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猫塚ルイ

#ホラー
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深夜二時
ブルーライトに照らされた私の指先は、ささくれだらけだった。
「結愛さん、これ明日までにまとめておいて。簡単でしょ?」
昼間、後輩の香織がデスクに置いた資料の束を思い出す。
自分のミスで納期を遅らせたくせに、謝罪もなく仕事を押し付けて定時に帰った彼女。
それを見ても見ぬふりをした課長の、脂ぎった顔が脳裏に張り付いて離れない。
────死ねばいいのに。
心の中で何度繰り返したかわからない言葉が、喉の奥までせり上がってくる。
でも、それを吐き出す場所はどこにもない。
SNSの裏垢でさえ、誰かに特定されるのが怖くて
結局「今日も一日お疲れ様」なんて当たり障りのない言葉を投稿して、すぐに消した。
そんな時だった。
スマートフォンの画面に、パステルカラーの柔らかな広告が表示されたのは。
『誰にも言えない秘密を共有すると、ストレスが消える。匿名交換日記アプリ───UnRe』
「……アン、リ?」
縋るような思いで、気づけばインストールを終えていた。
設定は簡単だった。
名前は適当に名前のy、アイコンも初期設定のまま。
画面には「今の気持ちを綴ってください。相応しいパートナーをお繋ぎします」という文字が浮かんでいる。
私は、震える指でキーボードを叩いた。
『仕事が辛い。理不尽なことばかり。私をサンドバッグだと思っているやつらが、いなくなればいいのに。消えてしまえばいいのに。本当の私はもっと、真っ白な場所で息をしたいだけなのに』
書き終えて送信ボタンを押すと、画面が淡く光り、一分も経たないうちに通知が届いた。
【パレットさんから日記が届きました】
早い。
どうせ定型文の励ましだろう。
そう思いながら開いた画面には、私の荒んだ心に、じわりと染み込むような言葉が並んでいた。
『yさんの日記、受け取りました。
あなたは優しすぎるから、周りの汚れを全部ひとりで被ってしまうんですね。
そんな真っ白なあなたが汚されていくのが、私も自分のことのように悲しいです。
ここでは、何を言っても許されますよ。
あなたの毒は、私が全部預かります。
明日からは、少しだけ心が軽くなっているはずです。』
「……パレット、さん」
不思議だった。
私の本名こそ教えていないのに、まるで私の魂を直接呼んでいるような、そんな錯覚。
張り詰めていた糸がプツリと切れ、私はスマートフォンの画面を胸に抱きしめて泣いた。
この場所だけは、私の味方だ。
この「パレット」という人だけは、私の汚い部分を全部愛してくれる。
画面の中の、優しいパステルカラーがゆっくりと点滅している。
それがまるで、獲物を見つけた怪物の「瞬き」のようであることにも気づかずに
私は深い眠りに落ちていった。
◆◇◆◇
その翌日
出社した私を待っていたのは
いつも通り怒鳴り散らすはずの課長が「階段から転落して救急搬送された」というニュースだった。