テラーノベル
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「……よし、これでいける」
深夜2時
リビングの隅で、私はノートPCの淡い光に照らされていた。
古いスペックのPCは、複数のタブを開くだけで悲鳴のようなファン音を立てる。
その音が直樹に聞こえないか、心臓が痛いほど脈打つ。
クラウドソーシングで見つけた、バナー制作の急ぎ案件。
ブランクはあるけれど、デザインの感覚は体が覚えていた。
数時間の作業で、報酬は3,000円。
直樹が私に押し付ける「1ヶ月の食費削減分」を、私はたった数時間で稼ぎ出した。
「……私は、無能なんかじゃない」
指先に力がこもる。
直樹に「社会経験ゼロのゴミ」と刷り込まれ、自分でもそう思い込んでいた。
でも、画面の中の数字は、私の価値がゼロではないことを証明してくれている。
そのとき
カツン、と廊下で音がした。
心臓が跳ね、慌ててPCを閉じる。
暗闇の中、寝室のドアが開く音がして、重苦しい足音が近づいてくる。
「……詩織?こんな時間に何してる」
直樹の声だ。
寝ぼけているはずなのに、その声には特有の威圧感が混じっている。
「あ、ええと…家計簿が、どうしても10円合わなくて……」
「家計簿?」
直樹がリビングの電気をつけた。
眩しさに目を細めると、直樹は不機嫌そうに私の手元にあるPCを睨みつけた。
「そんな化石みたいなPC出して。電気代の無駄だって言っただろ。どうせろくなことしてないんだからさっさと寝ろ」
「うん。ごめん、すぐ片付けるから」
私は這いつくばるようにしてPCを鞄に隠した。
直樹は舌打ちをして冷蔵庫へ向かい、ミネラルウォーターを喉に流し込む。
その背中に、昨夜見た『200万円のネックレスをつけた女』の影が重なって見えた。
「……ねえ、直樹。明日、陽太の塾の面談があるの。月謝以外に、特別講習の費用が必要になるかもしれないんだけど」
「はあ? 2万円でやりくりしろって言っただろ。足りないならお前の小遣いから出せよ。……あ、お前に小遣いなんてなかったか(笑)」
直樹は私を見向きもせず、嘲笑を投げ捨てて寝室へ戻っていった。
暗闇に取り残された私は、PCの入った鞄を強く抱きしめる。
(…私の貯金を200万も盗んだ口が、よくそんなことが言えるわね)
怒りで視界が赤く染まる。
でも、今はまだ耐えるときだ。
今の私には、奴を追い出す家も、陽太を守るための十分な資金もない。
私はスマホを取り出し、直樹のクラウドフォルダを再度チェックした。
そこには、新しい写真が追加されていた。
直樹の会社のロゴが入った封筒。
その中には、分厚い札束。
添えられたメッセージは──
『莉奈、今度の連休は温泉に行こう。接待費で落とせる旅館を予約したから』
「……接待費?」
直樹は営業職だが、経理には疎いはずだ。
もし、彼が「不倫旅行」を「仕事の経費」として会社に請求しているとしたら。
それはただの不倫じゃない。
立派な『横領』であり、背任行為だ。
私は暗闇の中で、静かに口角を上げた。
「……見つけた。あなたの息の根を止める、最高の毒薬」
直樹が私を「1円単位」で追い詰めたように。
私もあなたの「1円の不正」すら逃さない。
家計簿をつけるように、着実に、あなたの罪を積み上げてあげる。
【残り98日】