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静かなる獣、目覚めの音

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静かなる獣、目覚めの音

4 - 第三章:本能の境界線

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2025年07月22日

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第三章:本能の境界線
翌日、いつもと変わらないふりをして現場に入ると、最初に目が合ったのはテヒョンだった。


「…顔色、悪くない?」


「そう?メイクしてないだけだよ」


軽く笑って返すミンジュに、テヒョンは眉をひそめたがそれ以上は何も言わなかった。

彼もまたSクラスのDom。それでも、ミンジュの“真実”には気づいていないようだった。


──まだ、持ちこたえられる。


そう信じて、いつも通り仕事をこなす。だが、ふとした瞬間に視線を感じる。


スタジオの隅、トレーニングルームの入り口、車の窓越し。

──必ず、あの眼差しがそこにある。


「ヌナ、コーヒー、これどうぞ」


何でもない顔で近づいてきたジョングクが、ボトルを差し出してくる。

「ありがとう」と受け取るが、指が少し触れただけで、また心拍数が跳ねた。


「無理に飲まなくてもいいですけど…ヌナ、最近ちゃんと食べてないですよね」


「…見てたの?」


「俺、けっこう見てますよ?ヌナのこと。気になるから」


にっこりと笑ったその表情が、ひどく無邪気に見えて、逆に怖かった。


「ジョングガ…あのね、これ以上深入りしないで」


「なんでですか?」


「あなたには関係ないから」


ミンジュがそう言うと、ジョングクの表情が一瞬だけ翳った。


「俺のこと、避けてる理由って…もしかして、バースのことですか?」


──心臓が跳ねた。


「ちが──」


「ヌナがSubなの、もう分かってますよ。俺、昨日ので確信しました」


そう言ったジョングクの瞳は、いつもの年下の後輩のものではなかった。

SSクラスのDomが、本能で“つがい”を察知した時の目──それだった。


「でも、ヌナが嫌がるなら、無理には近づきません。…ただ」


「……ただ?」


「俺からは、もう見ないふりはできません。

ヌナの匂い、ヌナの呼吸、俺の体が反応してる。止められないんですよ。どうすればいいか、教えてください」


その声には、支配ではなく“苦しさ”が滲んでいた。


ジョングクも、戦っていた。

自分の本能と。ミンジュという存在に“惹かれてしまったこと”に。


「ジョングガ……」


言葉が出なかった。

代わりに喉の奥が焼けるように熱くなって、なぜか涙が出そうになる。


「俺、ヌナが嫌じゃなければ…ただ、隣にいるだけでもいいんです。

だから、もう…そんなふうに自分のこと、全部隠さないでください」


ミンジュの中で、何かがひび割れた。


それは理性か。自制か。

あるいは、心を縛っていた「恐れ」そのものかもしれない。


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