テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
そんな、本人すら自覚していないような身体の些細な変化に気づいて
先回りしてケアしてやれるのも、同じ屋根の下で暮らしている俺だけの特権だった。
ベーコンの旨味と薫香が残る同じフライパンに、今度は有塩バターを小さじ1ほど滑らせる。
ジュッ──と小気味いい音が響く中
予め塩コショウをほんの少しだけ混ぜておいた溶き卵を流し込んだ。
火加減は弱火から中火の間。
卵が急激に固まらないよう、木ベラを使って外側から内側へと
ゆっくりと大きな円を描くように優しくかき混ぜていく。
固くなりすぎないよう細心の注意を払っていた。
純一は、固まった卵焼きよりも、口当たりの滑らかなスクランブルエッグを好む。
だからこそ、卵がまだ全体の七割ほど半熟で
ふわふわとした優しい形を保っている絶妙なタイミングを見極め素早くコンロの火を止めた。
チーン、とトースターの軽快な音が静かなキッチンに響き渡る。
こんがりと絶妙なきつね色に焼き上がった食パンを素早く取り出し
熱いうちに手際よくバターを薄く滑らせた。
その上から、先ほどのアボカドをバターナイフの背で丁寧に潰しながら
トーストの表面へ緑の絨毯のように塗り広げていく。
鮮やかな緑の上に、みずみずしい赤のトマトスライスを美しく並べ
先ほどしっかり油を切っておいたカリカリのベーコンを重ねる。
仕上げに塩と粗挽き黒コショウを軽く振り、手でちぎったバジルの葉をパラパラと散らした。
そして最後に、バルサミコ酢をほんの1、2滴落とす。
このわずかな酸味とコクが、全体の風味を劇的に引き締めてくれるのだ。
最後に、完成したふわふわのスクランブルエッグを別皿に盛り付けていた
そのとき
背後から、パタパタと微かな足音が聞こえてきた。
香ばしいトーストの風味や、自動でドリップされ始めたコーヒーの匂いに釣られたのだろう。
寝室からトボトボと歩いてきた純一が
まだ眠たげに細い指で目をこすりながら、キッチンの入り口に佇んでいた。
寝癖で少し乱れた髪のまま、くんくんと鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ姿は
本当に小腹を空かせて飼い主の元へやってきた子犬のようだ。
愛らしさが限界突破しそうで、胸が痛い。
「りひとさん…おはよお、って!お休みなのにこんなに早くからご飯作ってくれたの…?」
「純一、おはよ。うん、ちょうど今できたところだよ」
胸の奥から溢れ出そうになる愛おしさをどうにか大人の余裕で隠しながら
焼き上がった特製のオープンサンドをナイフで半分にカットし
それぞれの皿へと美しく盛り分ける。
サイドにはプレーンヨーグルトを添え
純一がスプーンで食べやすいように小さくカットしたバナナと、彩りのベリーを散らした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!