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人里離れた静寂に包まれた茶室
そこには、日本経済の「影の帳簿」を握り続けてきた老人、黒田が一人で座っていた。
「詩織君。君の父、そして君を苦しめた直樹……彼らがなぜ、あそこまで『金』に固執したか、その理由がわかるかね?」
黒田は、古びた一円硬貨を畳の上に置いた。
「この国を動かしているのは、数兆、数京という架空の数字だ。だがな、その巨大な虚像の土台にあるのは、常にたった一人の人間の『絶望』か、あるいは『献身』から生まれる最初の一円なのだよ」
黒田が語り始めたのは、30年前の残酷な真実だった。
詩織の父と黒田、そして直樹の親は、かつて同じ志を持つ仲間だった。
しかし、黒田はシステムを支配するために「悪」を選び
父は一人一人の尊厳を守るために「一円」を選んだ。
直樹は、その両者の間で引き裂かれ、黒田によって
「数字で人を支配する怪物」として育て上げられた「実験体」だったのだ。
「君の父は、死ぬ間際に私にこう言った。『一円の狂いもない誠実さは、いつか君の巨大な虚像を内側から食い破るだろう』とな。……そして今、君がその言葉を証明しに来た」
私は、父の万年筆を黒田の前に置いた。
「父が守りたかったのは、お金ではありません。…どんなに巨大な数字に飲み込まれようとしても、決して書き換えることのできない『個人の価値』です」
「直樹はそれに気づけず、数字の檻に閉じ込められて死んだ。……次は、あなたの番です、黒田さん」
「私を裁くというのかね?私を消せば、この国の経済システムそのものが不渡りを起こすぞ」
「……一円の嘘の上に築かれたシステムなら、一度破綻してゼロに戻ればいい。……海斗君」
茶室の外で待機していた海斗が、私の合図と共に
黒田が30年間管理してきた「日本の裏帳簿」の全データを
世界中の公的機関と分散型ネットワークへ一斉に解禁した。
黒田の顔から、初めて色が消えた。
彼が守ってきた「巨大な虚像」が、一円の真実という楔によって、音を立てて崩壊し始めたのだ。
「……計算違いだ」
「私は失うものを数える人生は、直樹と一緒に捨てました。……今の私の帳簿には、未来への希望しか載っていないの」
◆◇◆◇
茶室を出ると、そこには陽太と海斗が待っていた。
朝焼けが、崩れゆく古い時代の残骸を照らしている。
【残り10日】
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