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その夜。
澪は眠れずに、ひとり縁側へ出ていた。
月が静かに照らし、風がそっと頬を撫でる。
(⋯⋯朧さんと過ごす日々が、こんなにも胸を締めつけるなんて⋯⋯)
嬉しいのに、どこか不安で、胸がざわつく。
そんな時──
「澪さん」
背後から、優しい声がした。
朧さんは、いつも私が不安な時に私の前に現れてくれる。
「眠れないのですか」
「⋯⋯はい。なんだか⋯⋯胸が落ち着かなくて⋯⋯」
朧は澪の隣りに座り、そっと肩に羽織をかけてくれた。
「夜は冷えます。風邪をひいてしまいますよ」
「ありがとうございます⋯⋯」
朧は澪の横顔を見つめ、少しだけ目を伏せた。
「⋯⋯私も、眠れませんでした」
「え⋯⋯?」
「あなたのことを⋯⋯考えていたからです」
澪の心臓が跳ねる。
「澪さん」
朧は少し迷うように、けれど決意したように言葉を続けた。
「私は⋯⋯あなたを守る存在であるはずなのに⋯⋯時々、不安になるのです」
「朧さんが⋯⋯不安に⋯⋯?」
「はい。あなたが私から離れてしまうのではないかと⋯⋯
そんな考えが頭をよぎると⋯⋯胸が痛むのです」
澪は驚いて朧を見る。
(⋯⋯朧さんが⋯⋯そんなふうに思っていたなんて⋯⋯)
澪はそっと朧の袖を掴んだ。
「離れません⋯⋯私は⋯⋯朧さんのそばにいたいです」
朧は驚いたように目を見開き、そして静かに微笑んだ。
「⋯⋯その言葉だけで、救われます」
風が吹き、澪の髪が揺れた。
朧はその髪を指先でそっと整え、耳の後ろへかけてくれた。
「澪さんの髪は⋯⋯月の光に照らされると、とても綺麗です」
「そ、そんな⋯⋯」
「本当です。見惚れてしまいます」
澪は顔を赤くし、思わず朧の肩に寄りかかった。
「⋯⋯朧さんのそばは⋯⋯落ち着きます」
朧は驚いたように目を瞬かせ、そして澪の肩をそっと抱いた。
「⋯⋯私もです。あなたが隣りにいると⋯⋯心が静かになります」
ふたりの距離は、自然に、ゆっくりと近づいていく。
「澪さん」
「⋯⋯はい」
朧は澪の頬に手を添え、そっと顔と近づけた。
「触れても⋯⋯いいですか」
「⋯⋯はい」
朧は澪の唇に、ゆっくりと、優しく触れた。
昨日よりも少し長く──でも、けれど深すぎない、二人の気持ちが重なるようなキス。
澪は目を閉じ、朧の温かさを感じた。
離れたあと、朧は澪の額にそっと唇を落とした。
「毎日澪さんに触れていないと⋯⋯気が済みません」
朧が急にそんなことを言うので、澪の顔は再び赤くなる。
「澪さん。あなたが愛しいです」
朧が、何回も言ってくれた台詞──。
何回言われても、澪は胸が跳ねる。
「⋯⋯朧さん⋯⋯私も⋯⋯です⋯⋯」
──夜風がふたりを包み、月明かりが静かに照らしていた。