり、攻撃してくる。

『やあっ!』

敵を、斬る!

だけど、

『嘘だろ…』

深い傷があるのに、まだ立ち上がった。

『遠慮はいらないよ。本気を見せてやればいいさ。』

レインが、怪しく笑った。

…殺せと言うことか。

きっとそうしなければ、永遠に終わらない気がする。

迷った。

でも、

そうするしかない。

仕方ない…

『楽にしてやる。』


もう、近くに敵はいない。

『さて、先へ急ごう。』

僕たちは走る。

そして、

木に囲まれている、大きな建物を見つけた。

『ここが…』

『実験施設です。気をつけてください。』

実験施設の中に入る。

中は薄暗い。

どこに何があるかわからない。

と、

リンネが、手を引っ張ってきた。

すぐ横を、何かが飛んできた。

ゆっくり、横を見ると…

『ぁ…』

さっき、僕がいたところの奥の壁に、

斧が刺さっていた。

死ぬかと思った。

『へぇ〜こんなこともしてくるんだ、面白いなぁ。』

『・・・』

それだけ、誰かに入られたくないんだろう。

歩く。

と、

前後から、足音が聞こえる。

そして、

武器を持った人々が現れる。

皆、様子がおかしい。

速い!

ナイフを構え、振る。

1人の、腕を斬った。

『アァ、イタァイ!クルシィ!』

え?

痛がっていた。

なんだ、この人たち。

頭を抱えて、苦しそうにしている人もいる。

何か、違う…

『殺さなきゃ、殺されるだけだよ。わかるね?』

レインが言った。

『くっ…』

この人たちは、悪い人ではないんだ。

この人たちは実験体にされてしまったんだ。

さっきの人たちも、

薬か何かのせいで、こうなったのだろう。

本当は、痛くて苦しいのかもしれない。

中には、僕より小さな子もいた。

この人たちを、傷つけたく…

でも、襲いかかってくる。

『ううっ…』

『あの人たちはもう、元には戻れません。』

リンネが、隣に並んだ。

もう、手遅れなんだ…

救えないんだ…

『くっそがあぁぁぁあ!』

ナイフを振った。

ナイフが次々と、人を刺していく。

違う、

僕が、刺してるんだ。

『ごめんね…』

子供も、倒れた。

『先に進もう。あの子に、何かをされる前にね。』

先を急ぐ。

しかし、

また、敵が現れた。

っ!

