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【拝啓クラウスへ。

娘を元気にしてくれてありがとう。やはりクラウスに任せてよかった。手紙の件は分かったが、例のバカ王子の件で忙しい。まだしばらくかかりそうだ。すまない。敬具。

追伸、そちらに助っ人を派遣した。着き次第クラウスはしばらく休暇を取るといい

アレクシス=カンタール】




「……旦那様」


可能なら今すぐに帰ってきてほしい。

アイリス様とのことを早く相談したい。今日、朝からアイリス様とどう接すれば良いか全くわからない。


昨日の急なプロポーズに混乱している。

ずっと親友だと思っていたアイリス様がまさか俺を……。


……立場が違いすぎる。旦那様が許可するわけない。

ここは断るべきか……いや、アイリス様の気持ちを無碍にはできない。


悩みすぎて不調だ。


1日の大半はアイリス様のこと考えているかもしれない。


「……はぁ」

「ちょっとクラウス!またボーッとして!」

「す、すいません」


先輩執事に指摘されて初めて気がつくがフリーズしてしまったらしい。

プロポーズから日を跨いだが、気になりすぎて一睡もできなかった。

アイリス様は気にするそぶりなく……むしろ嬉しそうだ。

この前までぎこちなかったのは逆プロポーズが気になっていたからだろう。

今では元気にお過ごしだ。そんなアイリス様はマリカさんと早朝から台所に篭っているとか。

激辛料理の件があるしまた何か企んでるのか?


「……クラウス?」

「……あ、すいません」

「ちょっと休憩するか?顔色悪いぞ?」

「いえ、大丈夫です」

「そうか?ならいい。さっさと切り替えろよ?やること多いんだから」

「はい」


これ以上心配させるわけにはいかない。

切り替えて仕事をしよう、うん。だが、俺の症状は重症らしい。


ーーパリーン!

「クラウス!今日食器割るの何枚目!気をつけなさいよ!」


ーードカーン!

「ヒヤァァァ!クラウス燃えてる!服燃えてる!誰か火事だぁぁ!」


ーードン、ガターン!ガタガタガタ!

「……誰かぁぁぁぁぁ!クラウスが本棚の下敷に!!ちょっとクラウス大丈夫か?!」


……その後ミスが続き、今日はお暇をいただいた。

いや、本当に申し訳ない。みんなに迷惑をかけてしまった。

寝不足が原因だ。……たぶん。早く寝ないと。


俺は汚れた服を着替え自室に籠る。

寝巻きを着ると軽食を食べ掛け布団をかぶる。

……だが。


『クラウス……私と……結婚しない?』

「……は?!」


目を閉じると昨日の光景がフラッシュバックする。

顔を真っ赤にするアイリス様が見えると胸が苦しい。

深呼吸をすると落ち着くのだが、わからん。

どうしてこんなに胸が苦しいんだ。



今の俺はおかしい。

ここ数年は一つのミスもない完璧執事であったが今では無能の問題児に。


「……はぁ」


ため息が止まらない。

俺はまさか病にかかったのだろうか?

体調管理は完璧だったはずだ。

寝不足か?……うん、きっとそうだ。カンタール侯爵家の執事としてなんたる愚行。

よし、さっさと寝よう。


そう、無理やり自分を言い聞かせ再び睡眠を取ろうとした……その時だった。

扉からノック音が聞こえた。


「……どうぞ!」


誰だろうか?多分上司かな?

俺はベッドから起き上がり座った。


「クラウス!元気してる?」

「……アイリス様」


予想とは裏腹に入ってきたのはアイリス様だった。


アイリス様は元気に声をかけてきた。

上に乗っているものは分からないが、両手にはお盆を持っていた。

しかもかなりご機嫌のご様子だった。


「……なにしに来たんですか?」

「そんな邪険にしないでよ!おやつ持ってきたから食べましょ?」

「……な…何か毒でも入って……」

「警戒しすぎよ。そんなことしないわ」

「激辛料理食べさせましたよね?」


あら、なんだか心が安らぐ。

こうしてアイリス様と会話していると幾分か楽になる。


「……そ…それは。あの時はごめんなさいクラウス。でも、今回は大丈夫よ。……ほら!」


アイリス様はお盆をテーブルに置くとクッキーを食べた。不恰好で少し焦げていた。

それを毒味と称して食べたらしい。


……でも、複数個あるから一つ食べても意味がないような。

疑心暗鬼に見ているとアイリス様は涙目になる。

え、どういう反応?


