「えっ!?テンプレを一人でしてきちゃったの!?」
また馬鹿な事を言っているのは、もちろん聖奈さんだ。
「いや、ギリギリだったから仕方ないし、そもそも今更テンプレじゃないだろ?」
「女の子を助けるのはいつでもテンプレだよっ!可愛い子は居た?」
気になるのはそこかよ…せめて心配してあげてくれ。
俺はあの子達を助けた後、すぐにエトランゼの家から転移した。
歩いてダンジョンを出たせいで、配達時間にギリギリだったからな。
俺は時間指定は守る配達員なんだ!
そしてリゴルドーでのいつもの晩御飯後の報告会がこれだ。
「聖奈のタイプは一人いたな」
「えっ!?どんな子だったの?」
「小さくて元気っ子だったな。後、赤髪だった」
メイは赤髪で肩くらいの長さ。サーヤは茶髪でポニーテール。ジーナは褐色黒髪でロングだった。
そういえば黒髪は珍しいな。どこの国の出身なんだろう?
「セイさんから知らない女性の匂いがします」クンクンッ
ミラン。君はいつから犬になったんだい?
「まさか…セイくん?」
「違うぞ!その赤髪のちびっ子が、帰り道で腕に抱きついてきただけだ!」
あれ?よく思ったらこれは弁解になってないような?
「セーナさん。ライフルでの狙撃は街中でも出来ますか?」
「待て待て!じゃれついて来ただけだ!何もやましい事はない!」
そして、俺はなんで弁解しなきゃいけないんだ?
本能か……
「話が逸れたけど、明日からまたダンジョン攻略を再開するぞ」
無理矢理だがなんとか回避しよう。
「強引ですね…怪しいですが、いいでしょう。
では、竜に魔法を当てられるということですね?」
「ああ」
「凄いです!こんなに短い期間で出来る様になるなんて、セイさんは大魔導士様です!」
エリー。多分、買い被りすぎだぞ。
俺は普通の人とは違って、魔法をほぼ撃ち放題だ。だから覚えるのや、研究、研鑽することが早いだけだからな?
だが、二つ名として大魔導士はいいな。剣聖に続いて候補に入れておこう。
ちなみに俺が問い詰められている時に、ライルは一切助けてくれなかった。
こういう時の同性メンバーだろ!?
「準備は出来たか?」
俺の確認に。
「任せて!食料は5人で二週間分を魔法の鞄に詰めたし、私も普通の鞄を持ってるから遭難でもしない限り、物資不足にはならないよ!」
「そうか。じゃあ出発するぞ!」
「おう!」「うん!」「「はいっ!」」
18階層の竜を確認した場所へ転移した。
「おかしいな」
俺の視線の先には|竜《ドラゴン》は見当たらない。
「もしかしたら|希少《レア》だったのかもな」
「レア?どういう意味だ?」
ライルの説明によると・・・
階層毎にいるキングは、時々上位種になるとの話。ここの翼竜の上位種は竜。
だから今回は通常のキング系に戻っているのでは?との事だった。
翼竜キングってどんなんだろな?
「だが、今いない事の説明になってないぞ?」
「それは別の理由だ。多分どこかの冒険者と戦闘になっているんだろう。キングも攻撃したら洞窟…ここでは穴から動くからな。
ドラゴンなら魔法を使うだろうから、ここにも何かしら痕跡があってもいいが、それがないから翼竜キングなんじゃねーかと思ってな。
まぁ全部俺の勘違いで、ドラゴンが魔法も使えずに遠距離で誰かに倒されたばかりって事も可能性としてはあるだろうが、そんな事が出来んのはセイくらいだろ」
なるほど…どっか飛んでいったなら、今入るか?
「じゃあ待とうか!」
えっ!?なんで!?
「そうですね」
「何でだ?」
わからんから素直に聞こう、ホトトギス。
「だって、ここで今飛び込んだら、もし冒険者が勝っていた場合は後ろから来るんだよ?そんなの嫌じゃない?」
「そうです。次の階層がどこまで続いているのか、何が待っているのか情報がないのに、あの絶対出くわす狭い道で他の冒険者に会いたくはないです」
なるほどな…じゃあ、待とう。
暫く後。
「戻ってきたな…翼竜が」
冒険者はやられたのかな?
「そうだね。何だかデカいね」
「はい。竜より大きいかもしれません」
そうなんだ。翼竜キングはデカい翼竜だった。
まだかなりの距離はあるが、それでもぱっと見で竜よりデカいことがわかる程度には大きい。
「翼竜っていうくらいだから魔法はつかわねーだろ。さっさと倒そうぜ?」
「そうだな…何だか怪我してるみたいだから可哀想だが…これもダンジョンの習わしだ」
俺はすぐに詠唱を始めた。
「えっ!?この距離で届くんです!?」
エリーが騒がしいが、今は魔法に集中だ。
『アイスブロック』
遠くの上空を飛んでいる翼竜のさらに上に氷の塊が出来て…それは自由落下を始めた。
「何となく出来そうな事と、無理そうな事がわかるようになった」
エリーの言葉にてきとうに答えた後・・・
「伏せろ!」
ドゴーンッ!!
