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「わかりました」
二人でリビングのソファーに座る。
蒼さん大丈夫かな、まだ顔色悪いけど。
彼は、ふぅと深く呼吸をし話し始めた。
「俺がこうなったのは、高校二年生の時。初めて彼女ができた。綺麗な子で性格も明るくて……。男子からも人気があるような子だった。告白された時は、クラスも違ったし、どういう子かわからなかったから一回断ったんだ。恋愛には、小さい頃からあんま興味がなくて」
蒼さん、告白されたんだ。
高校の時の蒼さん、モテたんだろうな。かっこ良いし……。
「でもその子は諦めずに毎日話しかけてくれて、その子のなんていうか、一生懸命で明るいところに段々と惹かれていった。しばらくしてもう一度告白されて、それから付き合うようになった」
蒼さんの初めての彼女、綺麗だったんだろうな……。
「俺、部活やってたから帰ることが遅くなったりすることもあったんだけど、時間が合う時は一緒に帰ったり、どこかにご飯食べに行ったり、普通の高校生らしいデートをしてた気がする」
その時、私の心の中で何か感じるモノがあった。
なんだろう、苦しい?悲しい?
違う、羨ましいだ!
なんだろう。昔の話なのに、蒼さんと見たこともないその子が仲良くしているところを想像したらなんか、嫌な気持ちになった。
蒼さんに好きになってもらえて、一緒にどこか行ったり楽しそう。
いや、今は違う。こんなこと考えちゃダメだ。
「しばらくして、彼女から家に誰もいないからって誘われて、遊びに行くことになって。まぁ、恥ずかしい話だけどそこで初めて女の子を抱いた。彼女の方は初めてじゃないみたいだったけど。俺は初めてで緊張してたし、テンパってた。でも終わった時に大好きだよって言ってくれて。あぁ、こんな子と付き合えて良かったなって思った」
その後、何があったんだろう?
「その子とはしばらく付き合ってたんだけど、ある日一緒に帰ろうと思って隣のクラスまで彼女を迎えに行ったんだ。そしたら彼女が女友達数人に俺のことについて話していて。聞いちゃいけないと思ったんだけど、聞こえちゃってさ?イケメンだから付き合ったけど、エッチも下手だし、会話も楽しくないし、お姉ちゃんも怖そうな人だし、好きになってもらえるようにあんなに頑張る必要はなかったって。俺が聞いたことないような話し方って言うか、言葉遣いも汚いし、声質も違って。あっ、この子、猫かぶってたんだって一瞬で理解したよ。それで一気に冷めた。まぁ、姉ちゃんが怖いって言うのはなんか笑っちゃったけど」
そう話す蒼さんは、とても悲しそうな顔をしていた。
「あんな話聞いたなんて本人《かのじょ》に言えなかった。だから詳しいことも話さずに、俺から別れようって伝えて一方的に別れたんだ。向こうは、なんで?どうして?って。泣いてたけどな。俺のこと散々言ってたのに、なんでそこまで拘るんだろうなって思ったけど」
蒼さんにそんなこと言う子、許せない。
思わず口を挟みたくなったが我慢をした。
「気付いたのは別れてから数週間後くらいだったかな。なんか普通に話してたクラスのやつらが妙によそよそしいというか……。俺、自慢するわけじゃないけど、女の子から告白されることも多かったんだ。それもピタッとなくなって。なんかクラスで浮いているような感覚で過ごしてた。なんか変だと思って、一番仲良かった友達に聞いてみたんだ」
なんで急にそんなことになっちゃったのかな?
「俺、なんか変なことしたって?そしたら、ゲイだって噂が流れているって教えてもらった。男が好きだから、彼女を振ったんだって。当時は今よりも同性愛について理解がなかったし、高校生だし、余計気持ち悪がられたって言うか。誰がそんな噂を流したんだろうと思って、よく聞けば、俺から振られた元彼女が嘘の噂を流して広まったってだけだけど。その子、人気があったし、俺はどちらかと言うと人付き合いが苦手だったから、みんなその子のことを信じたよ。男子からはイケメンだからって調子に乗るな、ゲイとかオカマとか言われて、面白がってからかってくる奴もいるし。質の悪いイタズラもされて、制服とかジャージ、教科書とかも捨てられた」
何それ、酷い……。
私は言葉が出てこなかった。
「俺が精神的に弱かったってこともあるけど、それで学校に行けなくなった。毎回毎回、親に教科書なくなったとか制服がないとか言えなくて……。家族にも迷惑かけたくなかった。それからしばらく引きこもりになった」
蒼さんが悪いわけじゃないのに。全然悪くないのに……。
「とりあえず、高校は卒業しなさいって言われて、通信制の学校に通ったけど、人間不信になってたし、友達もできなかった……。俺が作ろうとしなかった。女子からは連絡先とかよく聞かれたけど、また同じこと繰り返すんじゃないかって思って断り続けてたら、それもそれで陰口言われて。そこからかな、女の子が怖いって自覚をし始めたの。急に触られたら蕁麻疹が出来るようになったのもその頃。医者に行ったら、精神的なものだって言われたし。精神的にもっと強かったら良かったのにな」
蒼さんは私に長くなってごめんと謝ってくれた。
そんな大変なことがあったんだ。
辛かっただろうな。