「……正真正銘のクッキー……よかったら食べてくれない?」


あの、何故そんな不安そうなんですか?

……とにかく食べればいいのですね。


食べていつも通り反応をすれば……。


「もちろんいただきますよ。……うん。美味しいです」

「……本当に?でも、結構不恰好で……でも、マリカは喜ぶって」

「ああ、マリカさんが作ったんですか、なら安心だ。でも珍しいですね。マリカさんがミスするなんて。でも、いつも以上に美味しかったって伝えといてください」


マリカさんには後でお礼を言うか。

でも、本当に美味しい。不思議と手が止まらない。


「……ほんと?」

「嘘じゃないですって。もう完食しちゃいましたし。自然と手が進むんですよね」

「……そっか……うん、よかった」


アイリス様の顔は俯いてよく見えない。

覗き込んで様子を見ると、口角が上がり頬が染まっている。

嬉しそうだ。


「アイリス様?」


心配で声をかける。

するとアイリス様はすぐにハッとして、俺を見つめる。

瞳には熱がこもっており満面の笑みであった。


「実は……実はこれ……私が作ったんだ」

「……ま、まさか何か混ぜてないですよね?」

「気にするとこそこ!酷くない!」

「まさか遅れてくる毒とか」

「……そこまで信用ないのは……流石に傷つくんだけど」


普段通りのやりとりをしていたつもりだったのだが、アイリス様はシュンとしていた。

……気まずい。何か言わなくては。


「でも、アイリス様料理お上手ですよね。見た目から初めて作ったんですよね?今まで調理場に来たことなんてつまみ食いしに来ただけだったのに」

「……うん、ちょっとね」


……めっちゃ落ち込んでる。

さっきまでスムーズに会話できていたのに。


沈黙が続いてしまった。

そんな時、タイミングよくノック音が聞こえる。

ちょっとホッとした。

これで少し間を開ける。


「アイリス様、いいですか?」

「え、ええ。大丈夫よ」

「どうぞ!」


アイリス様に許可をもらい、返答する。

すると、入ってきたのは腰くらいの高さのある白いカートを押してきたマリカさんだった。

紅茶のいい匂いだ。


「お嬢様、お茶をお持ちしました」

「マリカさん、ご無沙汰してます」


マリカさんは入るなり扉をゆっくり閉める。

そのまま近づき俺の様子を見ると……ため息をした。

何故?


