「_暗和…さん……?」
ふと気がつくと 彼女が首を傾げながら
僕の瞳の中を覗いていた
彼女の瞳の中は…
平穏が潜んでいて穏やかに波をたてる海に近く
とても_ 哀しそうな瞳だった
「体調でも……崩されましたか?」
打撲だらけの腕を無理矢理動かしながら
僕の額に手を当てた
「…熱は…なさそうですね」
僕の額に当てていた手をおろし
再度 首を傾げる
「…暗和さん…生きてますか?」
僕の目の前で手をぶらんぶらんさせる
「…あはは……大丈夫 死んでないよ」
僕は、口角を柔らかくあげ
仮面を被った
「というか 彩香さんの方が重症だからね?」
彼女は、『あっ』とした顔で 地面に体操座りをする
「…病院……イヤです… 」
むすっと頬を膨らませ
先程の儚い印象とは正反対の可愛らしい動作だ
「…じゃあ 近くの公園で 手当しよっか」
「……良いんですか…?」
不思議そうに動揺している
「だって…その怪我じゃ家帰れないでしょ…?」
彼女は、「はっ!」と我に返り 自分の打撲だらけの酷い身体を見つめた
「……そう…ですね ありがとうございます…」
苦虫を噛み潰したような顔をしながら顔を背け
自分の身体をぎゅっと抱きしめた
そもそも 何故この子がこんなに怪我をしているのか
何故 こんなに哀しそうな顔をするのだろうか
やっぱり……僕には
「分かんないや」
「……え?」
気が付くと 彼女は、哀しそうな瞳を揺らし
首を傾げた
「……なんでもないよ」
へらっと笑って誤魔化した
そう 心の痛みを笑顔の痛みで隠しながら
昔ながらのレトロな公園
ピンク色の少し錆びた鉄の滑り台に
最近 塗り替えたと思われる 赤色のブランコ
木で出来たベンチは、少しきしんでいて
座る度に悲鳴をあげる
「彩香さん…大丈夫? 痛くない?」
きゅっと音を立て
蛇口から出てくるのは 透明な水
彼女の 鮮明な血と混ざると
まるで
赤い絵の具を溶かした 色水みたいになる
「っ……だい…じょうぶ…です」
眉を顰め 痛みを我慢している彼女の顔は
なんとも複雑さを感じ取れた
小鳥のさえずり
風が歌う音
街から聞こえてくる 沢山の雑音
哀しげに笑う青空
それだけで充分だった
彼女の怪我を包帯で巻いて隠す時の
無色透明な僕の感情は
それだけでも読み取れた
「……よし 手当て終わったよ あんまり激しい運動しないように…ね?」
「分かりました」
首を縦に振り
包帯に滲んでいる血ををちらほら見ている
「…彩香さん…一つ聞いてもいいかな?」
僕は、淡々な口調で彼女に問う
「…は、はい……」
彼女の額から一粒の汗が流れ落ち
アスファルトの地面に小さな水溜まりを創る
「……その怪我…どうしたの?」
僕は、誤解されないように
成る可くゆっくりと聞いた
「…っ……やっぱり 気になります…よね」
目線を逸らし 気まずそうに口を開く
「…実は……階段から落ちてしまって…」
「………え?」
「や、やっぱり 驚きますよね?!
で、でも押されたわけじゃなくて…!
偶々 足を踏み外してしまって…!」
「…ね、寝不足…だったの…?」
彼女は、顔を少し赤らめ こくんと頷いた
「…ふふっ……そうなんだね ちょっと驚いちゃったよ」
空を見上げると
太陽が、とても眩しくて
そうか…彼女は、元々こういう性格だということを分からせてくれた
「暗和さん…もし良ければ 連絡先交換しませんか?」
本当に急なお誘いだったけれど
僕は、ズボンのポケットから携帯を取り出し
口元を緩めた
「良いよ 交換しよっか」
これが人には笑っていると錯覚させる事が出来るのか
それとも 愛想笑いに見えているのか
それは、見ている相手にしか分からない事で
僕自身には、よく分からない
でも…笑えていると良いなと思ったのは、
何故だろうか…?
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