テラーノベル
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ついに買ってもらった。
真新しいV.B社のトランペットのモデルは、瑠衣が学生時代に使っていたものよりも、更にグレードが高い楽器だ。
しかも、ベルの部分が銀色、所々の管が金色になっているツートンカラー。
中倉楽器本店の店員に、瑠衣が学生時代に使っていたモデルも含め、V.B社のトランペットを数本出してもらい、侑が試奏して直接選定してもらった楽器。
マウスピースも付属していたが、瑠衣が使っていたものとは違うモデルだったため、学生時代に使っていたものと同じものを追加で買ってもらった。
楽器ケースはモデルチェンジしたのか、瑠衣が学生時代に使っていた物とは違い、トランペットが二本収納できるケース。
バルブオイルやクリーニングクロス、グリスなどのメンテナンス用品一式は、楽器店の方の厚意でおまけで付けてくれた。
(ヤバい…………ヤバ過ぎじゃない……!?)
グランドピアノと楽器棚、本棚とオーディオ機器が設置されている広々とした防音室で、楽器ケースを開けたまま、楽器に穴が開くほど見入る瑠衣に、侑はフッと引き締まった頬を緩める。
指紋が一切付いていない、眩い輝きを放つ新しいトランペットに、手を触れるだけでも烏滸がましいように感じてしまう。
「…………いつまでそうやって見てるつもりだ?」
「響野先生、本当に…………ありがとうございます」
「さて、せっかくだ。四年のブランクがどんなものか、確認するとしよう」
侑が自分の楽器を取り出し、マウスピースを装着させた。
瑠衣は楽器に手を伸ばしてみるが、なかなか楽器を取り出そうとしない彼女に、侑は困惑の面持ちで見やった。
「おい九條。どうした?」
彼が瑠衣の指先を見て、小刻みに震えている事に気付く。
「お前…………手が震えてるぞ?」
どうして、こんなに手が震えているのだろう?
瑠衣は自分でもよくわからない。
四年のブランクの状態で、侑の前で吹かないとならないから?
また、学生時代の時みたいな鬼レッスンが始まると思われるから?
それとも…………楽器を再挑戦する気持ちはあるけど、勇気を出して一歩踏み出す事に戸惑いがあるから?
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