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第十三話:お凛の奉仕と、荒廃した庭園
源泉が蘇り、朧月館の深層に温かな血潮が通い始めた。湯船を満たす三色の霊湯は、宿の骨組みである建築そのものにまで浸透し、腐りかけていた柱は若々しい光沢を取り戻し、壁を這うカビは清浄な妖気によって焼き払われていった。
だが、建物に命が戻る一方で、それを取り囲む「庭園」は未だ死の沈黙と、歪んだ野生の侵食に支配されていた。
「……にゃあ、旦那様。あっちの温泉ばっかり構って、お凛のことは放ったらかしだにゃ。ひどいんだにゃ」
翌朝、玉藻が宿の結界の再構築のために奥の社へ籠もった隙を突き、お凛が僕の部屋へ滑り込んできた。彼女は猫特有のしなやかな動きで僕の背後に回ると、首筋にざらりとした舌を這わせ、甘噛みをする。その瞳には、玉藻への対抗心と、抑えきれない「外への渇望」が宿っていた。
「お凛、玉藻に見つかったら……」
「大丈夫だにゃ。あの狐様は今、霊力の調整で手一杯だにゃ。それより旦那様、お庭を見てほしいんだにゃ。せっかくお湯が戻ったのに、お庭があんなに荒れ放題じゃ、旦那様のお散歩もできないんだにゃ」
彼女に手を引かれ、僕は宿の裏手に広がる庭園へと足を踏み入れ、息を呑んだ。
かつては「万霊の箱庭」と呼ばれ、四季折々の奇花が咲き乱れていたというその場所は、今や見る影もなかった。巨大化した毒々しい蔦が建物を締め上げ、歩道はひび割れ、池は黒く澱んでいる。さらには、主を失って凶暴化した小鬼や妖虫たちが、藪の中で目を光らせていた。
「ここは、お凛の遊び場だったんだにゃ。でも今は、悪い草や虫がいっぱいで、お凛の爪も届かないんだにゃ……。だから、旦那様の『力』を貸してほしいんだにゃ」
お凛は僕の腕にしがみつき、豊満な胸を押し当てながら上目遣いで見つめてくる。彼女の野生の匂いが、僕の角を刺激した。
庭園の復興。それは宿の「呼吸」を取り戻すことと同義だ。植物が妖気を浄化し、風を通すことで、朧月館は初めて真の安らぎを得る。
「……わかった。どうすればいい?」
「簡単だにゃ。お凛を、旦那様の霊力で『満タン』にしてほしいんだにゃ。そうすれば、お凛の爪はどんな悪い草も切り裂くし、お凛の吐息は新しい芽を吹かせるんだにゃ」
お凛はそう言うと、庭園の中央にある、巨大な枯れ木の根元に僕を押し倒した。
周囲の草むらから、無数の妖虫たちが羽音を立てて寄ってくる。だが、お凛が「フーッ!」と鋭い威嚇の声を上げると、それらは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「ここで、お凛とまぐわってほしいんだにゃ。旦那様の三色の霊力を、お凛のこの体に直接、ドロドロに流し込むんだにゃ……。そうすれば、その漏れ出た霊力がお庭全体に広がって、一気に春が来るんだにゃ!」
彼女は自分の着物を乱暴に脱ぎ捨てた。剥き出しになった野生の肢体。背中からは二本の尾が激しく揺れ、彼女の情動を物語っている。
僕は、彼女の腰を掴み、その熱い胎内へと自らを沈めた。
「ひゃうんっ……! あ、あああぁぁ……っ、これだにゃ! これが欲しかったんだにゃ!」
お凛は僕の首にしがみつき、背中に鋭い爪を立てた。
激しいまぐわいの衝撃が走るたび、僕の角から黄金の火花が飛び散る。それはお凛の身体を経由し、彼女の妖気と混ざり合って、大地へと染み込んでいく。
枯れ果てた土壌が、僕たちの交わりから溢れ出す「生の奔流」を飲み込み、歓喜に震えた。
「もっと、もっとだにゃ! 旦那様の熱いので、お凛を壊してほしいんだにゃ! ほら、見てにゃ、お花が……!」
彼女が叫んだ瞬間、枯れ木の枝から瑞々しい若芽が一斉に吹き出した。
僕たちが激しく腰を振るたびに、周囲の毒草は枯れ落ち、代わりに瑠璃色の花々が瞬く間に地面を覆っていく。澱んでいた池からは清らかな水が湧き上がり、濁った水面が鏡のように僕たちの姿を映し出した。
それは、玉藻との儀式のような荘厳なものではなかった。
泥にまみれ、草の匂いに咽せ返りながら、本能のままに貪り合う。
お凛の熱い吐息と、僕の三色の霊力が、荒れ果てた庭園を「百花繚乱の魔境」へと書き換えていく。
「旦那様、旦那様ぁっ! お凛、もう、溶けちゃうにゃ……!」
絶頂の瞬間、僕の黄金の霊力が爆発し、庭園全体を眩い光が包み込んだ。
光が収まったとき、そこには数分前までの地獄のような光景は微塵もなかった。
鮮やかな緑、芳香を放つ花々、そして僕たちの霊力を吸って美しく色づいた木々。お凛は僕の上でぐったりと横たわりながらも、満足げに喉を鳴らしていた。
「……やったにゃ。これでお庭も、旦那様の所有物だにゃ……」
だが、その時。
庭園の入口に、氷のような冷たい気配と、それ以上に重苦しい「圧」が立ち込めた。
振り返ると、そこにはいつの間にか玉藻が立っていた。彼女の九本の尾はゆらゆらと揺れ、その黄金の瞳は射抜くような鋭さを放っている。
「……随分と楽しげな『野遊び』をしておるようじゃな、お凛」
玉藻の声は低く、地を這うような威圧感を湛えていた。隣には小雪も立ち、無表情ながらも足元の草花が次々と白く凍りついている。
「あ、あわわ……玉藻様、これはお庭の復興のために、旦那様と相談して……」
お凛が慌てて身を隠そうとするが、玉藻は彼女を一瞥しただけで、視線を僕へと移した。
僕は叱責を覚悟したが、玉藻はふっとため息をつくと、優雅な足取りで近づき、僕の頬を柔らかく撫でた。
「……あるじよ、庭を蘇らせたことは見事じゃ。お主の霊力が、これほどまでに豊かな緑を呼び戻すとはな。お凛の浅知恵に乗ったとはいえ、宿に『呼吸』が戻ったのは事実。そこは褒めてやろう」
玉藻はそのまま僕を自分の方へと引き寄せ、耳元で熱い吐息を漏らす。
「じゃがの、妾を置いてけぼりにして、このような泥にまみれたまぐわいに興じるとは……妾の心は少々、穏やかではないのじゃ。罰などとは言わぬが……今夜は、この庭に負けぬほどの色を、妾の肌にも刻んでもらう。……よいな?」
嫉妬を湛えつつも、どこか僕の「成長」を愉しんでいるような、複雑な微笑。玉藻は僕の腕を強引に抱きしめ、お凛に向かって「勝ち誇った」顔を見せた。
「お凛。庭の手入れが終わったなら、あとは下がっておれ。これ以上の『深追い』は、正妻である妾が許さぬ」
庭園は美しく蘇り、お凛の満足げな顔があったが、それ以上に玉藻の執着は深まった。
復興の道は、快楽と独占欲が入り混じる、あまりにも濃密な迷宮だった。