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宮殿の奥深く、王の側室達が居を構える後宮の手前。
広がる蓮池を望む様に建てられた、離宮の一室では、女達が余人、顔を付き合わせて密談に励んでいる。
しかし、女の容貌は、この玄国のそれとは、大きく異なっていた。
褐色の肌を持つ女。緑眼白皙《りょくがんはくせき》の女。白銀《しろがね》色の巻き髪の女。
この異彩を放つ女達は、玄国が覇《せい》する陸の遥か彼方に存在する大国からの貢ぎ物。いわば、王、斉龍の端女《はしため》達である。
王は、正妃を病で失くしていた。しかし、すでに五人の側室がいた。
空座の正妃の席に目を付けた異国から、女達が送られて来たのだが、流石に、政《まつりごと》に追われる王が、異国の女まで相手にするのは、無理な話。
幸いにも、王、斉龍《さいりゅう》には、亡き正妃との間に男子がおり、さらに、各側室にも男子がいた。跡取りには、不自由していない為、余計、送られてきた女達を相手にすることはなかった。
王が相手をしない女達を、他の者が、わざわざ気にかけることはない。
たとえ、大国から送られて来たと言っても、その国は、気が遠くなるほど、離れており、また、よほどの事がないかぎり、手放した女の事にまで相手方も口を挟んではこない。
異国通しの繋がり、強いては 交易へと繋げる足掛かりとして、女を送り込んで来た、と、言うだけの話なのだ。
確かに、あわよくば、空の正妃の座に収まり、王の子供を授かり、または、嫡男、王太子の正妃にと、女達の側仕えの中には、てぐすねを引いている者もいる。
一方、送られて来た女達には、全く、そのような心持ちはなく、自国から外の世界に出ることができたと、自由気ままに、日々の暮らしを楽しんでいるのだった。
しかし、彼女らの立場は、あくまで貢女《けんじょ》。自国での地位がどのようなものであろうと、この国では、奴婢《どれい》に等しい位におかれる。
それでは、何かの時に、本国の機嫌を損ねることになりかねない。そこで、彼女達専用の位《くらい》、「一品側妃」なる品位を造出し、自由に暮らせる立場を用意した。
その立役者が、王の愛娘《まなむすめ》であり、この離宮の主、華蓮《かれん》だった。
そして、今、女達は、華蓮の話に耳を傾けている。
「どうやら、私に縁組の話が持ち込まれているようなの」
「でも、気が進まない。そうなのでしょ?」
華蓮の言葉に相づちを打つ、褐色の肌の女に、
「あら、マヤ様、お言葉をお控えになられた方がよろしくてよ」
緑眼白皙《りょくがんはくせき》の女が意見する。
「ああ、インドク様ったら、相変わらず、そつがないこと。普通は、誰でも、嫌だと思いますわよ。私など、此方へ運ぶのも、初めは、気が進まなかったわ」
と、なにやら皮肉めいた言葉を吐く女の髪は、降り積もる雪のように白銀色に輝いている。
「あら、ナスラは、ここが嫌なの?」
華蓮が問うと、呼ばれた女は、少しばかり首をかしげ、
「今は、さほどでも」
と、返した。
余りに明け透けな言葉に、女達は、クスクス含み笑った。
「確かに、そうよね。貢女などと呼ばれれば、尚更でしょう。出来るだけ、国にいた時と同じように暮らせるよう心配りしているつもりなのだけど……なかなか、難しくて」
なんと、もったいない心配りと、居る女達は、華蓮へ、頭をさげた。
「あーとにかく、その縁組というのが、何か、裏がありそうで、重鎮達を集めての閣議までが、荒れに荒れているそうなの。私が、知り得ているのは、ここまで。それで皆の力を借りたいのよ」