さっきの人たちより、強い。

『はっ!』

ナイフを振る。

今は、そうするしかできない。

レインとリンネは、次々と倒していく。

そして、

敵はもう、起き上がることはない。

僕も、やるしかない。

倒していく。

いや、

コロしていく。

『・・・』

『やあ、諸君。何をしにここへ来たのかな?』

と、

モニターが光り、人の姿が映し出された。

見つかったのか…

『君が連れて行った人の中に、大事な人がいるんだ。だから、返してもらいに来たんだよ。』

レインは、モニターに向けて言った。

レインは、冷静だった。

『そうかそうか、大事な人ねぇ。もしかして、この子かい?』

そのモニターに、

『あ…ぁ……』

茜さんが映った。

ぐったりとしている。

『茜に、何をしたの。』

僕は、モニターに映る男を睨む。

男が、笑った。

『コイツはなぁ、俺の大事な実験体なんだ。残念だけど、返せないな。あと、君たちもねぇ‼︎』

『アァ、ァァァァァァァァァァァァァァア‼︎』

まだまだ、人が出てくる。

『……ちっ!』

倒していく。

敵が、襲いかかってくる。

倒していく。

敵が、また出てくる。

倒していく。

それを、何度も繰り返した。

地面に、人がたくさん倒れている。

『流石は人狼。俺の作品たちを見事に倒したなぁ。でも、まだ序盤だってことを忘れるなよ。』

男が笑った。

作品。

さっきの人を、ものとしてしか見てないんだ。

こんなのが続いたら、

精神が、おかしくなりそうだ。

『俺たちを、見つけられるかなぁ?楽しみにしているよ。』

『っ‼︎』

腹が立つ。

許せなかった。

とにかく、歩いた。

中は広くて、行ける場所が多かった。

所々で仕掛けがあり、

ドアを開けると、弾丸が飛んできたり、

落とし穴などもあった。

そして、

人が襲ってくる。

この人たちは、誘拐されたんだろう。

怖かったことだろう。

苦しかったのだろう。

『・・・』

僕たちは、楽にすることしかできない。

たとえ、腕が切れようとも襲ってきた。

涙を流し、痛いと叫びながら。

それでも、立ち上がった。

『まるでゾンビみたいだろう?面白いだろう?』

モニター越しに、男の笑っている声が聞こえた。

『黙れ‼︎』

モニターを破壊する。

何度も行っては戻ってを繰り返しながらも、先へ進んでいく。

牢獄のようなものが、たくさんあった、

そして、

ここか…

一つの、扉の前に立つ。

扉を開けると、

『やあ、待ってたよ。思っていたより早くて驚いたよ。』

男を、男たちを見つけた。

僕は、黙ったまま、近づく。

そして、

男を目掛けて、ナイフを振った。

が、

男の前に1人の女性が急に現れて、ナイフで防がれた。

僕は、後ろに下がる。

『さぁ、いけ!俺たちの最高傑作たちよ‼︎』

周りを、数人の人狼が囲んでいた。

そして、

襲ってくる。

『っ!……ぐあっ!』

速い。

速すぎる。

あっという間に近づき、高速でナイフを振ってくる。

何度も斬られた。

なんとか争うが、それだけで精一杯だった。

もう1人、2人とこちらに向かっている。

銃を使う。

撃つ。

でも、避けられる。

『ああっ!』

肩に、深い傷を負った。

だけど、戦い続ける。

でも、

『きゃあっ!』

『琥珀!』

琥珀さんも狙われている。

銃を撃って、琥珀さんから離そうとする。

『ぐうっ!』

胸を、斬られた。

このままでは、やられる。

とにかく避けて、防いで、

もう、攻撃する暇がなかった。

だが、

レインが倒していく。

ありえない…

敵の攻撃を完全に避けて、刀を振っている。

刀は、敵の身体のどこかを必ず斬っていた。

レインは、笑っていた。

青い目を輝かせている。

僕もあんな風に、強くなりたい。

そう思った。

絶対に、負けないっ!

僕も、ナイフを振る。

リンネが、隣をついてきた。

2人で、斬る!

後ろを振り返り、

背中から斬る。

攻撃を避けて、

ナイフを反対向きに持ち替えて、突き刺す。

2人なら、戦える。

リンネも、斬っていく。

これで、かなりのダメージは与えた。

でも、まだまだ敵はいる。

相手の動きを見る。

そこだ!

ナイフを、振る。

走る。

フェイントをかけて、

低い姿勢で、

ナイフを振り上げて、

持ち替えて、下ろす!

『いっ…!』

傷が、痛む。

体力的にも、かなりきつい。

でも、あと少し!

茜さんを、助けるんだ!

『銅様!』

地面を転がり、避ける。

すぐに立ち上がって、背中を斬る!

まだだ!

胸に、ナイフを突き刺す。

最後だ!

最後の敵、

『いいねぇ。さぁ、いけ!』

レインの声と共に、僕は走った。

そして、ナイフ同士がぶつかり、跳ね返される。

それを利用して、一回転して、

もう一度、振る!

敵が、バランスを崩した!

見逃さないように、ナイフを、

突き刺す!

そして、

高くまでジャンプして、

両手で、ナイフを持って、

振り下ろす!

