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第9話 憑いて来る
Yさんは、とある系列の喫茶店で働いている。店長ではないけれど、バイトさんを束ねているような立場の人だった。
Yさんがこの系列の喫茶店で働こうとおもったきっかけは、まだ子どもが小学校低学年ということもあり、「時間に融通が利く」、「家から近い」という理由だけだったそうだ。
働きやすい環境と、店長に恵まれたこともあって、Yさんは真面目に働き続けた。
子どもが中学校に入学したこともあり、店長から「バイトのシフト管理や食材のチェックを担当してくれないか」と持ちかけられたらしい。給料も上がるし、働く時間数も増やしてくれる、という。
Yさんはご主人と相談し、店長の申し出を受けた。
やってみて思ったのは、食材チェックが思いのほか時間がかかる、ということだったらしい。
仕事内容にまだ不慣れな頃、店長さえ先に帰ってしまって、Yさんだけが食材が保管されている倉庫にひとりだけいるような状態が続いた。
倉庫で食材をチェックし、不足分をメモしたり賞味期限を調べたりして倉庫を出たYさんは、その後店舗に戻って業者に注文用紙をFAⅩするのだが。
倉庫を出て、店舗の勝手口に向かうまで、ずっと「足音」がついてくるのだという。
食材が保管されている場所は「外倉庫」と呼ばれていたが、扉を開ければ目の前に店舗の勝手口が見える。外倉庫から店舗までは、雑草対策と防犯を兼ねて、砂利が敷かれており、歩数にしてわずか20歩程度しか離れていない。
自分が一歩足を踏み出すと、砂利を踏む足音が続くように響く。
当初、痴漢か変質者だろうか、とYさんは思ったのだが、すぐに、『客だろうか』と思い直した。
よく、閉店の看板を出していても、灯や従業員の姿が見えたら、「やってる?」と近所の住民が声をかけに来るのだ。
それだろうか。
Yさんは足を止め、一度周囲を見回してみた。
だが。
人影はない。
おまけに。
自分が立ちどまると、足音も消えるのだ。
Yさんは気味悪くなり、小走りに勝手口に近づく。
すると。
ざしゅ、ざしゅ、ざしゅ、ざしゅ、と。
あの、砂利を踏む足音が自分を追いかけてくる。
Yさんは勝手口に駆け込み、振り返らずに後ろ手に扉を閉めた。
勝手口は、厨房につながっている。
従業員も、ましてや客もいないので、フロアの照明は落としており、厨房の電気も勝手口のところと、電話とFAⅩの複合機がある事務作業用のテーブルのあたりにしかつけていない。
『……早く注文して帰ろう』
Yさんはそう思い、厨房の中を一歩踏み出した。
すると。
ぺた、り。
足音が、聞こえる。
厨房の床は、閉店後に毎日水を流してデッキブラシで擦るため、打ちっぱなしのコンクリになっている。
その、コンクリを。
自分のものではない足音が。
ぺた、り。
ついてくる。
入ってきた。
咄嗟にYさんはそう思ったという。
何が、とはわからない。
とにかく、入ってきた。
そう思って、少しでも明るい事務作業用テーブルに近づこうと、厨房を走る。
その真後ろを。
ぺた、り。ぺた、り。ぺた、り。
足音がついてくる。
Yさんは、思わず振り返る。
そこには。
「足」があったという。
「足?」
聞いていた私は思わず聞き返す。Yさんは大きく頷いた。
「足が二本。それだけ。体も、腰もないの。それが、ぺたぺた、ついてきて……」
Yさんは必死に事務作業用テーブルに向い、机の上のスタンドでその足を照らそうとしたら。
足は、消えたという。
その後もYさんが遅くまで店で仕事をしていると、「足」は現れ続けたという。
なにも悪さはしないのだけれど、気味が悪いので、店長に相談すると、別店舗への異動を調整してくれたらしい。
待遇も給料も同じままでの異動だったので、Yさんは感謝の言葉と今までのお礼を店長に告げた時だ。
「まぁ、見えない子もいるんだけどね」
思わず、「こいつ、知ってたのか」とYさんは思ったのだそうだ。