【一年後】
北海道支社へ飛ばされていた増田は再び神戸の鈴子のいる本社勤務になった、彼は本社に帰ってきて意の一番に鈴子の元へやってきた
「高村さん・・・今ちょっといいですか?」
鈴子はキョトン?として言った
「ええ・・・構いませんが・・・会長は本日海外出張からお戻りになられますが、出社されるのは明日かと・・・」
「それは知ってます、あなたと二人だけで話がしたかったんです」
鈴子はノートパソコンをパタン・・・と閉じて増田に向き合った
「何のお話でしょう?」
「お許しを願いたいのです」
増田が神妙に言った
「一年前に・・・俺が言った事・・・あれは俺のとんだ勇み足でした・・・いや、悪いのは俺でした、ただ会長と俺はずっと・・・俺はずっと会長の傍で仕事をやってきて・・・父親の様に慕っていて・・・それで守ってやらなきゃと思ってしまったんです」
「私の様な悪い女から?」
とんでもないと増田は手を振った
「完全に俺が間違っていました、北海道に飛ばされてからずっとその理由を考えていました、どうしても思い当たらなかったんです、ひとつのこと以外は・・・一年前にあなたに言ったことを水に流して欲しいんです、出過ぎた事を言ってしまって申し訳ありませんでした、これからは心を入れ替えて仕事をします、ですからもう地方には飛ばさないでほしいんです」
「人事異動の権利は私にはありません」
鈴子は増田に即答した、しかし増田は引き下がらなかった
「ええ、もちろんわかっています、高村さん!お願いです、これは個人的に俺が謝りたいだけなんです、俺とあなたの関係を一年前に戻してほしんです、今はあなたはこの会社に無くてはならない、素晴らしい秘書だと思っています、会長のブレーンの中でもズバ抜けている」
「私も日々、そうありたいと願っています」
必死な目で増田が鈴子を見つめる、喉が詰まって増田はもうこれ以上鈴子に何も言えなかった、じっと鈴子は増田を見つめた
ニッコリ・・・「即戦力になる増田専務が本社にお戻りになられて嬉しいと、私の方からも会長にお伝えしておきます」
鈴子の笑顔に増田はいかにもホッとした表情を見せた
「そっ・・・そうですか・・・ありがとうございます、こっこれからも一緒にに頑張っていきましょうね」
増田は安堵のため息をついて、またいなくなった
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その日の夕方、鈴子は帰宅時にいつもはバスか電車に乗るのだが、なぜかこの日は少し散歩したくて、梅田ステーションまわりの公園を歩いていた
鈴子は自分の胸に手を当てて考えてみた、定正と自分は強い補充関係で結ばれている・・・
あの人の強靭なほどのバイタリティと事業拡大の欲は、幼少時代に満たされない枯渇精神から来ている、それこそが鈴子との共通点だった
「自分の生まれて来たこの世界を少しでも良くして死んでいきたいんだ」
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鈴子の中で射精した後・・・彼は自分がもう充分すぎるほど成功しているのにまだ走ろうとしている理由を告げた
鈴子は今や、誰よりも定正の意思を受け継いでいる人物だった、もし彼から燃えるような事業欲を取り去ったら、一気に老化が進むだろう
彼を若々しく生きとし、生かしておくためには、彼の右腕となって全力で新たな事業へのハングリー精神を起こさせられるものを与えてあげなければならない
では・・・純粋な「愛」という点ではどうだろう?『イエス』でもあり『ノー』でもあった
いかなる理由でも妻帯者と関係しているのだ、こればかりは第三者にはわかってもらえないだろう、しいていば父親に寄せる愛かもしれない、だから普通の男女の仲とは少し違う・・・
目の前の芝生にピクニックシートを引いて寄り添っている学生風のカップルを眺めた
鈴子の脳裏に「雄二」の顔が浮かんだ、きっと同年代の彼とならこんな風に公園をピクニックしたり、街中を手を繋いで青空の下、健全に歩けるだろう、喧嘩もするだろう、しかしそんな異性の付き合いに鈴子はまったく関心がもてないのだ
自分は少し変わっているのかもしれない、そもそも小学生で父と兄が殺し合った過去を持つ人物がまともな人生を歩めるなんて無理な話だろう、少し変わっていて当たり前なのだ
そんな自分を定正は受け入れてくれて、育み、自分の事業ゲームの中で成長させてくれている
定正と自分は普通の男女の仲とは違う・・・もっと深くもあり、淡くもある・・・決して奪い合うものではない
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