ナイフを振り、鞘に戻す。

終わった。

『ずいぶんと、動きが良くなったね。』

レインが、隣にいた。

『助かったよ、ありがとう。』

怪しい奴だけど、見惚れてしまうほど強くて、美しい戦い方だった。

だけど、

あの男たちが、いない。

逃げたのか。

茜さんも、いない。

『きゃあぁぁぁぁ‼︎』

今のは‼︎

茜さんの悲鳴。

奥に、扉があった。

『追いかけようか。』

レインについていく。

『大丈夫か、琥珀。』

琥珀さんも、肩に深い傷を負っていた。

『だい、じょうぶ…』

痛そうだ。

でも、今は、

時間がない。

早く、行かないと。

そして、

倒れている茜さんを見つけた。

『銅様、』

『いい。さぁ、行ってあげるといいよ。』

レインが、リンネの言葉を遮った。

僕は茜さんのところまで走る。

そして、抱き抱える。

『茜!もう、大丈夫だ。怪我はない?』

茜さんは、こちらを見た。

虚な目をしている。

『あま、ちゃん…』

声も、弱々しい。

でも、無事だった。

『さぁ、帰ろう?』

『・・・』

茜さんは、黙ってしまった。

『大丈夫、ゆっくり休んでて。僕が、連れて帰るから、さ。』

僕は、笑顔で言った。

手を差し出した。

『…………ころ、して…』

『え…』

聞き間違いだろうか。

『甘ちゃん…ころして…』

『何を、言ってるんだよ…』

予想なんて、絶対しない言葉が、聞こえた。

ありえない。

耳を疑った。

でも、

『お願い、ころして…』

聞きたくない言葉が、茜さんの口から聞こえる…

『嫌に、決まってるだろ…』

そんなこと、何があろうともしたくない。

『茜ちゃん!』

琥珀さんも、悲しんでいた。

『私が、誰かを傷つける前に……ころ…してぇ…』

なんだよ、それ…

『傷つける必要なんて…』

『薬、打たれたの……もう、おかしくなってきたの…』

『っ!』

嘘だ…

嘘だろ?

なぁ、

誰か、

嘘だと言ってくれ…

『絶対、助けるから…』

方法なんて、わからない。

でも、諦めたくない。

『治す方法は、ないよ。』

レインが言った。

っ!

『ないわけ、ないよ‼︎』

必ず、あるはずなんだ。

僕は、そこら辺にある本を見た。

ない、ない、

ない、ない、ない、

『治す方法は、ありません。』

リンネが、僕を止めた。

『やめてくれ、邪魔をしないでくれ!』

振り払う。

だけど、見つけられない。

見つからない。

『ううっ…ああっ!』

茜さんが、苦しんでいた。

せっかく、助けを求めてくれてたのに、

何も、できなかった。

『嫌だ、嫌だよ…こんなのっ!』

何もしてやれない自分が、情けない。

情けなさすぎるよ…

『早く、っ…おねっ、がい…あああっ!』

茜さんが、苦しんでいる。

僕は、そんな茜さんを抱きしめた。

『大丈夫、大丈夫だから…』

必死に、落ち着かせようとした。

でも、変わらない。

『君がしないなら、僕がするよ?』

『やめろ!絶対に、死なせない!』

でも、どうすることもできない。

『それは、苦しめるだけだと思うよ。』

っ!

