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アレイシアとの婚約が決まり一週間が経った。
この一週間は地獄だった。
せっかく婚約出来てめでたいはずなのに父上の指示で、シン監視の下、ウェルから僕の再教育が行われたのだ。
スケジュール管理まで徹底され要点を一週間で頭に詰め込まれた。
質疑応答の問題、一問でも間違えるとその前後の範囲の復習……疲れた。
そのやりとりを一週間繰り返し、今日が最終日。質疑応答の問題をクリアした。
「……これで充分だと思います。まだやり足りない気もしますが……シンさんどう思いますか?」
試験終了後、ウェルがシンに確認のためどうするかを聞いた。
いや、もう条件クリアしたよね?充分だと思うよ。僕を解放してくれよ。
今回の再教育は父上からの反省しなさいという意味なのだろう。
僕の行動でアレイシアと婚約できたけど、ユベール伯爵家の評価は最悪だ。
ソブール公爵を怒らせたはずなのに何故かその御息女と婚約した。
何かソブール公爵家の弱みを握ったのではないかと黒い噂まで流れ始めたらしい。
まずそのユベール伯爵の現状について再教育が始まる前に説明をされたのだ。
全く、執事が主人を叱るって……多分ユベール伯爵家だけかもしれないな。
ま、今回の勉強の目的は僕が今後何かしでかす前に、基礎からもう一度勉強させるのが目的。
そこまで難しい内容じゃなかったのとウェルの指導方法がよかったので一週間で終わらせることができた。
「問題ないかと。……今のところは」
シンは少し考え問題ないと判断したらしい。
だけどシン……その含みのある言い方やめてほしい。わかったよ。次はこの程度で済ませないってことだろ?
流石に同じ失敗はしないさ。婚約の件は予想外の伏兵によるものだし。
誰が「感情のない人形」の正体が重度のあがり症だって想像ができよう。
「私はキアン様に報告して参りますね。アレン様、お疲れ様でした」
最後にシンは僕に微笑み声をかけてきた。
僕は部屋を出て行ったシンを見てやっと解放されたのだと思った。
例えるならシンが看守さんで僕が囚人。
監視の目は厳しくその日の出来が悪かったら父上に報告が行く。
だから、文句を言わずに僕は黙々とやり続けた。
やっと出所、これでやっと自由だ。
僕は立ち上がり上に目一杯両手を伸ばした。
「ああ…疲れた」
「アレン様、お疲れ様でした」
「もう、流石にきついよ。一週間であの量は」
ウェルはそんな僕に甘味と紅茶を出しながら言った。
僕はそんなウェルに少し恐怖を感じている。
ウェルの勉強スケジュール管理は異常だ。
僕の集中力が切れるタイミングを見計らって休憩を入れたり、飽きてきたら別の勉強内容を切り替える。
眠そうになったらコーヒーを淹れてくれる。
そのおかげで集中力が切れることなくやり切ることができた。
そんな僕にウェルは平然としながら話し始める。
「でも、やり切りましたよね?スケジュール考えるの大変だったんですよ。これも俺が5年間アレン様を観察し続けた集大成ですね」
「……なんで僕以上に詳しいんだよ」
「シンさんのアドバイスですよ。アレン様が5歳の時からあくびをするまでの時間間隔、休憩を入れるタイミング。全てメモし続け傾向を調べました」
「え?……メモって父上の報告であげる為って言ってたはずじゃ」
「そんなの嘘に決まってるじゃないですか?」
……うちの執事優秀すぎない?
ここまで来ると怖くなってくるんだけど。
お説教で立場が逆になったり、主人に詳しすぎるとか。
いつか伯爵家乗っ取られたりしないよね?
心配になってくるわ。
こんな優秀な執事、他にいないよ。
「……ウェルという優秀な人材を見出した僕の手腕はおそろしいな」
「何独り言言っているんですか?ついに勉強のしすぎで頭おかしくなったんですか?」
「ウェル口悪くない?一応僕主人なんだけど」
「確かに俺はアレン様の専属ですが、旦那様に雇われている身です。旦那様より「アレンについては君に一任するよ」とお言葉をいただいたので問題ありませんよ」
「いや、それはそれでどうかと思うけど」
ウェルに何か文句を言っても論破されることがわかったので、これ以上は何も言わなかった。
今回の一週間の日々はもう二度と問題は起こさないと決意を改めるきっかけで、ウェルには絶対に口論では勝てないと思い知らされたのだった。
こうして僕の一週間の缶詰教育は終了した。
その後、僕は部屋で仮眠をとっているとウェルが入室してきて手紙を渡してきた。
「今朝届いたアレン様宛の手紙です」
「ありがとう」
ウェルから渡された手紙を開封させると……アレイシアからのお茶会の招待状が届いた。
「なるほど。僕とアレイシア嬢の二人か」
お茶会というより、この前の婚約後の面談みたいなものか。
今日から3日後。
まぁ、二人きりの方がアレイシアも気が楽そうだな。
「ウェル、返事を書くから紙とペン、便箋を用意してもらえる?」
「こちらになります」
「ありがとう」
すでに用意してくれたらしい。その場で承諾の内容で手紙を書いて、ウェルに手渡した。
それと同じタイミングであった。誰かの足音が聞こえる。
『カツ…カツ…カツ』
うん、誰かこっちに来ているのか?
廊下からハイヒールの足音が聞こえてきた。
「アレン、入るわよ」
「わかりました」
僕の部屋に入ってきたのは母上だった。
「どうしました?」
「シンから聞いたわ。勉強会終わったんですって?……お買い物行きましょう!」
母上は上機嫌でそう言った。
内容はお披露目会で約束した一件についてだった。