テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「ふう……。これで一通り終わったかな」
シンヤは額の汗を拭うと、新居を見回して呟いた。
ミレアや業者と共に家具を設置し終えた。
今は業者たちが帰るのを見送った後だった。
「お疲れさまダ」
「ああ、ありがとう」
ミレアの労いの言葉にシンヤは笑顔を見せる。
「しかし、もう夕方か。今日の冒険者活動は中止だな」
「そうだナ。せっかくだし、夕食の準備をしようカ?」
「おお、それはいいね。でも、料理なんてしたことあるのか?」
「大丈夫ダ。任せろ」
自信満々に答えるミレア。
彼女はかつて普通の村娘だった。
その際に、多少の家事は経験しているという。
「じゃあ、お願いするよ」
「了解ダ」
「俺はどうすればいいんだ?」
「適当にくつろいでいてクレ」
「分かった」
シンヤはソファに腰かけると、ミレアの様子を眺めることにした。
(さて、どんな料理を用意してくれるんだろう?)
シンヤは期待に胸を膨らませる。
ミレアが台所へ向かう。
そして、なぜか服を脱ぎだした。
「ちょ、ちょっと待った! なんで脱いでるんだよ!?」
「えっ? だって、調理するのに邪魔ダロ?」
「いや、それにしたって……」
「もちろんエプロンは付けル。シンヤはこういうのが好きなんダロ? ケビンから聞いたゾ」
全裸にエプロン。
それは男の憧れの一つであった。
「ケビンは何かを勘違いしているようだ。俺は別にそんな趣味はないからな」
「そうなノカ? じゃあ、あたしは何を着てればいいんダ?」
「普通に服を着てくれ……。その方が助かる……」
「よく分からナイガ、シンヤが言うならそうスルヨ」
シンヤは安堵の息をつく。
放っておいたら、ミレアは何をしでかすか分からない。
その後はシンヤも手伝いつつ、料理を進めていく。
意外と言っては失礼かもしれないが、ミレアの料理の腕はシンヤの予想を超えていた。
ほどなくして、料理は完成した。
二人が仲良くテーブルに着く。
床で食べようとするミレアとの押し問答があったが、それは割愛しよう。
シンヤがガツガツと食べていく。
「美味いなこれ! 凄いじゃないか!」
「そうカ!? よかったヨ。実は喜んでもらえるか不安だったんダ」
「これだけの腕前があれば、どこに出しても恥ずかしくないな。誇っていいぞ」
「えへへ……」
ミレアは嬉しそうにはにかむ。
シンヤも思わず笑みを浮かべたのだった。
食事の後は、風呂の時間だ。
「いい湯だなー」
シンヤは一人で湯船につかっていた。
この屋敷の風呂場はかなり広い。
同時に五人ぐらいは余裕で入ることができるだろう。
水を入れ沸かすために魔石をふんだんに使っている、ゴージャスな浴槽だ。
「ふぅ……。今日は引っ越しで少し疲れたな。俺にとっては、ダンジョン攻略の方が楽かもしれん……」
シンヤはそんな言葉を漏らす。
抜きん出た魔力を持ち、さらには身体能力や観察能力にも長けている彼にとっては、迷宮の探索は苦にならない。
慣れない環境における些事の方が疲労を感じさせるものだ。
「まあ、今日はゆっくりするか。ミレアが用意してくれた晩ご飯はおいしかったし……。風呂を上がれば、後は寝るだけだな」
そう言って、シンヤは湯船から出る。
タオルを手に取ると体を拭き始めた。
その時である。
浴室の扉が開いた。
そこには裸のミレアが立っていた。
「…………ッ!?」
シンヤは驚きのあまり言葉を失う。
彼の視線は、目の前の光景に釘づけとなった。
鍛え上げられた肉体。
柔らかさと張りを兼ね備えた肢体。
形のよい胸。
すらりと伸びた足と腕。
そして、艶やかな髪……。
「……どうシタ? シンヤ」
ミレアが不思議そうな顔をする。
だが、シンヤはそれどころではなかった。
「す、すまん! 俺は何も見ていないから!」
慌てて目を背けるシンヤ。
「なぜ謝る? あたしは奴隷。シンヤの望みは全て叶える。見たいなら見ればイイ」
「いやいや! そういう問題じゃないんだってば!!」
「よく分からナイ。あたしはシンヤの体を洗うために来た。そこに座ってクレ」
ミレアが無邪気に微笑む。
「も、もう体は洗った! 大丈夫だ!」
シンヤはこの場で彼女を押し倒したい欲望を必死に抑えながら、なんとか浴室から逃げ出したのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!