わかってる。

わかってるけど、

嫌なんだ。

傷つけることが、

諦めることが、

離れてしまうことが、

茜さんが、僕の手を握った。

『お願い…』

『ううっ…』

茜さんとの思い出を、思い出した。

思い出してしまった。

『甘ちゃんが…いいなぁ…』

『嫌だ…嫌だよ…』

そんなの…

『ううっ!はや、く!』

『・・・』

楽しかった。

幸せだった。

『楽しかったよ。幸せだったよ。』

『うん…』

琥珀さんもだけど、

『大好きだったよ。』

浮気だと言われてもいい。

『ずっと、忘れない!』

こんな日々を送らせてくれて、

『ありがとう!』

ナイフを、頭上まで上げる。

涙が溢れた。

『ゆっくり、おやすみ…』

振り下ろす…

ぐさり。

茜さんの胸に、ナイフが刺さった。

茜さんの胸から、口から、赤が…

『あり…が…とう…』

茜さんも、涙を流していた。

茜さんの手が、僕と琥珀さんの頭に乗せられた。

『たのし…かった……しあわせ…だった……』

本当に、楽しめただろうか…

本当に、幸せになれただろうか…

『だいすき…だよ……あま…ちゃん…こはく……ちゃん……………………』

茜さんの目が、ゆっくり閉じていく。

茜さんの手が、落ちていく。

僕は、優しく掴んだ。

その手に、力はなく、

だんだん冷たくなっていくのがわかった。

『大変だったね、お疲れ様、茜ちゃん…』

琥珀さんが、茜さんの頭を撫でた。

琥珀さんの涙が茜さんの頬に落ちた。

僕も、涙が溢れた。

一つの、大事な命が、終わったのだ。

僕の手で、苦しみながら、こんな最期を迎えさせてしまった。

僕のせいで、こんなに早く、迎えさせてしまったんだ。

もう、取り戻せない。

もう、戻ってはこない。

『どうか、お幸せに…』

そう、願ってる。

それくらいしか、できなかった…

『あっ…うぐっ…うああああぁぁぁぁぁぁぁ‼︎』

僕は、叫んだ。

もう、どうしたらいいのかわからない。

ただ、どうすることもできない後悔が、僕を苦しめた。



『さて、もうそろそろ戻ろうか。』

『あぁ、』

僕は、立ち上がる。

『琥珀、これを、持っててくれないか…』

一冊のファイルを、琥珀さんに渡す。

『その子を、連れていくのかい?』

僕は、茜さんを持ち上げた。

『はい、1人は、寂しいと思うので…』

『そうか。』

僕たちは、進む。

そして、出口が見えた。

外に出ると、

もう、日が昇っていた。

船で、幸の鳥島まで戻る。

『こちらはお金です。お受け取りください。』

お金…

かなりの額だ。

でも、嬉しくない。

今、一番欲しいものは、

お金では、買えないから。

まぁ、お金で、できることもあるか…

お金を、受け取った。

そして、

幸の鳥島に着いた。

船を降りる。

『さて、今日はこれでお暇するよ。また会おう。』

レインとリンネが去った。

その後ろ姿を、ボーっと見つめた。

『どうして、茜ちゃんがこんな目に遭わなきゃいけなかったんだろう…』

『・・・』

わからない…

それが、茜さんじゃなくて、僕だったら…

僕だったら良かったのに…

『くぅっ!』

悔しい。

琥珀さんさえ、幸せなら、

もう、全てがどうでもいい。

茜さんを、近くにあったベンチに寝かせて、

『ファイル、いいか?』

琥珀さんから、ファイルを受け取る。

人狼実験体名簿。

そう書かれていた。

ファイルをめくる。

そこに、その人物と思われる写真と情報が記載されている。

そして、

あった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ZOZq年.B月時点  ”現在脱走中”

薄藤.茜[ウスフジ.アカネ]

番号.WJ736

誘拐時期.ZOIb年S月IO日、年齢.推定3歳

生年月日.不明

血液型.人狼A型

家族情報.全員殺害済み

持病.心臓弱体病.中、現在.中

精神状態.人間不信対人恐怖症.弱、現在.中

途中確認、うつ病,現在.中

使用薬種.精神安定剤×135. 心臓強化薬×17.

HC-22×83.RNV56×59…ULF-60改良型×1

血液使用者.