俺の指示とほぼ時を同じくして、氷の塊と翼竜キングが地面へと到達した。
「来るぞ!」
ドンッ
俺達を衝撃と突風が襲う。
・
・
・
「大丈夫か?」
とりあえず誰も飛ばされてはいないようだ。
「はい。倒せましたか?」
「ああ」
「よし!行こっか?」
「はいです!」
「おう」
穴の周りは砕けた氷がガラスのように光っていた。
穴に辿り着いた俺は最終確認をして、みんなから良い返事が返ってきたので、俺から穴に飛び込んだ。
相変わらず何も無い所だ。
音すらない。
ただ白い道が続いているだけ……
一人ぼっちだと、ノイローゼになりそうだ。
「どう?やっぱり転移できない?」
「そうだな。エリーと同じく他の魔法も使えないな」
だが魔法の鞄は機能している。
何か違いがあるのか、それともそういうものなのか。
「じゃあセイくんも普通の人だね!」
そうだ。ここでは俺も普通の現代人だ。
もし敵が出て来たら、ライル一人に前衛を任せなければならない。
「じゃあライルを先頭に進もう。後は俺、エリー、聖奈、ミランの順で進むぞ」
「おう!」「「はい!」」「うん」
魔法が使えないのは不安だが、それでもライフルは使えるから大丈夫だ。
大丈夫だよね?
半日後。
「どこまで続いているんだ?」
身体強化なしで半日(6時間)も歩き続けた。靴は良いものを履いているけど、靴擦れは防げなかった。
「セイ。休むか?」
「そうだな。無理をしても仕方ないからな。みんな。一旦休もう」
ライルは平気そうだったが、俺とエリー、聖奈さんはキツくなってきていた。
ミランもライルほどではないが、平気そうだった。
「セイくん。靴下にガーゼ挟んでおいて。多少は靴擦れにいいから」
「さんきゅー」
聖奈さんからガーゼを受け取り、指示されたように靴下の中に入れた。
「これはいいですね!スッキリします」
「良かった。汗拭きシートって言うの。まだあるから当分は大丈夫だね!」
ここでは風呂どころか水浴びも出来ないからな。
魔法が使えたら水も出せるのに…それだったら転移して風呂に入るか。
サバイバルモノによくある、ラッキースケベはないようだな。
あっても困るが……
「とりあえず食事が終わったら仮眠をとろっか?」
「そうだな。俺とライルで交互に見張りをするよ」
「ダメだよ。セイくんも魔法が使えなくてキツイんでしょ?
みんなで30分づつ見張りをしたら、全員2時間は休めるからそうしよっ?」
「そうです!私もします!」
「そうか。じゃあ一人30分見張りをしよう。順番は聖奈、俺、ミラン、エリー、ライルにしよう。
順番は変更出来るからその都度言ってくれ」
魔法が使えないからライル頼みになる。休憩中にトラブルがあっても、この順番ならライルの休憩はある程度確保できるだろう。
後は適当だ!
特にトラブルもなく、休憩を終えた。
「よし。このまま次を目指そう」
俺達は先を目指した。
「ねえ。おかしくない?」
休憩後、4時間くらい経ってから聖奈さんが話しかけてきた。
「多分、食欲と睡眠欲の事だろ?」
「うん。休憩中に誰も寝なかったのは初めての場所だからって思ったんだけど、流石にね」
「ああ。腹も減らないしな。なんならトイレも行かない」
身体は疲れるし、怪我もする。だけどお腹は空かないし、眠くもならない。
汗拭きシートも汗をかいた訳ではなかったようだ。
そして、休憩の時に食べた飯が消化された気配がない。お腹がタプタプだ。
「みんな、体調はどうだ?」
「疲れていますがそれだけです」
「私も同じです!おやつがあればもっと頑張れます!」
「俺は平気だぞ」
デザートが別腹というのは本当みたいだな……
「実はある仮説があるんだけど。……」
返事を待たずにポツリポツリと話を続けた。
〓〓〓〓〓〓〓〓小話〓〓〓〓〓〓〓〓
聖奈「聖くん。この漫画面白いよ」
そう言って聖奈さんが見覚えのある漫画を渡して来た。
聖「聖奈。これは前に借りたことがあるぞ?でも、懐かしいな」
聖奈「せ、聖奈って…遂に名前で呼んでくれたんだね…」
はっ?何を言って…あれ?ここはサークルでよく使っていた部屋じゃ……
聖「聖奈…ミランやエリーは!?ついでにライルも!」
聖奈「聖くん何を言ってるの?そんな名前の登場人物はその漫画には出てこないよ?」
ま、まさか…今までのが、全部……夢…?
聖「嘘ダァァァ!!??!?!」
ガバッ
エリー「今までで一番うるさいです」
ミラン「セイさん。向こうの病院で診てもらいましょう」
聖奈「どうせミランちゃん達に会えなくなる夢でしょ?もうワンパターンだよ…」
そう…小話はいつもワンパターンなのです。