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「……優子」
廉は、苦悶を滲ませた声音で彼女の名前を零すと、薄紅に色付いた唇を奪った。
彼から唐突に肩を掴まれ、抱き寄せられた彼女は、口腔内を蹂躙されている。
「んふっ…………んんっ」
「…………優子を……帰したくない……」
唇を離し、廉は掠れた声で囁くと、顔を傾けながら唇を貪った。
「うっ…………んんっ……っ」
重なり合った唇から漏れ落ちる優子の吐息に、彼は、なおも唇を塞ごうとする。
(このまま廉さんと…………キスし続けたら……私……)
優子は廉の腕を掴み、身体を離そうと押しやった。
彼女の意思を感じ取ったのか、彼は名残惜しそうに唇を離す。
「ごめんなさい……。私…………行かな……きゃ……」
荷物を掴み直し、優子は素早く助手席のドアを開け、車から抜け出す。
「ゆっ……優子……!」
憂いを帯びた廉の眼差しと声にも構わず、彼女は前を見据え、ホテルを目指して走り去った。
ペデストリアンデッキを駆け上がり、呼吸を弾ませながら立川駅の改札前を走り抜ける。
北口の大きなオブジェの前で、優子は、息を切らしながら立ち尽くした。
二日間、一緒に廉と過ごし、彼の想いの深さに、優子は戸惑ってしまう。
(想われて嬉しいはずなのに…………悲しい……)
対極する二つの感情が、彼女の中で去来していき、彼女は湿ったような夜空を見上げた。
廉には、Hearty Beautyの次期社長という、輝かしい未来がある。
対する優子は、一生消えない犯罪者の烙印を背負い、日陰の中を彷徨い続ける人生しかない。
(彼は…………私と一緒にいては……私と関わっては…………ダメなんだ……)
互いの立場の違いを、改めて痛感した優子は、愕然とした。
休日の夜の喧騒を耳にしながら、彼女は腕時計を見やると、そろそろ日を跨ごうとしている。
「ハハッ……これじゃあリアルなシンデレラじゃん……私の場合は…………バッドエンドだけどさ……」
自嘲気味に言葉を吐き出す優子の声が、闇夜の中へ虚しく吸い込まれていく。
疲労に滲んだ足を引きずらせながら、辿々しくホテルに向かう彼女。
住まいのホテルの前に立ち、虚げな吐息を零すと、正面玄関へ踏み出す。
ガラスの自動ドアが閉まった瞬間、彼女に掛かっていた『魔法』は、煙をくゆらせながら、静かに消えていった。