HN140、死亡

HN217、反応.異常※その後死亡

HN147、反応.弱

HN131、反応.強※平均の人狼の力とほぼ同じ。

WJ921、一部使用

WJ921、反応なし

WMWMWMWMWMWMWMWMWMWMW

何だよこれ…

小さな頃だろう写真も貼られてある。

怯えた顔。

3歳にして、こんなところに閉じ込められたのか…

その続きは、どんなことをしたのかなど、かなり詳しく書かれていた。

暴力は当たり前。

見ているだけで気持ち悪くなる。

やめよう。

続きを見てられなかった。

『銅?どうしたんだ!』

この声は…

如月…さん…

『甘師匠、急に辞めるってどうし………え、』

茜さんを見たのだろう。

悲しげな声が聞こえた。

『何が…あったんだ…』

それは…

『僕が……コロしたんだ……』

また、涙が溢れた。

『・・・』

皆が、黙った。

しばらく、沈黙が続いた。

『銅。よく、頑張ったな…』

頑張れたのだろうか。

違う。

頑張りが、足りなかった。

だから、助けられなかったんだ。


『来年は、海や滝、祭りを楽しめるといいね。』


そう言っていたのに、

行けなかった。

来年すら来ていない。

オムライスだって、作ってみたいって…

もっと、茜さんとやりたいことが、たくさんあったのに…

2人を守ると決めたのに、

守れず、叶わなかった。

嫌になる。


茜さんの身体を、剣士の人に渡して、

『銅さん、戻る気はないんですか?』

それは…

レインが言っていた。


『もし、剣士に戻ろうとしているのなら、やめておいた方がいいね。僕も、黙ってはいられないだろうからね。』

『それは、どういう…』

『君の大事な人を、この子みたいにするかもしれない。』

『っ!そんなことは……まさかお前、仕込んでたのか!』

『違うよ。でも、邪魔じゃないか?守らなきゃいけない人がいると、戦いにくいだろう?君は、孤独でいた方が強い。』

『っ!僕は、2人を守るために戦っているんだ。生きる理由も、2人を幸せにするために生きているようなものなんだよ。2人がいなければ、生きる必要なんて…』

『その言葉、その子に失礼だよ?』

『っ…』


僕は、弱かった。

だから、

レインに、逆らえない。

『無理だよ。人を殺したから、刑務所にでも入れられるだろうし…』

もう、外には出られないかもしれない。

それは…

琥珀さんと、離れる?