「まさか全部食べたんですか?」

「え?ダメでした?」

「今日のおやつにとお嬢様が朝早く作って唯一成功したやつでしたのに」

「ちょ!何言ってんのよマリカ!」


アイリス様は慌てて割って入る。

……そうなのか。それは申し訳ないことしたな。


「すいません」

「まぁ、いいでしょう。こんなこともあろうと代わりのものを用意してましたから」

「さすがです」


さすがはマリカさんだ。カートの上にはクッキーやらマカロンやら高そうなお菓子が置いてあった。


「それで……どうでした?」

「どう…とは?」

「クッキーの感想ですよ」


カートから視線をマリカさんに向けた時、ニヤニヤしているマリカさんと目が合う。

えーと、これはなんと答えるべきか。


「マリカの作ったものより美味しいって言ってたわ!」


悩み答えようとしたらアイリス様が自信げに発言。

いや、何故あなたが答えたのですか?あとそこまでは言ってないですよ俺。


するとマリカさんはへぇ、と俺とアイリス様を交互に見た後口角が僅かに上がる。


「そりゃ良かったですね。まぁ、特別な調味料を入れた甲斐がありましたねお嬢様?」

「え?何か入れたっけ。レシピ通り作ったんだけど?」

「何入ってるんです?怖いんですけど」


首を傾げキョトンとするアイリス様の様子を見る限り本当に入れていないらしいが、思わず俺は聞いてしまう。

すると、「それはですね」とマリカさんは前置きし答えた。


「愛のスパイスってやつです」

「……え?そ、それは」

「いや、甘味にスパイスっておかしいですよ!アイリス様何混ぜてるんですか!センスゼロですって!捉え方によっては毒同然!」


あたふたするアイリス様に俺は思ったことを口にする。


「クラウス、あなた」


あの、なんで呆れてるんですかマリカさん。

ふと、アイリス様を見るとぴたっと止まっていた。

その後ゆっくり俺に視線を向けるとーー


「……この鈍感!」


ーーバタン!

何故かアイリス様は令嬢らしからぬ全力疾走で部屋を出た。


「……えぇ」

「今のはクラウスが悪いですね。でも気にしなくていいですよ。居た堪れなくなって逃げただけなので」

「……そうなんですか」

「そうなんです」


いや、わかりませんマリカさん。

とにかく怒ってはいないんですね。そう言うことにしておきます。


「さ、お嬢様は無視してお茶でも飲みましょうか」

「……いいんですかね」


そう言うとマリカさんは慣れた手つきで紅茶をティーカップに入れる。

ソーサーに乗せると俺に渡してきてくれる。俺は受け取ると匂いを堪能した後、ゆっくりと飲んだ。


「……美味しい」

「隣国の茶葉です。高級らしいんですよ?お嬢様が旦那様からいただいたものらしいです」

「え、飲んでいいんですか?てか、飲んじゃいましたよ?」

「これで共犯者ですね……うふふ」

「……図りましたね」


棒読みで笑うマリカさんも自分で紅茶を淹れ、近くの席に腰掛けると飲み始めた。


「安心を。お嬢様から許可いただいてますから安心してください」

「そ……そうですか」


マリカさんは笑っていた。

少しドキリとした。悪戯が成功みたいな顔してるし、ここ数年はなかったけど、昔良くやられたな。


それにしても二人で飲むなんてお茶の稽古以来かもしれない。

昔、マリカさんにはアイリス様のお世話のため、練習に付き合ってもらったことがある。


「スッキリした顔してますね」

「そうですか?」

「ええ、朝なんてこんなに眉間に皺寄ってましたし」


マリカさんは大げさに自分の眉間に皺を寄せた。


「まぁ、スッキリしたのは確かです」

「それはお嬢様と会話ができたからでは?」

「……ま、まぁ」


全てお見通しか。

確かに今アイリス様と話して気が楽になった。初めはどう接すればいいか迷ってたくらいだしな。


「何迷ってるのですか?いやではないのでしょ?」

「……まさか昨日のこと知ってます?」

「ええ、大方。お嬢様から相談受けて日取りと台詞決めたの私なんですから?」

「……」


マジかよ。

なんでアイリス様はマリカさんに相談してまで。


「それほど失敗したくなかったみたいですよ。だから、私に相談してまで」

「俺の心読むのやめてくれません?」

「わかりやすいあなたが悪い。ポーカーフェイス下手になりましたね最近」

「……すいません」

「何がそんなに気に食わないんです?受け入れればいいのでは?」

「そう簡単に言いますけど、立場が違いますし旦那様が許すかどうか」

「あなたはどう思ってるんですか?」

「ですから、立場がーー」

「あなたの気持ちを聞いてるんです」

「……」


聞かれて言葉が詰まる。

俺の気持ち……。

昨日から胸のモヤモヤが溜まる一方だった。

でも、さっきアイリス様と話している最中らモヤがなくなってクリアになっていた。


「……人に話すだけでも気持ちの整理がつくこともありますよ?」


このモヤモヤ感は落ち着かない。

俺はマリカさんの言葉に首を縦に振った。

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