『・・・』

まぁ、そうなるしかないよな。

『琥珀。もう、一人で大丈夫だよな?この世界には、優しい人がたくさんいる。辛いこともたくさんあるだろうけど、琥珀さんなら、大丈夫だよ。元気でな…』

琥珀と別れる日。

この日が、来た。

早かったな。

何も変えられなかったけど、どうか許して…

『あま…ちゃん?』

琥珀さんが、悲しそうな顔をしていた。

『あの時、思い出したんだ。僕と琥珀が、もう、一緒にいるべきじゃないって。僕と一緒にいると、苦しめてしまうって。』

一緒にいたいとは思っている。

でも、

傷つくのを、見ていたくない。

もう、あんな思いをしたくない。

だから、

離れるべきなんだ。

『・・・』

あぁ、あの時と何も変わってないな。

相手のことを考えてるフリして、本当は自分のためなんだ。

自分勝手だ。

でも、

琥珀は優しいから、きっと、

わかってくれる人が、現れてくれるはずだ。

こんな僕なんかより、

他の誰かといた方がいい…

『琥珀も、刑務所、入る。』

『…え?』

『いいから…』

そんなの…

『ダメだ。琥珀は何もしてないでしょ?』

『いいから…』

琥珀さんは、冷たい声で言った。


『2度目はない。君が、その選択をしたこと、誠に残念だ。』

僕と琥珀さんが、刑務所に連れられる。

薄暗い牢獄。

一つの牢屋に入れられた。

『よく、反省するんだな。』

『・・・』

どれくらいここにいることになったのか、

それは、

もう、一生と言ってもいい。

琥珀さんと、二人きり。

なんで…

来たんだよ…

何もかもが、嫌だった。

茜さんは、どうなったんだろう。

『甘ちゃん、一人は嫌なの。甘ちゃんと一緒じゃないと嫌なの。』

僕も、琥珀さんが苦しむのは嫌だ。

『・・・』

『ねぇ、琥珀なら大丈夫だよって、元気でって、どういうことなの?』

僕がいなくても、生きていける、そう思った。

『・・・』

『甘ちゃんと琥珀がもう、一緒にいるべきじゃないって、どういうこと?甘ちゃんと一緒にいると、苦しむって、どういうこと?』

僕と一緒にいたら、琥珀さんを傷つけてしまう。

だから、

『・・・』

『答えてよ…』

『・・・』

何も言いたくない。

何も考えたくない。

『甘ちゃん…』

琥珀さんは、悲しそうだった。

『甘ちゃん、前の隊長さんが亡くなった日の夜に琥珀が言ったこと、覚えてる?』

あぁ、覚えてる。

あの言葉に、救われたんだったな。

『全てを1人で抱え込みすぎちゃ、自分が辛いだけで、損をするだけなんだって、辛いことを愚痴っても、琥珀にちょっと悪いことをしてもいいんだって、いっぱい頑張ったから、いっぱいわがままになってもいいんだって、琥珀に甘えてもいいんだって、言ったよね?』

覚えている。

僕は、小さく頷いた。

『でも、何も変わってないよ…』

『・・・』

変わってない。

それでいいんだよ。

変わらなくていいんだよ。

『甘ちゃんが、家を出ていってしまった時、琥珀が止めた時に言ったことは覚えてる?』

それも、覚えている。

覚えているけど、

『琥珀が辛くて死のうとした時、甘ちゃんは琥珀のことを助けてくれたのに、俺と生きていて欲しいって言ってくれたのに、死のうとするなんて、それが一番ずるいって言ったよね。でも、』

それは、

『2人を守るために戦っているとか、生きる理由も、2人を幸せにするために生きているようなものなんだよって、2人がいなければ、生きる必要なんて…って、何?』

あぁ…

『結局、変わってないんだね。あんなに、悲しかったのに、何も変わってない…』

そうなんだろう。

僕は、最低で、

バカだから。

『どうして、わかってくれないの、』

わからない。

なんでだろう。

琥珀さんに失望されたのだろうな…

『琥珀、甘ちゃんのそういうところは良くないと思うよ。』

でも無理なんだ。

自分以外のことなんて考えられないんだ。

ただ助けたいと思うだけで、

それだけ。

たったそれだけなんだ。

手で、自分の目を塞ぐ。

『・・・』

だから、こんな僕と、

一緒にいるべきじゃ…

『あ、ぁ…』

琥珀さんが、抱きついてきた。

『疲れちゃったの?』

怒られると思ったのに、

呆れられると思ったのに、

見捨てられると思ったのに、

琥珀さんが、優しく、そう訊いてきた。

疲れているんだろうな…

ゆっくり、目を閉じた。

力を抜く。

腕が落ちる。

『……んっ…』

唇に、何か柔らかいものが重なる。

この温もり…

落ち着く。

琥珀さんだろう。

しばらくそのままで、いたいと思った。

琥珀さんの唇が離れる。

『きっと、愛が、足りなかったんじゃないかな。』

愛。

『誰にも愛されなかったから、自分を好きになれなかったんじゃないかな。』

『・・・』

どうなんだろう。

少なかった気はする。

親は、幼い頃に亡くして、

愛されたことなんてない。

『そして、誰にも頼れなかった。一人で抱え込んでしまった。』

『・・・』

『もっと、自分を大事にして?』

自分が、傷つかなくてもいいのかな…

自分が、苦しまなくてもいいのかな…

『誰にも甘えられず、辛いことを言えず、心に溜め込んでしまって、辛かったね。でもね、甘ちゃんはいい子なんだよ。』

それは、

あの時の言葉。

『うっ…』

本当に、辛かった。

ずっと、誰かのために生きようとしていた。

必死に頑張って、傷ついて、

それでも立ち向かってきた。

報われなくても、それでも、

誰かの幸せを信じて、戦ってきた。

『これからは、琥珀にも頼ってね。』

琥珀さんは、こんな僕を見捨てないでくれた。

『頼り甲斐のない、弱い私だけど、いつでも甘ちゃんの味方だよ。』

涙が、溢れた。

もう、全てを出し切ってしまうんじゃないかと思うほど、

でも、いっしょに、

辛いことも、消えていく気がした。

『よく頑張ったね、えらい子だね。』

『・・・』

僕も、変わらないとな…

だけど、

『ごめん、少し、疲れちゃった。眠ってもいい?』

今だけは、ゆっくりしたい。

変わるために、

『うん、おやすみなさい。』

僕は、眠った。


とうの昔に、限界が来ていたのかもしれない。



ー『また来てくれたんだね。』

俺と琥珀はまた、あのお花畑に来ていた。

『他にできることなんて、そんなにないからな。』

暇だった。

『まだまだ元気だよ。』

もう、9月も半分が過ぎた。

でも、コスモスの花が咲き誇っている。

『今日は、俺たちが住んでる近くに行くか?』

俺は訊いてみた。

『行ってもいいの?』

『悪いことなんてない。まぁ、楽しめるところは少ないけど。』

瑠璃は少し考えて、

『行きたいな。』

そう言った。

『なら、こっち。』

瑠璃も連れて、ある場所へ行く。

そこには、沢山の木がある。

でも、

一部の木の葉っぱが、赤や黄色くなってきている。

『わぁ〜きれ〜』

大したことではないだろう。

でも、瑠璃は楽しそうだった。

『あの黄色の扇子みたいな形の葉っぱはイチョウ、あの赤い手のような形の葉っぱのはモミジだよ。』

葉っぱが赤や黄色になっている。

つまり、もう秋だ。

ということは、

『せん、す?』

もうここに来て、半年が過ぎた。

大変だった。

本当に大変だったけど、友達もできた。

二人の人狼と出会って、友達になれた。

そうか、友達か。

今までは、一人の方がいいと思っていた。

でも、今は違った。

友達といるのって、こんなに楽しかったんだな。

失いたくないな。

一人の時は、自分のやりたいことができる。

周りに合わせることなんてなかった。

でも、

友達といる時は、毎日が暇ではなくなった。困ることもあるけど、楽しくて、知らないことも知れて、

人生の良さを感じた。

まだ少なくても、きっといつか、

人狼でも心から楽しめる日が来るだろう。

幸せだと感じられて、笑える。

そんな日も、来るんだろう。

『甘ちゃん?』

琥珀が、顔を覗かせていた。

『すまん、ちょっとボーっとしてた。』

『大丈夫?』

瑠璃も、心配してくれた。

『あぁ、大丈夫。』

『ねぇねぇ甘ちゃん!これ、どんぐりだって!』

琥珀が、何かを見せてくる。

『どんぐり?ちょっ、近くて見えないんだけど…』

琥珀が、顔から離した。

茶色の、丸っこい何か。

これが…どんぐり?

『あそこに、たくさん落ちてるよ?』

琥珀が指差した先に、琥珀が見せてきたどんぐりとかいうのと同じものが落ちてあった。

一つ、拾ってみる。

『どんぐりは、木の名前はわからないけれど、木の実なの。』

『木の実…』

これを植えると、この木が生えてくるのか?

こんなに小さな実が、こんな、大きな木に…

俺の何倍も、何十倍も高い木になるのか。

すごいな。

『甘ちゃん!瑠璃ちゃん!こっちに何かある!』

琥珀が、俺たちを呼んだ。

『なんだ?』

『これ!』

そこには、

『な、なんだこれ…』

不気味な形をした何かが落ちている。

『それは松ぼっくりだよ。そこの木から落ちたみたいだね。』

瑠璃は植物について、本当に詳しいな。

この木の葉っぱは…これか?

細いな。

もう線だ。

木は、それほど高くはない。

そこにも、松ぼっくりができている。

松ぼっくりか、

拾ってみる。

思っていたより軽い。

『面白い形でしょ?』

『そうだな…』

変な形だな。

そう思った。

『たくさんとってきたよ。』

『えぇ…』

琥珀が両手いっぱい、どんぐりと松ぼっくりを持っていた。

『あ、一つ落ちちゃった。』

一つどころか、ぼろぼろ落ちていく。

『それ、どうするんだよ。』

『持って帰る?』

『そんなに持って帰るのか?』

それ、何に使うんだよ…

『うん!』

琥珀は、楽しそうだった。

『置いておくだけでもかわいいと思うよ?』

『そうかな…』

瑠璃も、いくつか拾っていた。

さて、

『もうそろそろ、弁当をもらいに行こうか。』

今日は、3人か。

いつも、タダでもらっているので申し訳ないとは思う。

でも、そこでしか食べ物はもらえない。

『お弁当、もらえるの?』

『うん、もらえるよ。いつも、そこでもらってるから。』

『親は、作ってくれないの?』

親か…

『本当の親はなくなった。それからは知らない人と暮らしてたけど、学校の先生が嘘をついたせいで家を追い出されたんだ。』

『そうだったのね、ごめんなさい。』

『気にしなくていい。琥珀も、親から暴力を振るわれてたみたいだしな。』

琥珀も、親から暴力を振るわれていた。

だから、帰らせるわけにはいかない。

『だから、あそこにはもう戻るつもりはない。』

『そうなんだ…』

瑠璃は、悲しそうにしていた。

そのまま歩いて、

『ついた、ここだ。』

いつもの弁当屋へ。

『ああ?今日は1人増えたな。3つか、ほらよ。』

おじさんから、弁当を渡された。

『いつも、ありがとうございます。』

『いいって、俺にできることはこれくらいしかないしな。』

俺は、頭を下げる。

『少なくともお前と銅色の髪の子は、家出でもしてるんだろ?』

『なぜそれを…』

『最近は、毎日2.3回くるだろ?親から飯をもらってないのか家出をしてるだろうってことはわかるよ。』

そうだな、

ずっと、ご飯はここの弁当をもらって食べていた。

『俺の知り合いに、宿屋をしてる人がいるが、お前たちを泊めてもいいと言ってたぞ?いくか?』

やどや…

よくわからないけれど、

『俺なんかが泊まっていってもいいのか?』

『泊めるどころか、住んでもいいと言っていた。俺の姉とは仲がよかったらしいから、人狼のことを悪くは思ってないさ。』

それは、とても嬉しいことだ。

だけど、怖くも思った。

『もう少し、考えさせてください。』

『わかった。』

俺は、もう一度頭を下げた。

住まわせてくれる場所。

とても嬉しいことだ。

でも人狼に対して、こんなに優しくしてくれる人がいるのだろうか。

近くの公園は人がいたので、人気のない場所で弁当を食べた。

午後は川沿いを歩く。

けど、やっぱり大したものはなかった。

でも、今は歩くだけでも、それだけでもいい。

1人でいるよりは、楽しいから。

ゆっくり、景色を楽しみながら歩く。

そして、

『また、会おうね。』

手を振って、瑠璃と別れる。

琥珀と、倉庫に帰る。

でも、

『え、』

その倉庫が壊されていた。

『家が…』

琥珀は悲しそうだった。

『・・・』

シロツメクサの冠も、そこにはなかった。

『次を探そう。』

俺たちがここに住んでいたのを知って、壊したんだろう。

でも、他にも似たものはあるはず。

そして、

物置として使われていたと思われるコンテナを見つけた。

しばらく人が出入りした形跡はない。

『ここにしよう。』

ここも、長くはいられないだろうけど、問題はないはず。

それに、

最終手段も用意されている。

どうしようもなくなるまでは、

それまでは、ここにいよう。ー

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